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第64話:転生王子、連邦に向かう

 徐々に疲労が溜まり、<神裂きの剣>を構える腕が下がってしまう。

 途端に、ナイメラの厳しい声が飛んできた。


『……ネオン殿! 腕の角度が10.3度傾いているダスよ! もっと上げてほしいダス!』

「ご、ごめんなさい、ナイメラさん! こ、この体勢結構大変で……できたら別のポージングに変更を……」

『いいや、ダメダス! もう製作は始まっているんダスから、あと1時間はそのままでいてもらないと!』

「そ、そんな……」


 あまりにも厳しい要求に心が折れそうになるが、どうにか気持ちを立て直す。

 サテュロスたちを助けてから、あっという間に数日が過ぎた。

 ネオンの彫刻を彫りたいという希望通り、さっそく作業が始まっている。

 きっかり1時間が経った頃、ネオンはようやく解放された。


「う、腕が折れそう……」

『ネオン、大丈夫ウニか~!?』

「お疲れ様でございました、ネオン様」


 オモチがタオルを持ってきてくれ、ブリジットが冷たいスムージーを渡してくれる。

 飛び地で採れた作物や果物を摺り下ろして作った特製のジュースを飲んで、ネオンはたちまち体力が回復した。

 

 ――うう~ん、おいしい! ポージングの後は冷たいスムージーに限るね!


 冷たさと爽やかさを堪能していると、ブリジットがナイメラに提案した。


「ネオン様のポージングについて、私から希望があるのですがよろしいでしょうか」

『もちろんダス』


 彼女たちの会話を聞いて、ネオンはどこか安心する。


 ――ブリジットのことだから、僕の体力に配慮したポージングを提案してくれるだろう。


 ホッとひと息ついた瞬間、途方もない衝撃に襲われた。


「ネオン様と抱き合っている場面の彫刻をお願いします!」

「え、ええ――っ!?」


 突然の展開に、傍らでのんびりしてたネオンは度肝を抜かれてしまった。

 咳き込んでいるうちに話は加速する。


『それはとても興味深い構図ダスね! ぜひ、彫らせていただきたいダス!』

「ありがとうございます! どれほどで完成しそうでしょうか!」

『だいたい、5時間もあればラフが完成するダスね!』

「ネオン様と5時間も抱き合っていられるなんて、メイド冥利に尽きます!」


 ブリジットもナイメラも目が血走り始め、もう拒絶できない段階に入ってしまったとネオンは理解した。

 心の中でひっそりと泣いていると、ブリジットがネオンの隣に立つ。


「では、ネオン様、ポージングと参りましょう。さあ、ご遠慮なさらず。力の限り抱き締めてくださいませ」


 ネオンがブリジットに抱き込まれそうになったとき、空から一匹の夢幻鳥が舞い降りた。

 いつぞやと同じように、足下には文書が括り付けられている。

 夢幻鳥の首輪には羽根飾りのついた兜の紋章が刻まれ、文書の封蝋に押されたエンブレムも同様だ。

 助け船が来てくれた気分でネオンは駆け寄る。


「あっ! カカフ連邦から手紙が来たみたい! 彫刻のポージングはまた後でしよう!」

「……間が悪くございますね。夢幻鳥様、一度お帰りになり、5時間後に改めて来てくださいませ」

「そういうわけにはいかないでしょ」

「もしかして、その夢幻鳥は連邦から来たのかい? ……やっぱり、そうだ。ボクにも見せてくれたまえ」


 カカフ連邦からの手紙と聞き、ベネロープも合流した。

 ネオンは不機嫌そうに文句を垂れるブリジットと、実は連邦のスパイであるベネロープと一緒に文書を確認する。

 一方で、夢幻鳥は近くで休んでいたグランフィードを見ると興奮した鳴き声を上げた。


『コアアッ!(うっそ、幻橙龍!? マッジヤバ~! あーし、初見だし! ガチファーストコンタクト、マジウケる~! よろよろ~!)』

『お、お主は特異な性格をしているのだな……』


 連邦の夢幻鳥はギャル系であり、その勢いにグランフィードですら少々気圧されていた。

 ネオンは文書を確認すると、驚きに包まれる。


「エルン遺跡の調査を手伝ってほしい!? あの世界的に有名な遺跡の調査なんて……光栄だけど緊張する……」

「そんな過去の遺物の発掘より、ネオン様を崇めるべきでしょう。ネオン様こそが人類の叡智の結晶なのですから」 

「ブリジット君の意見も尤もだけど、エルン遺跡だって貴重な歴史的遺物なのさ」


 文書は「できれば来てほしい」という温度感だったが、もちろんのことネオンは快諾した。

「さっそく、今日にでも連邦に向かいましょう。困っている人がいるのなら助けるべきですから」

「お優しいネオン様が来たら、それだけで調査隊の人々も感謝感激するでしょう」

『ボクも行くウニよ。もっと見聞を広げたいウニ』


 連邦に向かうメンバーはこの三人でまとまりつつあったとき、ベネロープが同行を願いでた。


「ネオン君、ボクも連れていってくれ。連邦の地理はよく知っているから、細かい道案内もできるだろう」

「ありがとうございます、ベネロープさん。ぜひお願いしたいです。ついでに、難民の話も相談できるといいですね」

「? ネオン君は何を言っているんだい? ボクは難民でも何でもないよ?」


 ポカンと返答した彼女に、ネオンもまたポカンとした顔を向ける。

 

「え……? だって、ベネロープさんは連邦の難民でしょう? この機会にガライアンさんと話せれば……」

「そ、そう! そうだったね! ボクは連邦の難民だ! 大総統閣下と今後について改めて話したい! わははっ!」


 仲間の激しい咳払いを受けて、ベネロープは慌てて弁明する。

 彼女もまた飛び地のスローライフに肩まで浸かってしまっており、連邦のスパイであることをすっかり忘れていたのだ。

 相談した結果、遺跡に向かうのは、ネオン、ブリジット、オモチ、ベネロープの四人と決まる。

 ネオンが連邦に行くことを領民に伝えると、みな元気よく送り出してくれた。


『妾は土産が欲しいぞ! 遺跡なら色々と珍しいものがあるだろ!』

『遺跡の遺物が落ちてたら、ちょっと拾ってきてほしいラビ!』

『珍しい彫刻があったら貰ってきてほしいダス!』


 なんだか、入手の難しいお土産をたくさん所望される。

 ルイザとキアラも笑顔で手を振ってくれた。


「しっかり務めを果たしてこーい! うまくいくよう祈ってやるからなー!」

「お身体に気をつけてー! 疲れを感じる前に休むんですよー!」


 諸々の応援を背に、ネオンたちは飛び立つ。

 道案内は夢幻鳥がしてくれるとのことだ。

 もそもそと頭を歩き回る夢幻鳥に、グランフィードはおずおずと頼む。


『……我の頭で散歩しないでほしいのだが……』

『コココッ!(ムリムリ~、そりゃないっしょ!! こんな歩きやすい頭してるんだから、歩かなきゃもったいないし~! ほら、グランちゃんかっ飛ばしちゃって!)』


 幻橙龍を顎で使うギャル系夢幻鳥を道案内に、ネオンたちはカカフ連邦に向かう。

 人類史上、極めて重要な遺跡の発掘を手伝うために……。

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


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