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第67話:ポリーンの心情

 カカフ連邦で一番の収蔵数を誇る、カカフ大美術館。

 特別作業室は最も厳重に整備され、最高峰の設備を備える。

 その極めて重要な部屋にて、ネオンの協力を得て確保できた遺物の解析が進んでいた。

 中央奥の大テーブルにはあの石版が安置され、多数の調査員が解読に挑む。

 長い茶髪をひとまとめにした女性は、解読が進んでは止まる状況に悪戦苦闘していた。


 ――これは……また新しい難所だな……。


 碑文は古代文字で書かれているが、中には新たに発見された字形や字体があり、解読の大きな障壁となった。

 石版に描かれた絵や装飾から意味を類推しなければならない。

 辞書を作るような作業に近く、深い思索が求められる。

 目の前に聳える壁は高いが、彼女の意志は固かった。


 ――いくら難しかろうが、絶対に諦めるな。必ず突破口があるはずだ。ネオン・アルバティスは、どんな難題にも正面からぶつかるだろう。彼の精神性を見習うのだ。

 

 膨大な知識の海に飛び込んでいると、自分の名を呼ぶ声が聞こえて急速に意識が戻った。


「……ポリーン隊長……ポリーン隊長? そろそろ休憩されてはいかがでしょうか。だいぶ休憩時間に割り込んでおられるかと」


 気がついたら、周りには共に作業する部下達がいた。

 いつの間にか窓の外は暗くなっており、星が瞬く。


 ――休憩時間……だと?


 時計を見ると、たしかに予定の時間を過ぎていた。

 石版の解読は非常に神経を使う作業だ。

 身体を動かさなくとも、ずっと同じ姿勢を保つだけでも結構体力を消耗する。

 仕事の性質上没頭しやすいこともあり、互いに様子を窺って定期的な休息を取るよう部下には命じていた。

 集中から現実に戻ったポリーンが少しばかりぼんやりしていると、部下は和やかに笑いながら言葉を続けた。


「後の作業は私たちが引き継ぎますので、ポリーン隊長は休んでください。休むよう命じた人が休まないなんて無しですよ」

「……ああ、そうだな。ありがとう、小生は休憩させてもらう。お前達も無理はしないようんい」


 部下の申し出を、ポリーンは素直に受ける。

 外に出ると冷たい夜風が疲れを和らげ、頭が冴えていくのを感じた。

 新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込み、全身をリフレッシュする。

 夜空には無数の星々が瞬いているのを見て、彼女は面白い遊びを考えた。

 頭の中で"彼"の顔を思い出しながら、ついついと指で結び星座を作る。

 架空の線で結ぶと、思ったよりそっくりになった。


 ――くくっ、良い感じにできたじゃないか。


 急ごしらえではあるが、ネオン座を作ることができて満足する。

 遠い飛び地で頑張っているであろう"彼"を想うと、それだけで元気が出た。


 ――ネオン・アルバティス、小生は必ず石版の解読を完了させる。そのときまでは敢えて合わない。小生の誓いだ。そして、今度こそメイドに邪魔されず思う存分触りまくる。


 休憩時間が終わり、ポリーンは作業室に戻る。

 幾分も軽くなった心身と共に……。

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


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