第33話 事件の後に(1)
事件解決から約二時間後、レウニグスを地下室から屋敷の寝室に移して安静にさせていたところに、顔面蒼白の兵士と共に身の毛もよだつ情報が飛び込んできた。それは、容疑者のポンペオのあまりにも凄惨な死だった。
兵士からの報告を聞いて急いでノースブルク村警備隊の施設に足を運ぶと、ボク達は疲労の色が濃い花野を別室に置いて、真っ白なシーツで全身を隠されたポンペオの遺体と対面していた。遺体安置室は遺体の腐敗を防止するための、魔法による冷気と薬品の匂いが満ちていた。
第一発見者であり屋敷まで報告に来た兵士からは「見ない方が良いですよ」と、忠告されていたにも関わらず、ローザは遺体に近寄るなり躊躇なくシーツをそっと持ち上げた。どうやら、遺体の顔から胸部の辺りをじっと念入りに調べているようだった。その慣れた様子にボクは少し恐怖を感じたが、『制御』して顔に出さないようにした。
「皮膚を切り取られた顔面に、魔法文字を刻まれた胸部。間違いなく変身の禁忌魔法ね。それも、記憶まで模倣するほどの高度な魔法だわ」
ローザはそう言いながら、腰紐に吊り下げられた小さな袋から水晶玉を取り出した。魔法の中には他人の姿に変身するものが存在し、今回の事件で何者かがポンペオに変身してレウニグスを暗殺しようとしたように、社会的な混乱を招くとして変身魔法の使用は原則として禁止されている。
イチノセの森でレンとローザに初めて出会った時、強い警戒心を向けられたのは、変身した魔物ではないかと疑われたからだ(後日、そのことで二人から謝罪された)。
ただ、見抜く方法もまた存在している。魔法の発動に使用されて変質した魔素を探知すればいい。
ローザが手のひらにのせた水晶玉を遺体に近づけると、水晶玉は淡い紫色の光を放ち始めた。どうやらあの水晶玉が、変質した魔素を探知する魔法道具のようだ。
「魔法の発動からおおよそ三日といったところかしら。殺されたのも、おそらくその頃でしょうね」
「ポンペオを殺した犯人の特定と追跡はできそう?」
淡く光る水晶玉を片手に分析を続けるローザにそう問いかけると、ローザは苦々しい顔で首を横に振った。
「いいえ、どっちもほぼ不可能でしょうね。これだけ高レベルの、記憶まで模倣するほどの変身魔法を使える魔法使いなら、事前に特定も追跡もされないように手を打つのが定石だから」
ローザの返答を一緒に聞いていたレンがボクの隣で舌打ちをして「結局、最後まで後手後手かよ。ちくしょう!」と、悔しそうに吐き捨てた。ボクはその場で視線を落として、床板のつなぎ目を目でなぞりながら、事件の事後処理についてぐるりぐるりと思考を巡らせ始めた。
次回は8月22日に公開する予定です。
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