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第24話 ノースブルク村(2)

 赤レンガの門を潜った先には、石畳の道とレンガ造りの家が、格子状の家並みを形成していた。村の面積はイチノセ村と大差ないが、人口密度や村の発展の度合いは比べものにならない。


「すごい……」


 行き交う人々の多さと多様さに目を奪われながらボクはそう呟いた。


 そのまま北の大通りを南に進んでいくと、村の中央広場に入った。吟遊詩人の語りに大道芸人のパフォーマンス、行商人のやかましい売り文句。まさにお祭り騒ぎといった賑やかさだった。


「ねえ、村上くん。見て、あれ」


 いつの間にかボクの近くに来ていた花野が、暗い瞳をほんの少しだけ輝かせて、氷のオブジェとなった噴水を指さした。


「きれい、だね」


「うん、そうだね」


 久し振りに笑顔を浮かべた花野を見ながら、ボクは目論見通りにことが運んでいることに対し、心の底で安堵した。


(未知の力ほど恐ろしいものはない。花野さんの『加護』の力を、一刻も早く調べる必要がある。そのためには、花野さんにも立ち直ってもらわないと――)


 ここで脳が、今後について打算的な思考を働かせているのに気が付いて、ボクはそれを中断させた。


(いや、やめだやめだ。せっかく隣村まで来たんだ。ボクも面会が終わったら、久し振りに少しは羽を伸ばそう)


 それからしばらく、村の喧噪を眺めていたら、ボク達を乗せた馬車は西の大通りの一角にある、鉄柵で守られた屋敷の前で停車した。


「着いたわ。この建物が、ノースブルク村の村長の屋敷よ」


 ローザはボクにそう言うと馬車からゆっくりと降りて、屋敷の玄関の鐘を鳴らした。しかし、玄関は閉ざされたまま、何の反応も示さなかった。数十秒後、ローザは苛立った様子でもう一度、今度は少し乱暴に鐘を鳴らした。


 すると突然、騒々しい音と共に玄関が勢いよく開かれ、中から一人の小柄な少女が飛び出してきた。


「お、お客様。お待たせして申し訳ありま――ぎゃふん!?」


 小柄な少女はそのまま前のめりに転倒してしまった。よりにもよって石畳の上で転んでしまったので、痛みもかなりのものだったのだろう。しばらくの間、小柄な少女は転んだ姿勢のまま、涙目で悶絶していた。


「大丈夫、じゃないわね。少し見せてちょうだい」


 ローザが小柄な少女をそっと優しく起き上がらせると、擦り剥いて血が滲み出ている膝に掌を向けた。


「『万物の母にして源たる、水を司りし精霊ウンディーネよ。我が声に』――」


 魔法の詠唱――。勇の女神に仕え、世界の均衡を保つ精霊に呼びかけ、対価と引き替えに望んだ力を得るための儀式。ローザの詠唱を聞くのはこれが始めてではないが、やはり何度も耳にしても、聖女の祈りの姿を目の当たりにしたような、厳かな気持ちにさせられる。


 詠唱が終わると、澄んだ青色の光が膝の傷を包み込み、跡も残さず治した。


「ふう、終わったわ。痛みはまだある?」


「い、いえ。だ、大丈夫です!」


 穏やかに微笑みながら問いかけるローザに対して、小柄な少女はその場で飛び跳ねるように立ち上がった。三つ編みにしている小柄な少女の髪もぴょこんと揺れた。背格好や立ち振る舞いからして、まだ新人なのだろう。失礼だとは承知しつつも、その初々しい反応につい、ボクは笑みをこぼしてしまった。


次回は5月23日に公開する予定です。

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