第20話 冬山にて(1)
いよいよ、第2章がスタートです!
オルセニア大陸北西部の小国、リヒテンブルク民政国の北部に広がる森林地帯に、イチノセ村という小さな村がある。冬となると北風がしばしば強い寒波を運ぶので、その前に越冬の準備に取りかかるのが慣習となっていた。
そして、村の一員となっていたボクにも当然ながら、レンと共にある役割を任されることになった。
朝霧が薄く残る森の中を、ボクとレンは弓矢を装備して、神経を研ぎ澄ませながら一歩一歩慎重に進んでいた。
「見つけたぜ、鹿だ。あそこの木の、ちょっと左だ」
レンが小声でそう言うと、一本の木を指さした。確かに、一匹の鹿が木の陰に隠れるように頭だけを出して、ボク達のいる場所とは別の方向を警戒していた。
「木の陰から出た瞬間を狙って、同時に射よう」
矢筒から矢を抜き、ボクとレンはそっと弓矢を構えた。冬の訪れを告げる北風が、一際大きく森の枝葉を揺らした時、鹿が木陰からゆっくりと抜け出した。――次の瞬間、鹿の首と胴体に一本ずつ矢が突き刺さった。
鹿は短い悲鳴を上げ、横向きに倒れた。それでも、一度は立ち上がって逃げようとしたが、再びその場で崩れるように倒れると、そのまま二度と動くことはなかった。
「いよっしゃ!」「ふぅ……」
狩猟の成果に歓喜の声を上げるレンと、狩猟が無事に成功したことに安堵するボク。対照的な反応をしながら、じっくりと成果である獲物の観察をした。
「雌だな。越冬のために丸々と太っていて、変な怪我や病気もなさそうだし、中々良い感じだ。さーて、解体すっか!」
「そうだね。……さっき言ったとおり、今度はボクにやらせて欲しい」
冷静に獲物を観察しながら口にしたボクの言葉を聞いて、レンは隣から心配そうにボクの顔を覗き込んだ。
「大丈夫だよ。やり方も手順も、さっき全部『見た』し、――それになにより、これからこういったことは必要になってくるだろうしね」
ボクは狩猟用の背嚢を地面におろし、解体用のナイフと血抜き用の道具を中から取り出すと、目を閉じて冬の冷たい空気を吸い、生暖かい肺の空気を吐き出した。すると次第に、早鐘を打っていた鼓動は平時のペースを取り戻し、脳内の感情は冬の寒気にさらされたように凍てついた。
「よし」
感情の手綱はしっかりと握った。次はいよいよ『解体作業』だ。機械のように規則正しく動くようになった脳が、今から約二時間前に目にしたレンの『解体作業』の映像を脳内で再生し、その一連の動きをプログラム化した。
そして、『解体作業』プログラムを起動させると、全身の神経細胞を通って電気信号が送られ、自動的に体が『解体作業』を開始した。
ボクがこの世界に召還されてから、既に約一ヶ月が経過していた。勇の女神ヴァルキアの加護によって、どのような力を得たのかも徐々に判明していった。
便宜上、ボクはこの二つを『完全感情制御』、及び『完全動作模倣』と名付けた。
この二つの力で、異世界『ヴァルキア・ソフィア』で生き残る。そんな決意が、今のボクの原動力となっていた――。
次回は4月4日に公開予定です。
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