第72話:とある城にて2
ユリダス皇国、上空にて。
薄雲に隠れるように、"亜人統一連盟"の空飛ぶ城は飛んでいた。
ネオンに修復されてから、まったく問題はや不具合はない。
ないどころか、以前より何段階も性能が上がった。
燃費は良くなり、浮遊による振動もなくなり、今や快適そのものだ。
この城を修理をしたのは人間で、すごい少年がいるらしい……という噂はすっかり連盟の中に浸透していた。
そのような雰囲気を感じながらも、指導者のヴェルヴェスタは表情が硬いままだった。
ここ最近、彼女は南東の方角をジッと睨んでは思案する日々を送っている。
その視線の先には、徐々に近く目的地――ネオン王国があった。
(今回の会議は、連盟が初めて人間と対話する機会になるのだな……)
どのような話し合いとなるのか、様々な問答を想定する彼女に、三幹部が静かに話しかける。
『……なぁ、人間との国際会議だが、やっぱり止めにしないか? これが罠だったらどうする』
『人間たちのことだから、亜人を簡単に騙しそうみゃ~』
『儂らの城を修理したネオンは良い人間かもしれんが、超大国の連中はわからんぞ』
連盟の中で、人間に対する不信感は強い。
会議とは名ばかりに騙し討ちを企んでいるのでは……そのような意見を持つ者も多かった。 ヴェルヴェスタは三幹部に視線を戻すと、変わらぬ無表情のまま話す。
『国際会議には参加する。一度交わした約束は、相手が人間であろうと遵守する。そうしなければ、仲間たちの連盟に対する信頼にも揺らぎが生まれるからだ。仮に騙し討ちであった場合は、人間は所詮その程度の生物ということが示されるだけだろう。さっさと撤退して、今まで通りの活動を続けるだけだ』
淡々と述べると、ヴェルヴェスタは視線を前に戻す。
(……ネオン・アルバティス、貴様は亜人と人間が共存できると思っているらしい。だが、理想と現実は違う。この会議でそれを証明してやる)
もし共存できるなら、自分だってそんな世界で暮らしたい。
いよいよ、三大超大国のちょうど間に位置するネオン王国が見えてきた。




