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第58話:転生王子、領地に帰る

「……それでは、ネオン少年よ。大変に世話になったな。ネオン少年が来てくれたおかげで、これほど早く平穏が戻った。今や帝国は、お主の話題で持ちきりだ」

「あなたに恩を返せるのは、いったいいつになるのかしらね。でも、いつか必ず返すわ。帝国の名に懸けて、ね」


 宴の翌日、エルストメルガ帝国宮殿前広場。

 ネオンたちが飛び地に戻る時間が来て、一同は別れの挨拶を交わしていた。

 呪念花の駆除の報酬ということで、帝国の特産品であるエルストメルガ牛のロースや皇族御用達の茶葉など、大変に高価な土産や食糧をたくさんいただいてしまった。


 ――グランフィードさんがいてくれて良かった……。これくらい、全然重くないって言ってくれていたし……。


 ネオンはせめてものお返しにと、帝国側には追加の<ゼンブキエーロ>とスプレディをたくさんプレゼントした(もちろん、制裁対象からも外してある)。

 これで、呪念花が新しく繁殖しても安心である。

 別れの挨拶を交わす中、シャルロットはネオン成分を補給するため、多めに手を摩っていた。


(今度いつ会えるかわからないから、いっぱい触っておかないと……!)


 最初はそう思っていたが、"あの件"を考えたらネオンを握る手が自然と強くなった。


「ねえ、ネオン君。亜人統一連盟って聞いたことある?」

「……え? いえ、ありませんが」

「シャルロット、その話はするべきではないとお前が言っただろう」


 不意にグリゴリーが後ろから現れ、シャルロットは口を噤んだ。


 ――何か聞いちゃいけない話だったのかな?


 そう思ったとき、なおもネオンの手を触り続けるシャルロットを、ブリジットが目敏く見つけた。


「……もういいでしょう。触りすぎでございます」

「あっ、もうちょっとだけ……!」

「なりません。お離れください」


 お触りはそこで中断。

 呪念花の危機から解放された帝国の人間はどことなく空気が緩やかで、タイガルからも当初の硬い雰囲気は消え去っている。

 シャルロットが不機嫌な顔で引き下がった後、温和な笑顔でネオンに話した。


「ネオン師父がいなかったら、帝国は呪念花に飲み込まれていたかもしれない。力を貸してくれて本当にありがとう。其は少しでも師父に近づけるよう、より一層日々の努力に邁進する。今度会ったとき、差が縮まったことを証明したい」

「また繁殖したらいつでも連絡してください。すぐに来ますからね」


 二人は握手ではなく、拳を軽く突き合わせる。

 短いながらも呪念花との戦いを通して、"人のために努力する"という同じ志を持っていることがわかったから。

 宮殿の一角では、また別の二組が別れの挨拶を交わす。


『コルル……!(幻橙龍大先生、色々とためになるお話を誠にありがとうございましたであります!)』

「うむ、我も楽しかったぞ。機会があればまた話そう」


 この旅を通して、グランフィードと夢幻鳥はひしょ友(飛翔友達の略。空を飛ぶ魔物が種族を超えて友人となったとき、そう呼ばれる)になった。

 挨拶もそこそこにネオン一行はグランフィードの背中に乗り、宙を舞う。


「ネオン少年ー! 元気でなー! 今度は観光にでも来てくれー!」

「ありがとー、ネオン君ー! 帝国には綺麗な場所がたくさんあるのよー! 今度はぜひ案内したいわねー!」

「またいつの日かー!」


 ネオンが上空から叫び返すと、瞬く間に眼下のシャルロットたちは小さくなってしまった。

『では、我らが楽園へと帰還しよう』

『お家に帰るまでが遠足ウニ』


 ――とうとう遠足になっちゃった。


 と思いながら、ネオン一行は住み慣れた飛び地へと帰るのであった。



 □□□



〔……ネオン殿~、なんで呪念花の種ゲットしてこなかったラビよ~〕

「あんな危険な花の種なんて、持って帰れるわけないじゃないですか。そもそも、駆除しに行ったわけですからね」

〔そこはちょこっとくすねてラビね……いぎいいいああい!〕

「ネオン様に何をやらせるつもりですか。やはり、あなたには躾が必要なようですね」


 ティアナはブリジットに後ろから両腕を掴まれ、背中を脚できつく押される。

〔背中が折れるラビ~!!〕という叫び声とゴキゴキ鳴る不気味な音を聞きながら、テーブルのオモチはゆったりと帝国のお茶を飲んでいた。


『やっぱり、お家が一番ウニね~』

「う、うん、そうだね」


 ――いつの間にか、オモチのスルースキルがパワーアップ……。


 と、ネオンは思いながらお茶を飲む。

 実はジャンヌもだる絡みしたかったのだが、ティアナの惨状を見て静かにしていることにした。


 ――何はともあれ、オモチの言う通り家が一番だ~。


 などと実感していると、やけに目の据わったリロイが来た。


『ところで、ネオン殿さんちゃん君様』

「は、はい、何でしょうか」

『エルストメルガ帝国の水質は、全てネオン王国と同じ品質に変えてきたのですよね?』

「すみません、そこまでの時間はなくて……」

『そうでしたか。仕方ありませんね。ここはやはり、帝国の水源を全てネオン殿さんちゃん君様が一度全て封印してから、新しく井戸を掘ることで水質は改善できそうですね』

「帝国の水はとても綺麗だと思いますけど……」

『いいえ、この土地の水の素晴らしさは全世界に共有すべきです。手始めに、エルストメルガ帝国の水源地を全て浄化して……』


 ネオンの話を半分程度に聞き、リロイは熱く語り出す。

 彼女は水のことになると性格が変わり、少々好戦的な考えを巡らす傾向があることが最近わかってきた。

 しばらく熱弁した後、リロイはウンディーネの集団に戻る。


 ――なんか物騒なこと考えてないよね……?


 少々心配になるネオンだったが、特に大丈夫だろうと思う。

 ボロボロになったティアナを放置して、今度はブリジットがネオンの隣に座った。

 

「ネオン様、本日はお疲れ様でございました。ネオン様がご活躍されて、私も嬉しく思います。隣にいられて幸せです」

「ありがとう、僕も幸せだよ。ブリジットもお疲れ様」


(ああ、これが夫婦……気持ちが通じ合っている……)


 ネオンはやけに震えるブリジットと、こつんと乾杯する。


 ――グリゴリーさんやシャルロットさん、帝国のみんなとまた会えたら嬉しいな~。

 

 ネオンの思いをよそに、帝国の面々とは比較的早く再会することになるのであった。

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