第25話 ノースブルク村(3)
「えーと、えーと……。それではお客様、中へお入り下さい」
そばかすが印象的な顔を羞恥で赤らめつつ、小柄な少女――メアリーは健気にも己の仕事を果たそうとしていた。そんな一生懸命なメアリーの案内に従い、ボク達は屋敷の中へ足を踏み入れた。
屋敷の内部は二階の天井まで吹き抜けになっており、玄関から入って正面には、二階の廊下につながっている階段が堂々と待ち構えていた。そして、腰に長剣を差した一人の壮年の男が、その階段を余裕のある足取りで下りてきた。
「やあ、こんにちは。どうやら今回は、君達がイチノセ村の使者のようだね。私の名はレウニグス。北部議会議員とノースブルク村の村長を兼任させてもらっている。――見慣れない者が二人いるようだが、君達がユウヤ・ムラカミとタカネ・ハナノかな?」
壮年の男は同じ村長であるローグマンとは対照的な、武骨で威圧的な雰囲気を身にまとっていた。態度こそ慇懃ではあるが、同時に獰猛な獣に似た何かをも感じさせた。
「初めまして。ノースブルク村へようこそ。これから良い関係を築けることを心から願っているよ」
レウニグスはにこやかにそう言って、ボクに右手を差し出してきた。握手をしよう、ということだろう。差し出された右手の皮膚は硬く分厚かった。
(試されているな)
レウニグスはボクに対して揺さぶりをかけている。ボクは『完全感情制御』を使って、努めて平静を装いつつ、目の前に差し出されたレウニグスの右手を握った。――舐められるわけにも、警戒されるわけにもいかないのだ。
「さて、それでは応接室にご案内します。メアリー、お客様を応接室に」
「は、はい。承知しました……」
メアリーは消え入るような声で返事をし、明らかに萎縮しながら、ボク達の方に逃げるように近寄って、応接室への案内を始めた。
ボク達が案内された応接室は、玄関の正面の階段を上って、右の廊下を真っ直ぐに進んだ突き当たりにあった。応接室に入ると、室内の大窓から、ノースブルク村の北門から中央広場までを一望できるようになっていた。
「お茶をお持ちしますので、しばらくお待ち下さい。――先程は見苦しい姿を見せてしまい、申し訳ありませんでした。失礼します」
少し落ち着きを取り戻した様子のメアリーはそう言って、席に座ったボク達に一礼して退室した。メアリーがドアを閉めるのを見てから、ボクは大窓からノースブルク村の賑やかな光景を眺めた。
魔王軍の侵攻から召還魔法の乱用による混乱。そして、王族や一部の上級貴族による独裁的な『王政主義』から、一般市民が政治の主体である『民政主義』へと、政治のあり方が変わっていった『民政主義革命』。――時代の荒波を何度も逞しく乗り越えた村の、活気溢れる姿が、今のボクの目にはとても眩しく映った。
「村長のレウニグスだ。失礼する」
レウニグスの声がドアをノックした音の後に聞こえると、村の活気ある光景に目を奪われていたボクは、不意をつかれて心臓が大きく飛び跳ねた。
「皆さん、お揃いのようですね。では、さっそくですがローザさん、来年の北西部開拓事業についてですが――」
応接室に入ったレウニグスはローザの対面の席に座ると、非常に難解な議論を始めた。二人の議論を理解しようと必死に聞いていると、どうやら北西部開拓事業というのに関係する、三つの問題について議論を交わしているようだった。
南西の山岳地帯を縄張りにする魔物の群れが、ノースブルク村の周辺に出没するようになったこと。そのせいで、ノースブルク村の財政が悪化しつつあり、北西部開拓事業の存続が危うくなっていること。――そして、レウニグスにとって最大の問題を、彼自身が苦悩の表情で語った。
「前回の選挙で私に票を投じてくれた、北部を拠点とする冒険者や行商人、北部の一般市民からの支持を、北西部開拓事業の危機で、私は失いつつある」
次回は5月30日に公開する予定です。
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