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第51話:転生王子、イキり冒険者を助ける

 領地を出発して数時間も歩くと、ネオン一行は北のダンジョンに到着した。

 入り口は縦横高さ3mほどの四角い箱で、扉は開け放たれている。

 覗き込んでみると階段が下っており、地下で広がる様式だとわかった。

 醸し出される禍々しい魔力のオーラはもちろんのこと、何より扉や箱全体の意匠が危険性を物語る。

 ネオンたちはすぐには入らず、まずは様相をよく観察する。

 

「なんだか、見れば見るほど豪華だね。まるで神殿みたい。僕はダンジョンにはあまり入ったことはないけど、普通じゃない気はするよ」

「私もここまで細かく描かれた模様は初めて見ます。一般的な突発迷宮は無機質で寒々しい印象なのですが……」

『龍まで描かれているし、見るからにヤバいヤツウニ』


 スパイ三人も同意見であり、静かに頷いた。

 みな、揃って並のレベルではないと判断する。

 マルクと違ってネオンたちは真の実力者なので、入らずともこのダンジョンの危険性がよくわかった。

 ルイザもベネロープもキアラも、注意深く意匠を確認しては結論を出す。

 

「おそらく、最下層にいる主は龍だろうな。この彫刻は主の暗示だろう」

「小型のはずはないから、主の部屋も広いはず。であれば、最低でも30階層近くはあるだろうね。下手したらそれ以上かも」

「主が強いほど棲息する魔物の等級も上がるのが通説ですから、低階層でも強力な魔物が出るでしょう」


 不測の事態に備えて装備や荷物は十分に用意してきたが、それでも攻略はかなりの難易度だと予想される。

 主が強ければ、魔物だけでなく罠もまた強し。

 一瞬たりとも油断はできない、心して臨まなければ……と思うみんなに、ネオンはいつものように明るい声で話す。


「では、安全性に配慮して外から探索してみましょう。ちょっと待っててくださいね……《神器生成》!」


 ネオンは溜めた素材を消費して、とある神器を生み出す。

 素材が分解された白い粒子が舞った後、ネオンの手にはタブレットが握られ、宙には直径20cmほどの球体が浮かんでいた。



<ダンジョン探索用ドローン"NA001-シーカー" &記録タブレット>

 等級:神話級

 能力:ダンジョンの探索に向いたドローン。魔物などの生息や罠などを、リアルタイムに分析する。情報は随時、手元のタブレットに記録される。いずれも物理的に極めて頑強であり破壊不能。



 モノアイカメラがついた銀色の球体を、ブリジットたちはぽかんと見る。


「ネオン様、これは何でしょうか? 見たこともない魔導具ですが……」

「簡単に言うと、自動でダンジョンの構造を調べてくれる魔導具だよ。シーカー、お願い!」


 ネオンの掛け声でシーカーの目から赤い光線がビビッ!と放たれると、乱反射しながら地下に向かう。

 時間が経つにつれ、手元のタブレットにダンジョンの構造が次々とマッピングされていく。 どこに階段があって、どんな魔物が棲息し、隠し通路や財宝の場所まで……。

 この世の全ての冒険者が欲しいであろう情報が、余すことなく集約される。

 ブリジットは今まで数多のダンジョンに潜り、様々な魔導具を駆使して地図の製作にもあたったが、これほどまでに精巧で、しかも早いマッピングは初めて見た。


「す、すごすぎます……。間違いなく世界最速で、世界一安全なマッピングです……。ダンジョンに入らなくてもできるものなんですね」

『入る前から地図ができちゃうなんて、ネオン様々ウニ』

「罠の場所も自動で示しているよ。あと数分で全部の情報が集まるはず」


 タブレットにダンジョンの構造が事細やかに明示されていく様に、スパイ三人は息を呑む。 ネオンが持つ【神器生成】の力は目の当たりにしてきたつもりだが、何度見ても驚愕のスキルだった。


(ネオンの神器がすごいのは武力だけじゃないんだよな。薬に探索に、汎用性が高すぎる……)

(一歩も入らずにマッピングなんて、ボクのどんな魔法でも不可能だよ……)

(ダンジョン探索の歴史が変わってしまいます……)


 三大超大国にも未踏破のダンジョンは数多くあるが、ネオンがいたらあっという間に攻略されてしまうだろう。

 今まで見逃されてきた隠し財宝さえ容易に手に入る。

 武力とはまた別の方向で国は豊かになる。

 それこそ、ライバル国より一歩も二歩もリードするくらいに……。

 

((何があっても我が国に……引き入れたい……!))


