第54話:第一王子の反応1
アルバティス王国の"王の間"。
すっかり静粛な雰囲気を取り戻した空間では、ニコラスが国内情勢や三大超大国との関係を改善するため、連日公務に邁進していた。
「……ネオンがいてくれて本当によかったよ。彼がいなかったら、未だに三大超大国とは関係が修復できていなかっただろう」
ニコラスが呟く言葉に、ギルベールも静かに頷く。
国王と双子兄が三大超大国に行った愚かな行いは、人類史上稀に見る大罪だ。
時代が時代なら、世界中を巻き込んだ大戦争になってもおかしくない。
だが、各国家元首はネオンに免じて、国王と双子兄の処罰のみで許してくれた。
賠償もデビルピアの攻撃で破壊された馬車などの費用だけで済んだ。
これは異常とも言える処遇である。
もちろんニコラスの手腕も関係しているが、大部分はネオンの評判や仲介による部分が大きかった。
各国家元首たちも、元よりネオンの故郷たるアルバティス王国自体との関係修復を望んでいた。
ニコラスは最後の仕事を終えると、ふぅっと深くため息を吐く。
「ああ、早くネオンに会いたい……私のネオン……。このままでは、私は栄養失調で死んでしまいそうだ……」
「心中お察しいたします。ニコラス様のご体調を配慮されたのか、ちょうどネオン王国よりお手紙が届きました」
「なんだって!? 早く見せてくれ!」
ギルベールがネオンからの手紙を差し出すと、途端にニコラスの顔には生気が戻った。
嬉々として読み始めるのだが……。
「ちょっと待ちなさい。こ、これは……ネオンの……直筆!? ……うわああああああー!」
「ニコラス様!?」
もう何年も見ていないネオンの字で書かれた手紙を読んだ結果、電流のような激しい衝撃が全身を駆け巡った。
耐えきれずに玉座から崩れ落ちる彼を、ギルベールが迅速に抱える。
「どうかお気を確かに……」
「あ、ああ……」
ニコラスは支えられながら、息も絶え絶えに玉座に座った。
「ネオン成分が枯渇したこの身体に……直筆の手紙は刺激が強すぎる……」
「少し休憩されますか?」
「……いや、大丈夫だ」
「今お茶を用意いたします」
ギルベールが用意した茶を飲むと、ニコラスはようやく平常心に戻れた。
「ニコラス様、ネオン王国からは手紙以外に特産品も届いておりました」
「特産品? きっと、果物か野菜の類いだろう。ちょうどいい、それを見て気持ちを整えよう。まだ心臓の鼓動が収まらないんだ」
「承知いたしました。こちらでございます」
ギルベールが箱を開けると、特産品……ネオンのジグソーパズルやぬり絵、そして再現性が極めて高いぬいぐるみが姿を現した。
弟を愛するニコラスの目には、もはや後光が見える。
「ネ、ネオンのパズルに塗り絵? こっちにはぬいぐるみぃ? こ、この再現度はもはや本に……うわああああああー!!」
「ニコラス様ー!」
途方もない衝撃に、ニコラスは一週間寝込んだ。




