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第23話 ノースブルク村(1)

 イチノセ村の東に広がるイチノセ平野を南に進むと、イチノセ村の西から中央を通って南に流れるセレーヌ川が、途中で東に向きを変えて行く手を遮っている。その川にかかっているイチノセ村と隣の村をつなぐ橋を、ボク達が乗っている馬車が渡っていく。


「うぐ、うう……」


 馬車の振動でかき回された胃の内容物が、喉の奥からこみ上げてこようとしているのを、ボクは顔を青白くしながら必死にこらえていた。


「ムラカミー、大丈夫かー?」


「どう見ても大丈夫じゃないでしょ……」


 レンは馬車馬の手綱を握りながら、ローザは腰紐に吊り下げられた小袋の中を探りながらそう言った。その間にも、ボクの我慢は限界に近付いていた。


「はい、酔い止めの薬。これで少しは良くなる筈よ」


 そう言ってローザは黒い丸薬を一粒差し出してきた。掌の上にある、薬草由来らしき強い匂いを放つそれをじっと見つめて躊躇っていると、ぐいっと胸元に突きつけられたので、手に取り思い切って飲み込んだ。


 強烈な苦味と匂いが舌と鼻の奥を刺激し、ボクは両手で口を塞いで目を白黒させながら、その場で蹲った。


「うげえ、苦い……。他にはなかったの?」


「ありません、我慢しなさい」


 ボクの泣き言がローザにぴしゃりとはねのけられたのを、ちらっと見たレンが苦笑を浮かべた。ただ、丸薬の味と匂いはともかく、効果の方はてきめんで、さっきまでの嘔吐感が嘘のように収まっていた。


 そんなやり取りをしている間に、馬車は橋を渡り切り、リヒテンブルク北部の要所の一つである、ノースブルク村の北門前に到着した。


 ノースブルク村の東から南に広がるノースブルク平原の白雪が、ノースブルク村を守る赤レンガの防壁の存在感をより際立たせていた。


「訪問の目的は三つ。例の『証明書』の受け取りと、イチノセ村と友好関係にあるノースブルク村の村長との面会。それから――」


「あの子の治療法、ね……」


 体調が回復したボクはローザと共にそっと後ろを振り向き、頭まですっぽりと毛布で覆っている一人の少女、花野高音の様子を窺った。


 ローザの献身的な治療もあって、花野は杖をつきながらではあるが自力で歩けるまでに回復した。しかし、右足に麻痺が残るという重い障害が残ってしまった。表情は毛布で隠れてしまっているが、俯いて座ったまま時々、右足を手でさすっているのを見れば、精神状態が良好でないことは容易に想像することが出来た。


「次の方、どうぞ!」


 花野の容体に改めて気をもんでいると、ノースブルク村の北門前の検問所で、立派な金属製の甲冑を装備した衛兵が、ボク達が乗っている馬車を大声で呼んだ。


 北部の要所とされるだけあって、検問所に近付いただけでも、イチノセ村より警備がしっかりしているのがさらによく分かった。


 検問所で目を光らせる衛兵の装備の質の高さ、ノースブルク村を出入りする行商人や冒険者の多さ、上部がアーチ状に組まれた赤レンガの門の堅牢さを目にして、ただただ圧倒されるばかりだった。


(ここなら、ローグマンさんの言っていた通り、イチノセ村にはなかった花野さんの治療法が見つかるかもしれない――!)


 密かに期待を膨らませているボクを乗せた馬車は、衛兵の許可と同時に開かれた赤レンガの門を潜った。



次回は5月3日に公開する予定です。

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