第43話 オズウィン砦の夜(1)
日が沈んで鈍色の雲が霧散し、満天の星空が広がる中、オズウィン砦内部の食堂と北の広場で勝利の宴が始まった。まず最初に戦死者への鎮魂の祈りが捧げられ、それからすぐに賑やかな宴の場へと変わっていった。
やがて宴に参加している者達が泥酔し始め、宴の場が乱痴気騒ぎの場へとなっていったので、嫌気がさしたボクはその場を離れて防壁の上で星空を見上げていた。
「あら、貴方も来ていたのね。こんばんは、今夜の星空は一段と綺麗ね」
ローブの裾をゆらゆらと揺らして微笑みながら、ローザは防壁の上に姿を現し、ボクの隣に立って黄金色の瞳で星空を静かにじっと見つめた。夜空の月と星は彼女の銀髪と白磁のような肌をより美しく輝かせる。
ボクも再び星空を見上げるとそのまましばらくの間、遠くから聞こえてくる宴の喧騒を耳にしながら、宴が始まる前にローザから言われた言葉を思い出していた。
『故人の死を悼みつつ、同時に自分が今生きていることを喜び、その生を全うすることを誓う。それがこの世界における故人への敬意の表し方である』
宴を楽しむ彼ら彼女らも心の中では、今日の戦いで命を落とした戦友達を偲んでいるのだろう。――とはいえ、無理矢理酒を飲ませようとしてきたり、昔の武勇伝を聞かせようとしてくるのには、さすがに困ったものだったが。
「おや、これはお邪魔虫だったかしら?」
クロミアは鎧姿のまま小柄な体格に似合わない、のっしのっしと風格のある足取りでやってきて、ボクとローザに陽気に話しかけてきた。
「いえ、そんなことはありませんよ。お疲れ様です、クロミアさん!」
ボクは慌てて姿勢を正すと、可能な限り丁寧な言葉遣いで返した。ローザも妙に落ち着いた様子で会釈した。
「ねえ、いきなりなんだけどさ。そこのあんた、ムラカミとかいったっけ。あんたはあたしのこと、何歳くらいに見える?」
全く予想していなかったクロミアの突然の質問に、質問してきた彼女自身が意地の悪い笑みを浮かべているのにも気がつかないまま、ボクは頭を抱えて必死に考え悩んだ末にこう答えた。
「二十歳から三十歳くらい、でしょうか?」
恐る恐るクロミアの反応を窺ってみると、彼女は腹を抱えて笑い、ローザもボクから顔を背けて口元を隠して、「ごめんなさい」と、一言謝ってから、笑いを堪えるために肩を震わせ始めた。
「残念、不正解です。答えは五十歳でした。いやあ、最近の若い子は驚いてくれる子が多いから、からかい甲斐があるわ」
「クロミアさんはドワーフ族なの。だから、私達人間より見た目がとても若いのよ」
クロミアの実年齢を知って驚いたボクは、本当に久し振りに『制御』せずに、怒りを爆発させてやろうかと思った。しかしその前に、クロミアの言葉に対してある疑問が頭の中に浮かんだ。
「最近の若い人に多いということは、昔は少なかった。つまり、昔はドワーフ族のことをよく知る人間が多かったとも言えますよね?」
ボクが頭の中に浮かんだ疑問をそのまま口に出すと、クロミアは目を丸くして、それから寂しげに微笑みながら、セルモンド山岳の麓の森林に目をやった。
「長い話になるけど、あんた達は良いのかい?」
ボクとローザは何も言わずに真剣な表情で頷いた。防壁の上まで聞こえてくる宴の喧騒を、どこか別の世界の出来事のように感じ始めていた。
次回は1月30日に公開予定です。
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