第29話 魔の寄生植物(1)
ノースブルク村に来て二日目の朝を迎えた。メアリーの言う通り、『青い鳥』での宿泊は実に快適なものだった。ただ、この村は人の出入りが激しいせいか、どうにも落ち着かなかった。ボクはそろそろ、のどかなイチノセ村が恋しくなってきていた。
そして、昨日の観光気分から完全に気持ちを切り替えたボク達が、昼過ぎからの面会に向けて着々と身支度をしていた時だった。突然、伝えなければならないことがあるから、急いでボク達を呼んでほしいと、『青い鳥』のどこかで誰かが騒ぎ始めた。
「どうしたってんだ、こんな朝っぱらから……」
レンは訝しげにしながらドアを開けて騒ぎの主を確かめると、驚きで目を丸くして、身振り手振りでボクに部屋の外を見るように促した。ボクも騒ぎの現場を確認した。
「お願いします、イチノセ村の使者の方々に会わせてください!」
「そう言われましても、正当な理由が確認できない以上、お客様のプライバシーに関わりますので……」
そこには、両手を胸に当てて懇願しているメアリーがいた。それに対して受付の者は、当然ながら難色を示していた。しかし、嫌な予感が頭の中を駆け巡るのを覚えたボクは、急いでローザと花野がいる隣室へと向かっていった――。
村長の屋敷へと急行する馬車の中で、メアリーが全ての事情を話した。その内容に動揺しつつ、ボク達は屋敷の村長の寝室に入っていった。すると、数人の召使に囲まれながら、村長にして議員であるレウニグスは、一昨日の面会で見せた覇気を失った、生気のない顔色でベッドに横になっていた。
「話を聞いて覚悟はしていたけどよ……。まじでどーすんだよ、これ……」
レンがベッドに横たわるレウニグスを見て呆然としていると、その隣でローザがレウニグスの服の袖を捲り上げた。レウニグスの腕には不気味な黒い斑点が浮き出ていた。
「ローザ……。その黒い斑点は……?」
ボクがローザに恐る恐るそう聞くと、ローザは険しい表情をしながら、黒い斑点の正体を看破した。
「生物に寄生する、植物の魔法生物ね。この症状の進行度合いだと、明日の朝までに手を打たないと、手遅れになるわ」
手遅れになる。ローザの言葉を聞いたメアリーはみるみるうちに青ざめていった。そもそもの事件の始まりは、ポンペオからレウニグスへ友好の証として贈られた香辛料の瓶を、メアリーがうっかり落として割ってしまったのがきっかけだったからだ。
割れた瓶の中から黒い粘液のようなものが飛び出してきて、驚きのあまり反応できなかったメアリーに襲い掛かろうとした時、レウニグスが庇って代わりに被害者となってしまったらしい。
『イチノセ村の使者を呼べ』、『ポンペオを捕まえるまで公にするな』――。
レウニグスが意識を失う直前に残したという言葉の意味が、ボク達に重くのしかかってきていた。
次回は7月4日に公開する予定です。
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