第19話 得たもの、失ったもの
第1章、最終話となります。
リーダー亡き後のゴブリンの群れはあっけなく瓦解した。黄金色の炎が収まる頃に、ようやく三匹のゴブリンが丸腰の状態で対岸まで追いついたが、リーダーの焼死体を驚愕の表情で見た後、あっさりと踵を返して森の中へと逃げていった。
翌朝、避難の準備をしていたイチノセ村の村人達が、ゴブリンの群れを撃破したことを知ると、次々に喝采と感謝の言葉を投げかけてきた。それらを聞き、この世界の人間にとって、魔物がどれだけの脅威であるかを改めて実感した。
そして、勝利の夜から数日が経過し、ようやく村全体が落ち着きを取り戻しつつある頃、ボクはレンからある報告を聞き、村の隅にぽつんと立てられた、質素な小屋の扉の前に立っていた。
「無理はしなくていいんだぞ」
気遣いのこもったレンの言葉に、ボクは静かに微笑んで頷き、再び扉に向かい合った。一度大きく息を吸い、重々しく吐いた後、ドアノブをゆっくりと回して扉を開けた。
昼間だというのに全てのカーテンを閉められた小屋の中は、小屋の主の心情を表しているかのように薄暗かった。
「久し振りだね。――花野さん」
現在の小屋の主である花野は、小屋の中の隅に置かれたベッドに横たわり、じっと天井を見つめていた。身体のあらゆる所に包帯が巻かれていて、なにかしらの薬品の匂いが扉の前まで届き、ボクの鼻をツンと刺激した。
花野はベッドに横になったまま、病的に青ざめた顔だけをボクの方に向けた。その瞳からは生気を殆ど感じなかった。
「ローザって子から大体の話は聞いているわ。……大活躍だったらしいわね。田村も生きていたら、さぞかし貴方を羨んだでしょうね。ねえ、英雄の村上くん?」
「花野さん……」
彼女を刺激しないように注意しながら近づいていったが、床板がギシギシと軋んだ。
「出てってよ」
花野の色が薄くなった唇から、ナイフのような鋭い拒絶の言葉が飛び出してきて、ボクの足を止めた。
何故こうなってしまったのか。ボクと花野を分かつものはなんなのか。――考えるまでもない。ただ単に、幸運だったか不運だったかの違いに過ぎない。
数秒の間、お互いに視線を合わせていたが、先にボクの方から外し、そのまま小屋の外へと出て行った。
ヒトクイカズラの毒で重い症状が出た場合、なんらかの後遺症が残ることが多い。――レンから教えられた知識を苦々しく反芻しながら、ボクは村長の家へと足を向けて、帰路についた。
これが、ボクにとって、美しくも残酷なこの世界での、本当の第一歩だった――。
第2章の始まり、第20話は3月21日に公開予定です。
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