第32話 魔の寄生植物(4)
時刻が正午を少し過ぎた頃、ノースブルク村の大通りは行き交う人々でいつも通りの賑わいを見せている時、ボク達は屋敷の裏庭の地下室で、重大な局面を迎えようとしていた。
「花野さん、中央広場の花壇で見せてくれた君の力を――」
「うん、分かってるって。任せてちょうだい!」
重大な役目を任されてプレッシャーを感じつつも張り切っている様子の花野を側で見ながら、ボクもボク自身の準備を並行して進めた。
ボクは扉の前に立って地下室から誰も逃げられないようにし、レンには壁際でメアリーを背後に隠すように指示した。メアリーには彼女自身が持ってきたカンテラで、地下室全体をまんべんなく照らしてもらうことにした。
そして、花野はベッドを挟んでちょうどローザと真正面に対面する位置に座り、ローザの魔法によって寄生植物の侵蝕が抑えられているレウニグスの左手を握った。
「こうやって触ってみると、気持ち悪い何かがいるのをはっきり感じるわ。――ねえ、中にいるのは分かってんだから出てきなさいよ。言っとくけどね、抵抗したって無駄よ。私の力は――あんたみたいな『植物』には、無敵なんだから!」
花野はレウニグスの左手を握る力を強くすると、黒い斑点が一か所に集まり、黒い腫瘍のようになった。そして、黒い腫瘍のようなものは急激に膨れ上がり、空気を入れすぎた風船のように破裂した。
――花野の『加護』は『植物操作』。自らの生命力を植物に分け与え、自らの手足のように操る力だ。今頃、突如として満開になった中央広場の花壇に、村中が大騒ぎしていることだろう。……もっとも、今回はその力を殆ど操ることに使っているだろうが。
腐った泥のような臭いがしてきて顔をしかめていると、破裂した腫瘍のようなものから黒い蛇に似た生物がぬるりと出てきて、真っ先に花野に襲いかかった。
「伏せて!」
ボクの警告に素早く反応した花野は床に倒れるように伏せると、そのわずか数センチ頭上の空間を黒い蛇に似た生物――『パラサイト・リーフ』が通過していった。
狙いを外した『パラサイト・リーフ』は、勢いそのままにカンテラが置かれているテーブルにぶつかった。テーブルは激しく揺れて、カンテラが床に落ちて地下室の灯りが一つ消えてしまった。
「くそったれが。おいハナノ、早く俺の後ろに隠れろ!」
「気をつけて、いつ襲ってきてもおかしくないわ!」
レンは花野の腕を引っ張って自分の背後に隠そうとし、ローザもベッドから離れて扉に近づこうとした。だが、カンテラの灯りを反射して光る何かが地下室の空気を切り裂き、明らかに人間のものではない叫び声が響いた。
ボクとレウニグスを除いた全員がぎょっとして声のした方に顔を向けた。するとそこには、『パラサイト・リーフ』が黒い体液を血のようにどくどくと流しながら、体に刺さっているナイフを抜こうと必死にもがいていた。
「昨日、大通りを観光していた時に見ていたナイフ投げの大道芸が、こんな形で役に立つとは思わなかったな」
ボクは予備のナイフを懐から取り出しつつ、苦笑を浮かべてそう呟いた。
――そう、レンとメアリーのいた位置がボクが投げたナイフが当たらない場所だったのも、『パラサイト・リーフ』が花野を真っ先に襲いかかったのも、花野が警告に素早く反応して回避できたのも、全てはボク達が地下室に向かう前に立てた作戦通りだった。
やがて、『パラサイト・リーフ』はぴくりとも動かなくなり、悪臭を放つ泥の水たまりになっていった。ベッドの上のレウニグスも意識を取り戻し、事件発生から何日が経過しているのかをボク達に聞いてきた。
こうして、ノースブルク村での『パラサイト・リーフ』による事件は、ポンペオの捕縛がまだ残ってはいるものの、ひとまずは無事に解決となった。
次回は8月8日に公開する予定です。
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