 一緒にのんびり暮らす中で、忘れかけていた任務を思い出す。

 スパイ三人がメラメラと燃えていると、シーカーによる探索が完了した。

 タブレットに記された情報を、ネオンは読み上げる。


「ふ~ん、全部で30階層なんだって。最下層には……たぶん主の部屋だろうね、分厚い扉があるみたい。扉の中までは観測できなかったよ。魔物の生息域とか罠、財宝の場所もバッチリ映ってるから、これを見ながら進もう」

「素晴らしいです、ネオン様。ダンジョンの重要な情報が余すことなく記載されています」


 タブレットの情報をみなで確認していると、魔物がやけに密集している場所があった。

 その中央には、人間を示すアイコンもある。

 二階層の東側だ。


「……ん? ダンジョンの中に誰かいるみたいだね。全部で四人?」

「おや、たしかに……。冒険者でも入り込んだのでしょうか。……キアラさん、ここを発見したとき、他に誰かいましたか?」

「いいえ、わたくしたちの他に誰もいませんでしたわ」


 ブリジットの問いかけに、キアラは首を横に振った。

 無論、四人の正体はマルクたちである。

 攻略はおろか、わずか2階層で絶体絶命のピンチに陥ったのだ。

 マッピングの動きからは、今にも魔物に殺されそうな状況がわかる。


「早く助けた方がいいみたい! シーカーで避難誘導しよう!」


 ネオンが2階層にシーカーを飛ばすと、すぐにマルクたちに合流した。

 タブレットに現地の映像が映る。

 魔物の中央に四人の冒険者がいた。

 やはり、状況は悪いようだ。


「みなさん大丈夫ですかっ! 僕はネオンと言います! 出口まで誘導するのでついてきてください!」

「は、はぁ!? 何だよ、こいつ! 何で喋ってんだ!」

「あの~、助けに……」

「うるせえ! 誰だか知らねえが、助けなんていらねえ! 放っておけ、馬鹿野郎が!」


 ネオンは懸命に助けに来たと伝えるも、マルクはシーカーに向かって剣を振り回す。


「……ダメだ。説得がうまくいかな……」


 後ろを振り向くと、ブリジットたちの凍てつく瞳を見て恐ろしさで言葉を失った。


「ネオン様、放っておきましょう。彼らは人間ではありません」

『人の皮を被った魔物ウニ』

「放置で良い。助けるにも値しないヤツらだ」

「無視しよう。それが最善の策だね」

「あれは喋るゴミです。元々、ゴミに命はありませんので、魔物に殺されても問題ありません」


 彼女たちの目は<神裂きの剣>のように鋭く、声は極寒の冬山のように冷たい。


「で、でも、仲間もいるみたいだし……見過ごすのはさすがに……」


 と、ネオンが言うと、ブリジットたちは何かに気づいたように話す。


「たしかに、そうですね。不敬を見過ごすのは許せません」


 ブリジットの言葉に、オモチとスパイ三人は力強く頷く。


『断罪するウニ』

「罰を与えてから放置しよう」

「暴言には目をつぶるのではなく、八つ裂きにするべきだね」

「わたくしは遺体を溶かす薬を持っております」


 ――む、むしろ、魔物に襲われている方が幸せだったんじゃ……。


 静かにそう思うネオンは、一行とともにダンジョンを進む。



 □□□


 

 同時刻。

 マルクは剣を振り回しながら、懸命に魔物の群れを追い払う。


(ちくしょう……。こんなはずじゃなかったのによ!)


 本当なら無双しまくって、今頃主の部屋に辿り着いていたはずだった。

 それなのに、二階層で"魔物召喚"の罠を踏み抜いたせいで、あっという間に追い詰められた。

 周りにいるのは、上級の魔物が十体。

 撃退用の攻撃ポーション他、サポート魔導具は一瞬で底をつき、体力も魔力も限界が近い。 部屋の一角に集まって防御することでどうにか拮抗しているが、まさしくジリ貧そのものだった。

 マルクは苛立ちを込めて、前で戦わせている三人の仲間を怒鳴りつける。


「クソッ、こうなったのもお前らのせいだ! 罠くらい見破れよ!」

「ちょっ! 人のせいにしないでください!」

「死ね! 責任取れ!」

「だから、なんで俺たちを攻撃するんですか! あんた、馬鹿ぁ!? マルクさ……おい、止めろよ、イキリーダー!」


 マルクが仲間を攻撃するせいで連携が乱れ、ギリギリの拮抗が崩れた。

 魔物が一斉に襲い掛かる。


「「うわあああああっ!」」


 一同が顔を覆ったとき…………全ての魔物が消し飛んだ。

 肉片がボトボト落ちる光景に呆然としていると、一人の少年が現れた。


「大丈夫ですか、助けに来ましたよ」


 ネオンの声を聞き、シーカーの声の主だとマルクは気づく。

 このような子どもに窮地を助けられたことが猛烈に苛立ち、キレた。


「このガキ、なに余計なことをしてんだよ! 俺の手柄を横取りすんじゃ……!」


 そうキレるマルクは、最後まで言葉を紡げなかった。

 ネオンの後ろから出てきた女性陣とウニネコ妖精の、怒りのオーラが凄まじかったから。


「さて、今ので死刑が決定しました。ネオン様への不敬を断罪しなければなりませんね。私は内臓を破壊します」

『ぼくは針攻撃で目を潰すウニ』

「じゃあ、あたしは両足を折って逃げられなくしてやろう」

「ボクは両腕を焼き尽くして抵抗できないようにするよ」

「それでは、わたくしは血液が逆流する毒薬を飲ませて、地獄の苦しみを与えて差し上げましょう」


 当然のように話すブリジットたちの言葉に、マルクは震え上がる。


「す、すまん、待ってくれ……。ちょっとイキッちゃっただけで……」

「「もう遅い」」


 彼女たちのオーラは、そこら辺の魔物などまるで相手にならない威圧感だ。


 ――もしかして、みんなの方が魔物より怖……。


「う……うわあああああ!」


 マルクの断末魔の叫び声が響く中、ネオンはそっと目を閉じた。

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