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第49話:転生王子、ダンジョンに向かう

「……ネオン様、開拓計画の進捗ですが概ね順調でして、むしろ5%ほど早く進んでいる状況です」

「ありがとう。これも皆のおかげだね」

『ネオン様々ウニ』


 ブリジットの報告に、オモチを撫でながら応える。

 ネオン王国が建国されてから、およそ二週間が過ぎた。

 相変わらず、領地の開拓に勤しむ毎日。

 ティアナたち"兎獣人"、そしてリロイたちウンディーネを招いたことですこぶる賑やかな土地となっていた。

 元"捨てられ飛び地"は狭いと言われつつも、実際はそれなりに広大だ。

 居住区外の、特に辺縁部は瘴気がまだ残っている。

 そのため、スパイ三人がそれぞれの部下を数名引き連れ三方向に散らばるようにして、最後の浄化兼開拓を進めていた。

 みなの懸命な働きもあり、現在浄化は領地全体の8割ほどが完了した状態である。

 ブリジットは楽しそうに働く領民を眺めながら、満足げに話す。


「ネオン様のおかげで、遠征組も問題なく開拓に勤しむことができますね」

「少しでもみんなの苦労が和らいでくれてたら嬉しいな」


 開拓遠征組は領地から離れるほど家に戻ってくるのが大変になるので、ネオンが中継地点に宿泊施設を神器生成した。

 おかげで、遠征組は快適な環境で開拓に集中することができた。

 ただ一つ、ネオンシックだけが辛いが……。

 日課となった領地の確認を始めると、ジャンヌが他の地底エルフとともにたくさんの魔物を持ってきた。


『おーい、ネオンー。今日は活きの良いヤツらがいっぱい獲れたぞー』

「うわぁ、たくさん獲れましたね。食卓が豪華になりそうです」


 ジャンヌたち地底エルフは、主に狩猟の担当だった。

 元々戦闘能力が高いし、太陽の下で走り回るのが大好きだからだ。

 畑の状態などを確認しに向かうと、水路から引かれた水場で、リロイたちウンディーネが笑顔で手を振る。


『ネオン殿さんちゃん君様~、今日もお水がおいしくて幸せです~』

「それはよかったです。好きなだけ吸収してくださいね」


 みな水に入っては半一体化するのが好きなので、ネオンは専用の水場を用意した。

 彼女たちは水の扱いに長けており、今や広大な面積になった畑の水やりを大変効率よくこなしてくれる。

 野菜や果物の水分量も把握できてしまうので、作物の生産量が4割ほどもアップしたほどだ。

 少し歩くと、ティアナの"ペルジック・リベル商会"の拠点が現れた。

 入り口からティアナが部下たちと出てくる。


『あっ、ネオン殿、ちょうどいいところに来たラビ。商会の売り上げは右肩上がりラビでね、特にネオン殿グッズが爆売れしているラビよ。ここらで新しいグッズを作りたいんだラビ』

「そ、そうですか……」


 塗り絵だのぬいぐるみだの、ネオンを模した種々のグッズは売れに売れていた。

 主な輸出先は三大超大国。

 できれば各国家元首に渡す程度にしていただきたかったが、ブリジット含め領民たちの強い希望により、全世界への進出を目指している現状だった。

 ブリジットとティアナが嬉々として新グッズの相談を始めたところで、北の方角から遠征組のキアラたちがこちらに歩いてのが見えた。

 ネオンを見つけると、駆け足で走ってくる。


「キアラさん、お帰りなさい。予定より早かったですね」

「ええ、それがお伝えしたいことがありまして、早めに切り上げてきたのです。北の一角に、巨大なダンジョンが出現したのです。おそらく、突発迷宮の類いかと……。内部の調査はまだできておりませんが、攻略には少々難義しそうです」


 キアラの報告に、ネオンもブリジットも顔が強張った。

 この世界において、ダンジョンの成り立ちには二通りある。

 一つ目は、廃墟となった街などに魔物が棲み、やがてダンジョン化するもの。

 二つ目は、突発的に出現するもの。

 概ね、後者の方が難易度も魔物の強さも強いのが定説だ。

 ネオンはしばし対応を考えていたが、やはり攻略が良いと結論づける。


「放っておくと、居住区に魔物が来る可能性があるね。主を倒せば魔物も消えるはず」

「私もネオン様のご意見に賛同いたします」


 攻略メンバーはネオン、ブリジット、キアラ、ルイザ、ベネロープの五人で行こうと相談したところで、腕の中のオモチが顔を出した。


『ぼくも一緒に行きたいウニ』

「オモチも? でも、ダンジョンには怖い魔物もいるよ?」

『いや、頑張るウニ。色んな世界を見たいんだウニ』


 オモチはいつの間にかウニネコ妖精のリーダー的ポジションに就任しており、『群れを導くためにも色々な経験をしなければ……ウニ!』と、ダンジョン攻略に人一倍やる気が溢れていたのだ。

 みんなでいれば大丈夫だろう、ということでオモチの同行も決まった。

 ブリジットが鳥を模した伝令の魔法を飛ばし、ベネロープとルイザに伝える。

 開拓をしながらしばらく待った後、二人から、ともに"現地で集合する"旨の連絡が届いた

 何もない地面にダンジョンの入り口があれば目視でわかるし、ダンジョン特有の魔力も感じ取れる。

 居住区に一度戻るより効率的なこともあり、現地集合で問題ないと考えられた。


「一応、セントリーも自動警戒モードにしておこう」


 デビルピアを倒したセントリーは、引き続き領地の警戒に当たっている。

 稼働するには定期的な魔力補給の必要はあるが、これ以上ない味方と言えた。

 水や食糧などを鞄に詰める。


 ――なんだか、修学旅行に行く前みたい。


 と、ネオンはウキウキしながら準備を進める。

 傍らで旅支度するブリジットも、それはそれは楽しそうな笑顔だ。


「いずれ、私たちも新婚旅行に行かないといけませんね。今回は予行演習といたしましょうか」

「う、うん、そうだね……」


 彼女の頭の中では、すでにハネムーンの計画が練られ始めていた。

 準備をするとあっという間に翌日を迎え、ネオンは領地の前で号令をかける。


「では、みんなで修が……ダンジョン攻略に行きましょー!」

「「おおおー!」」


 ネオン一行は北へと向かう。

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