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第71話:タニヤの心情

 山の状態がわかる宮殿の観測室にて、タニヤはぼんやりと思った。


 ――ネオン神がいなかったら、今頃当方はどうなっていたのだろうか……。


 大火山フィレグラマスは、あの噴火の前兆が嘘のように機嫌が良かった。

 噴煙はたまに白い煙が薄らと昇るくらいで、地震も確認されない。

 青い空は晴れやかに吹き抜け、長閑な空気が辺りに漂う。

 噴火の瞬間の激しく揺れる大地や、全身を揺らすほどの轟音。

 あふれるマグマの不気味な赤や噴煙の黒。

 未だ記憶に鮮明で、思い出すだけで背筋が冷たくなった。

 あの瞬間の脅威はフィレグラマスだけではない。

 "亜人統一連盟"もいたのだ。

 自分は確実に死んでいたと考えると恐ろしかった。


 ――ネオン神は当方の救世主でもあるというわけか……。いつの日か……恩を返したい。

 

 今一度気持ちを新たにタニヤは資料を整え、"皇帝の間"を尋ねる。


「……失礼いたします、皇帝陛下。タニヤでございます。大火山フィレグラマスの観測結果をお持ちいたしました」


 ノックをすると、すぐに入室を許可された。

 ユリダス皇国、宮殿の"皇帝の間"。

 バルトラスとラヴィニアは国際会議の準備を進めていた。

 準備期間は短く、早急に手紙の手配などが必要だ。

 二人はタニアを見ると、にこやかな笑顔を浮かべた。


「観測ご苦労、フィレグラマスの状態はどうじゃ?」

「噴火は……大丈夫そう……?」

「はい、問題ございません。噴火の前兆は完全に消失したままです。自然魔力のエネルギー変換も以前より効率よく進められており……」


 タニヤは諸々の資料を見せながら説明する。

 いずれも、フィレグラマスの噴火の可能性はほとんどもうないことを示していた。

 ネオンが生成した<活火山お休み装置>の効力は凄まじく、今やフィレグラマスは休火山となった。

 皇国の人間は【神器生成】スキルの制裁対象からは外してあるので、タニヤたちにも自由に扱える。

 国内の優秀な錬金術師や魔法使いが分析しても理論はわからず、"神の御業"ということで結論づいた。

 報告が終わると、バルトラスとラヴィニアはネオンに改めて感謝する。


「あのフィレグラマスが休火山になるとは……ネオン少年様々じゃな」

「ネオンの魔導具……すごすぎ……。どんな難題も……解決できる……」

「仰るとおりでございます。当方も未だに衝撃醒めやらぬ、という心境でおります」


 業務連絡は終了し、タニヤは一礼の後退出する。

 三大超大国と"亜人統一連盟"の国際会議に、自分は参加しない。

 願わくば、ネオンともう一度話せたらよかったが、今やるべきことは与えられた仕事に集中するだけだ。

 窓の外を見ると、青い空に茶色の大火山フィレグラマスがよく映えた。

 あの日が思い出される。

 実際に自分の目でネオンのスキルや連盟との立ち回りが見れたのは、至極幸運なことだと思う。

 

 ――いつの日か、またネオン神に出会えたら嬉しい。当方の命を救ってくれ、視野まで広げてくれた小さき神に……。


 フィレグラマスに向かって、深く一礼。

 タニヤは感謝の気持ちを抱きながら、今日も観測に向かう。

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