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第68話:火山の現状(Side:タニヤ)

 ユリダス皇国、皇都にある宮殿。

 "皇帝の間"では、バルトラスとラヴィニアが険しい表情で報告を受けていた。

 

「……当方の調査では、大火山フィレグラマスは17日後に大規模な噴火を起こす結果が出ました。残念ながら噴火を止める手立てはなく、避難誘導が現実的な選択と考えられます」


 タニヤの報告を受け、"皇帝の間"は静かな緊張感に包まれる。

 バルトラスが窓の外を見ると、遠方に円錐形の雄大な山――大火山フィレグラマスが見えた。

 吹き抜けるような青い空に向かって、灰色の煙がもくもくと長閑に、しかし不気味に昇る。 火山活動の活発化を暗示されているようで、バルトラスはやるせない思いでタニヤに被害予想の詳細を尋ねた。


「もし噴火したら、皇都はどうなるんじゃ?」

「もちろん実際の規模にもよりますが、ほぼ間違いなく壊滅――詳しくは、火山灰と溶岩で覆われ街は地の底に沈むと推測されます。皇都と火山は10kmほどしか離れておりませんので」

「……そうか。皇国の豊かさの象徴が牙を剥くとはのぉ……」


 顎髭を撫でるバルトラスは呟くように言う。

 ユリダス皇国は元々、大火フィレグラマス山の自然魔力を糧に発展した国である。

 皇国の前衛である皇都の、それまた前衛は小さな村だった。

 元来、この周辺の土地は荒れ地だったが、優秀な錬金術師たちが火山の自然魔力を有効活用する技術を開発。

 村を拓き、膨大な自然魔力から数々の高度な技術を開発し、人々の生活は格段によくなった。

 活火山の近くで皇都が生まれ、国が生まれた形だ。

 無論、火山の噴火の危険は常にあるので、日頃から念入りな調査が行われていた。

 バルトラスは今後の対応についてしばし思案した結果、タニヤに命じた。


「本日中に調査結果を好評し、大至急、国民の避難を開始するのじゃ」

「承知しました、早急に進めて参ります。それでは……」

「待ちなさい。火山の噴火については、ワシの知人に力を貸してもらえないか聞いてみよう」

「皇帝陛下の……知人でございますか?」


 早急に出口に向かおうとしたタニヤは、ポカンとした顔で振り向いた。

 そんなタニヤに、バルトラスとラヴィニアは"希望"を伝える。


「お主も知っておろう。三大超大国の緩衝地帯にあったアルバティス王国の飛び地、あそこの少年領主じゃよ。尤も、今は建国して一つの国となったがの」

「ネオンなら……絶対に何か……手を打ってくれるはず……。もう……ネオンしかいない……」


 ネオンについては、タニヤも少しばかりは噂として知っていた。

 あの荒れた土地を世界でも稀に見るほど肥沃な土地に変え、多種多様な亜人とも仲良く暮らすらしい。

 まさしく、理想の領主だろう。

 一方で、タニヤはその実力を信じ切れないところもあった。


 ――ネオン童はまだ十歳ほどと聞く。本当にあの火山を沈静化できるのか……? 皇国の技術の粋を集めても不可能なのに……。

 

 結局のところ、すぐにでもネオンに文書を送ることが決まった。


「……では、当方は現地に戻ります。少しでも魔導具にて噴火までの時間を稼ぎます」

「ありがとうの。十分、身の安全に配慮したうえで取り組むんじゃよ」


 深く礼をして、タニヤは"皇帝の間"を出る。


 ――当方でも防ぐことができない火山の沈静化……。やれるものならやってみてほしいものだ。


 廊下を急ぐ彼女の表情は厳しくも、どこか神に助けを求める顔つきであった。

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