第45話 オズウィン砦の夜(3)
ローザが砦内部に戻ってから数分が過ぎた頃だった。体が冷え切ってしまう前に、そろそろ自分も中に戻ろう。そう思ったボクは一番近くの出入り口に足を向けた時、砦内部から微かに、女性のものらしき悲鳴が聞こえてきた。
ボクはそれを耳にした瞬間、すぐに砦内部に戻り、声の主を探してあてもなく必死に走り回った。最初はタンタンタンと、自分の乾いた足音だけが反響して聞こえていたが、次第に通路のあちらこちらから人の姿を見かけるようになり、段々と騒がしくなっていった。
そして、自分の足音が他の物音に埋没するようになった頃、数十人もの兵士や冒険者らしき者達が集まっている場所に辿り着いた。
「おい、悲鳴が聞こえたぞ。何があったんだ、説明してくれよ!」「狭いよ。どうしてこんなに人が集まっているの?」「おい、そこどいてくれよ。通れないだろ!」「『鋼鉄の盾』の人達がさっき、砦の門を全て封鎖するって言ってた」「えっ、もしかしてこの先が立ち入り禁止になったのと関係あるんじゃないの!?」
大勢の人間が通路に密集して、あれやこれやと好き勝手に文句を口にしていた。ボクは密集している人間を掻き分けて通路を進んでいくと、『鋼鉄の盾』の衛兵達が一列に並んで通路を立ち塞いでいた。
「あ、いたいた。あんたさっきの、確かムラカミって名前だったよね。ローザもあんたのこと呼んでるし、あたしと一緒にちょっとこっちに来てくれないかしら?」
立ち入り禁止になった場所の手前で足止めされて、何もできずに立ち止まっていると、クロミアがボクを足止めしてきた衛兵達の後ろから現れて、立ち入り禁止である場所の奥へと強引に引っ張っていった。
彼女に連れてこられた先にはローザとレウニグス、そして、数日前に依頼の手紙を届けに来た不幸な兵士がいた。三人の足元には黒色の布が何かに覆い被さっていた。周囲には点々と血痕が残っていることから、黒色の布が何に覆い被さっているかすぐに分かった。
「ローザ、状況は?」「被害者は若い女性の冒険者。死因は出血死で、ほぼ即死よ」
ボクの問いかけにローザは素早くそう答え、黒色の布の端をつまんで少しだけめくり上げると、そこには黒い液体が切っ先に付着しているナイフが落ちていた。
「被害者は殺される前に、このナイフで抵抗したみたいね。私が魔法で調べた結果、このナイフに付着している黒い液体は間違いなく、魔法生物『パラサイト・リーフ』のものよ」
付着している黒い液体の正体を知ると同時に、ナイフから少し離れているのに、あの腐った泥のような独特な臭いがしてきたような気がして、ボクは顔をしかめてナイフに付着している黒い液体を見つめた。
「これ以上の門の封鎖は無駄でしょうな。ついさっき私の部下から、事件発生から門を全て封鎖する間に、防壁の上から外に向かって飛び下りた不審な人影を見た者がいる、という報告がありました」
レウニグスが苦々しい顔でそう言うと、クロミアもしかめっ面になりながら部下に対して手短に指示を出した。
クロミアの指示から数分後、通路の立ち入り禁止と門の封鎖は解除された。しかし、この事件は勝利の余韻を壊すには充分だった――。
次回は2月27日に公開予定です。
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