第63話:遺跡の現状(Side:ポリーン①)
大地が不気味に揺れ始める。
「……ポリーン隊長! また崩落が始まりました!」
「ええい、またか! 一旦、作業を中止! 総員退避しろ!」
激しく打ち付ける豪雨の中、部下からの報告にポリーンは声を張り上げた。
彼女の指示に調査隊は安全地帯に退避し、遺跡の行方を見守る。
地盤の辺縁が崩れ落ちただけで崩落は止まった。
ホッとする部下も多いが、空を睨むポリーンの表情は硬い。
――せめて、天候さえよければまた違っていただろうに……。天は小生に敵するというわけか……!
古代遺跡エルン。
壁面を構成する白い石材はくすみ、ところどころ苔が生し、歴史の重みが刻まれた巨大な遺跡だ。
カカフ連邦の西方に位置するそれは、王都からは馬車で二週間ほどの距離に位置する。
ガライアンとアリエッタへの現状報告を終えたポリーンは、すぐにとんぼ返りした形である。
降り注ぐ雨の中、十分ほども待つとようやく崩落は収まった。
騒然とした雰囲気が徐々に収まる一方で、ポリーンの表情は硬いままだ。
――予想より崩落の進行が早い。このままでは石版を……遺跡全体を失いかねん。
改めて現状を確認すると、一段と焦燥感が強くなる。
発掘当初に比べ、地盤崩落の頻度は短く規模が大きくなってきた。
元々この辺りの地盤は脆いことに加え、ここ最近は長雨が続いている。
谷底には川が今も轟々と激しく流れており、落ちたら二度と回収できないことは明白だった。
エルンの石版にはこの世界の成り立ちを示されているとされ、考古学的にも非常に貴重な遺物だ。
表層に刻まれた碑文は隈なくスケッチしたが、実物の確保は最優先事項である。
石版自体にまだ仕掛けが残されている可能性もあり、失うわけにはいかない。
ポリーンは今一度、調査隊全体に命じる。
「この遺跡は連邦史上……いや、人類史上非常に重要な遺物である! 決して、最後まで諦めるな! 少しでも多くの遺物を運搬するのだ! 石版の運搬準備も進めろ!」
「「はっ!」」
調査隊の面々が忙しなく動き始めたとき、30cmほどの小さな赤い鳥がポリーンの前に降り立った。
A級魔物、紅鳥。
夢幻鳥ほどではないが敏捷性と体力に優れ、官邸が国内の重要機関との連絡を担う鳥だ。
その足に括り付けられた文書を、ポリーンは急いで回収する。
――これは……大総統からの緊急連絡……!
十中八九、遺跡に関する指示だろう。
迅速に内容を確認していくうちに、彼女の表情は険しいものに変わった。
「……ネオン・アルバティスを……派遣する予定、だと……?」
遺跡の厳しい状態を鑑みて、ガライアンはネオンの派遣を決意した。
ポリーンの能力を信じていないわけではないが、遺跡の確保を確実にするためである。
――国家元首だけでなくその子女までもが来るとは、このネオン・アルバティス……相当の人物というわけか。
そう感じ取ったポリーンは、即座に部下を集め情報を共有する。
「……皆の者、聞いてほしい。たった今、官邸から緊急連絡が届いた。ガライアン様は飛び地の領主、いや、ネオン国の当主ネオン・アルバティスなる人物に遺跡の発掘の支援を頼んだらしい。もし先方に承諾されれば、当日はガライアン様とシャルロット様もいらっしゃるとのことだ」
「「なんと……っ!」」
文書の内容を伝えると、調査隊の面々にも驚きが広がった。
ポリーンは紅鳥に承知した旨の返事を括り付ける。
どんよりと暗い雨空に飛び立つ赤い鳥を見ながら、彼女は拳を強く握り締めた。
――ガライアン様たちの推薦ではあるが……どんな人間が来ても、遺跡の現状を変えることなどできないだろう。だが、小生が必ずこの任務を達成する……人類の更なる発展のために!
そう決意するポリーンは、大至急石版の解読及び運搬方法の検討を再開する。
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