第38話 オズウィン砦(1)
鉛色の空の下、肌を刺すような北風が吹き荒れる中を、何台もの馬車が長蛇の列を作って、雪が溶けてできた泥をはねながら、ノースブルク村からオズウィン砦に向かっていた。その中の一台にボク達は乗っていた。
ボクが乗っている馬車の中には『青い翼』のメンバー以外、誰も乗っていない。それだというのに、ただ黙って外の風景をじっと眺めたり、何度も武器の点検をしたりしていた。
「ここってさ、本当に自然豊かだよね。私、スキーとかしてみたい!」
「そうね、今まで私達は北西部しか行ったことがないし、この依頼が終わったら、北部の色んなところに観光しに行きましょう」
「よっしゃ、だったらスノウリング村にしようぜ。あそこは安全に雪遊びができる場所と、有名な温泉宿があるからな!」
「ボクは港町のノース・ジブラツィヒが良いな。ああいう場所はあらゆる文化や技術が集まってくるから」
沈黙を破る花野の発言をきっかけに、ボク達は明るい表情で自分の未来への願望を次々に口にし始めた。
しばらくの間、馬車の中でそんな穏やかな時間を過ごしていると、どこからともなく声が聞こえてきた。どうやら、オズウィン砦が目に見える地点まで進んでいたようだった。ボクはオズウィン砦の防壁を見上げた。
ノースブルク村の防壁のような、旅人を迎え入れる温かみのある赤色とは違う、来る者全てを威圧する硬く冷たい灰色が、ボク達の心に緊張と重圧を与えてくるのを感じた。
重々しい音と共に開かれた門の奥に続々と馬車が入っていく光景は、ボクにはまるで巨大な鋼鉄の怪物に人間が次々と飲み込まれていくかのように見えた。
「――生き残るよ」
自分に言い聞かせる独白に近いボクの言葉に、ボク以外のメンバー全員が静かに頷いた。そして、ボク達を乗せた馬車がゆっくりと門の奥へと入っていった。
砦の中は馬車から降りた北部各地の冒険者と兵士、民間人からの志願兵、さらにその中に変身した魔物が紛れ込んでいないか、身体検査をしている砦の衛兵が入り混じり、混沌とした状況に陥っていた。
身体検査の順番待ちをしている間、ボクは入り混じる人の流れを観察していた。冒険者は装備から十人十色の個性を出していた。各地から集合した兵士と砦の衛兵は規格化された装備で、逆に集団としての統一感を演出していた。志願兵は見るからに貧相でどうにも頼りなかった。
そんなマーブル模様の人混みの中に、ボクとほとんど同じ年齢であろう一人の少年を見つけた。年齢だけの問題であったならば、それでその少年のことをボクは気にしなくなっただろう。
しかし、ボクはその少年から目を離せなくなった。似ているのだ、かつていた世界の唯一の親友に。服装こそ冒険者らしいものに変わっていたが、浅黒い肌にがっしりとした体格と大らかさを感じさせる笑みは、記憶の中にある彼と全く変わっていなかった。
「大野、生きていたのか!」「おお、村上。久しぶりだな!」
ボクの存在に気がついた大野は、これまたこの世界に来る前と変わらない、豪快で親しみやすい笑みを浮かべながら、ボクと力強い再会の握手を交わした。
次回は11月7日に公開予定です。
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