第55話:帝国の反応1
エルストメルガ帝国、"帝王の間"。
タイガルが険しい顔で、玉座に座るグリゴリーとシャルロットに報告していた。
「……よって、呪念花の駆除は全体の四割がようやく完了した状態でございます。進行が悪く申し訳ございません」
「ふむ、四割か。なかなか状況は厳しそうだな」
「この調子だと、歴代最悪の変異種になりそうね」
その後、呪念花の駆除は国を挙げて進められていたが、劇的な効果は出せていない。
密に生えた呪念花同士が互いに自然の品種改良を促進しており、火魔法による焼却も効果が弱い。
最悪、土壌を丸ごと破壊する方法もあるが、種が飛散する危険があるし、人々の住む場所が壊されては本末転倒だ。
グリゴリーとシャルロットは顔を見合わせると、以前から考えていた案を告げる。
「タイガルよ。ここはやはり、朕の知人に協力を仰ぐべきだ。このまま駆除仕切るのは難しいと考えられる」
「他人に力を借りるのは恥ずかしいことではないわ。時には協力も必要よ」
タイガルのプライドが高いことを知っている二人は、丁寧に説明する。
それはもちろん話をされている本人もわかっていたが、悔しくないと言ったら嘘になった。
(其の力不足であることは事実……か)
できることなら自分と、自分の部下だけの力で解決したかった。
だが、帝国の現状を考えれば致し方ないのもまた事実。
「……承知いたしました」
絞り出すような了承の声が、"帝王の間"に響いた。
悔しげに俯く彼女に、グリゴリーもシャルロットも労いの言葉をかける。
「わかっているとは思うが、お主たちの実力を認めていないわけではないぞ」
「タイガルは本当によくやってくれているわ。被害を広げずに、駆除を進めているんだもの。ただ、今年の変異種はそれほど質が悪かったということなのよ」
「はい、心得ております。むしろ、ここまで其に任せてくださり誠にありがとうございました」
ネオンにはグリゴリーたちが正式に頼むことで話はまとまり、タイガルは"帝王の間"を後にする。
執務室に向かっているうちに、自然と足音が荒くなった。
(ネオン・アルバティス……ね)
あの飛び地に王国を作った、わずか十二歳の少年と聞く。
グリゴリーやシャルロット、宮殿にいる人間たちの評価は非常に高い。
建国するのは大変立派だし、その苦労は想像もつかなかった。
皇帝や皇女が表する実力も並大抵のものではないだろう。
だが、タイガルは直接会って話してみないと、その者のきちんとした評価を下さないことで有名だった。
(まずは実際に会って話してみなければわからん。どんな人間が来ようと其は絶対に負けないがな。絶対にだ!)
そう、タイガルは強く心に誓った。
◆◆◆
グリゴリーとシャルロットは現状をまとめ、ネオン王国に文書を送る。
みなの唯一の希望であるネオンの元に届くのは、それからすぐのことであった。




