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第36話 生まれ故郷は

 寒さの厳しい冬季といえど、時刻が正午にもなれば、快晴の空の太陽が寒さを和らげてくれていた。


「お父さん、お帰りなさい。レンとムラカミくんもお疲れ様」


 ローザは村長の家に帰ってきたボク達に気がつくと、雪かきの手を止めて、父親とそっくりな穏やかな微笑みでボク達を迎えた。


「おう、そっちもお疲れ様。なあ、聞いてくれよローザ。今日やっと村長に勝てたんだぜ!」


「あら、そうなの。おめでとう。――本当に、強くなったのね」


 嬉しそうに報告するレンに対して、ローザはどこか複雑そうな笑みを浮かべた。チームの一員としてはレンの成長は喜ばしいが、娘としては父親のローグマンが負けたのはやはり複雑、といったところだろう。


「うんうん、驚くべき成長速度だ。だから明日からはレンくんにだけ、剣と魔法の両方を使って相手してあげよう!」


「ちょっと待ってくださいよ村長、いくらなんでもそれは大人げないっすよ!?」


 あくまでにこやかな顔の村長の発言に、レンは慌てふためきながら抗議した。おろおろするレンの姿を見たローザは、次第に明るい表情になっていき、やがて「ふふっ」と、笑みをこぼした。


 ボクは三人のそんなやりとりを遠巻きに眺めていると、花野もボクと同じように、しかしどこか寂しそうに目の前の光景を見ているのに気がついた。


「どうしたの、花野さん?」


 ボクは花野に小声で話しかけると、花野はまるで夢から覚めたような顔になって、そして再び寂しそうな表情に戻った。


「村上くん……。私ね、ちょっと色々考えちゃって……。――私達って、もうああいうこととかできないんだな、とか」


 彼女の視線の先には、一緒に楽しそうに笑うローグマンとローザがいた。ここでようやくボクは彼女の言葉の意味を理解した。


(ああ、そうだ。ボク達はもう、元の世界の人達とは会えないんだ――)


 厳密にはこちらの世界に召還された者とは再会の可能性が残っているが、召還されてすぐに命を落とした田村以外のクラスメート全員が、この過酷な異世界で現在まで生き残っていると考えるのはあまりにも楽観的過ぎるといえるだろう。むしろ、全滅していても不思議ではない。


 元の世界が手の届かない遠い場所になってしまったことを改めて実感していると、視界が少しづつぼんやりと滲んできて、やがてローグマンとローザの幸せそうな姿がよく見えなくなってしまった。


 それでもボクは胸の内を掻き乱す感情を『制御』して、可能な限り冷静な口調で花野に、そしてボク自身にこう言い聞かせた。


「この世界で、この場所で、手に入れたものを大切にしよう。今はそれが一番だと思うし、そうするしかないと思う」



次回は10月10日に公開する予定です。

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