第45話:国王と双子兄、後悔するももう遅い
「「ニ、ニコラス……」」
予定より大幅に早く帰国したニコラスに、三人とも驚きを隠せない。
アルバティス王は未だデビルピアの一件から覚めぬ頭で、懸命に考える。
(……おかしい……こんなに早く帰国するはずがない……)
本来なら、九年後に帰ってくるはずだ。
ニコラスは意味ありげに微笑んだまま動かない。
不安な心を隠すように、アルバティス王は大声で問うた。
「りゅ、留学はどうした! 全ての大学を卒業するには……最低でも十年はかかるはずだ……!」
エルストメルガ大学、カカフ大学、ユリダズ大学……超大国が誇る世界最高峰の学術組織に、留学に行かせた。
自分たちから、引き離すために。
父親の問いに、ニコラスは変わらぬ笑みで答える。
「ご安心ください、もう終わりましたよ。……ギルベール」
「はい」
ニコラスが呼びかけると、通路の暗闇から長身の男が現れた。
主から預かった三枚の紙を、アルバティス王と双子兄の前に魔法で飛ばす。
いずれも、首席合格の卒業証書であった。
「しゅ、首席……だと……?」
「もう少し早く帰国する予定でしたが、三大超大国を視察したかったので遅くなりました。とても有意義な一年でしたよ。いやはや、王国の事情をもっと早くに知れていれば帰国を早めたのですが……」
玉座からは15mほども離れているのに、ニコラスの魔力が頬を撫でるのを感じる。
ニコラスはさて、と歩き出しながら話す。
「私がいない間に、あなたたちが行った悪事は全て知っています。どれも決して許されない行いだ。……私は同じ王族として恥ずかしい。あなたたち三人はアルバティス王国の恥ですよ」
さらさらと述べたニコラスに、アルバティス王と双子兄は沸々と怒りを覚える。
特に、双子兄は戦闘の意思を示す。
「チッ、このクソ兄貴が。お前はいつも見下した顔で見やがる。天上に住まう神々にでもなったつもりか? その傲慢な態度に俺っちはもう限界なんだよ!」
「これはお前の調子に乗った顔を床に叩きつけてやる絶好の機会だな。お前と俺っちの力の差を見せつけてやるよ」
暴言を吐いた双子兄は魔力を練り上げる。
彼らのスキルはともに、全属性の魔法を扱える【賢者】だ。
二人で魔力を併せ、頭上に雷を纏った巨大な火球を出現させた。
「「《雷焔弾》!」」
ニコラス目がけて猛スピードで放つ。
今の双子兄が使える最強の魔法だ。
結論から言うと……双子兄の攻撃はそもそも当たらなかった。
「まぁ、落ち着きなさい」
ニコラスは、すでに双子兄の間にいたから。
《雷焔弾》はギルベールが片手で弾き、壁を小規模に破壊して消滅する。
そのまま、ニコラスは二人の肩に置いた手に"優しく"力を込める。
「お前たちじゃ私に勝てないことは、よくわかっているでしょう。それより、一年前から何も変わっていない実力に驚きましたよ。……この一年、何をやっていたのですか?」
「「あ、あ……」」
双子兄は軽く魔力を注がれただけで、完全に戦意を喪失させた。
がくがくと震え、床にうずくまる。
ニコラスの視線は、玉座に座るアルバティス王に向いた。
「ま、待て、来るな……来るんじゃない」
「息子にそんなひどい言葉をかけないでください。ふふっ、あなたたちには罰を与えないといけないですね」
全てを捨てて逃げ出したいのに、腰が抜けて動けない。
玉座にしがみつくアルバティス王に、ニコラスは柔らかに微笑みんだ。
「……そうだ。罰として面白い魔法を思いつきました。"税を課す魔法”ってどうでしょう」
「な、に……?」
その言葉に、アルバティス王はたどたどしく聞き返す。
何か、極めてまずい魔法のような気がした。
ニコラスは宙を見ながら、数々の課税を諳んじる。
「独身税、歩行税、睡眠税、起床税、食事税……。ふふっ、よくもまぁこんなにたくさんの税を思いつきましたね。面白い」
「や、やめろ……」
「《超重税》」
途端に、アルバティス王と双子兄の全身が重りを乗せられたように重くなった。
ニコラスが発動したのは、愚かな三人が嬉々として国民に強いた数々の課税を、本人たちに強いる魔法。
たった今、即興で発明したのだ。
「ギルベール、この者たちを監獄に連れて行きなさい。殺してしまってもいいですが、死んだら楽になりますからね。苦しみが友達の人生を送ってもらいましょう」
「承知しました」
抵抗などできるはずもなく、アルバティス王と双子兄は監獄塔に連行された。
◆◆◆
暗闇しかない監獄で、アルバティス王も双子兄も床に横たわることしかできない。
収監されて、もう何時間……いや何日経っただろうか。
歩くだけで両足は焼きごてを当てられたように痛み、意識を失って寝そうになるたび激しい頭痛に襲われ、起きているだけでも身体が見えない縄で硬く締め付けられるようだ。
食事や排泄、呼吸でも痛みに襲われ、もはや存在しているだけで全身が辛い。
国民に課した税が、そのまま自分たちに跳ね返ってきた。
死ぬまでこんな生活を送るなんて、まさしく地獄だ。
とうに体力の限界を迎えていたアルバティス王と双子兄は、徐々に意識が霞れる。
ようやく眠れると安心した瞬間、ハンマーで殴りつけられたような痛みに襲われ飛び起きた。
身体も心も休めていないので、どうにかなりそうだ。
頭の芯がずっと重い。
いっそのこと死んでしまいたかったが、ニコラスに嵌められた自決防止の枷のせいで、自死さえ許されない。
痛みに耐え続けていると、三人の頭にはふと少年の姿がぼんやりと思い浮かんだ。
よく知っている少年だ。
――ネオン・アルバティス。
いつも国民のために行動し、いくら辛い境遇にあっても健気に頑張っていた息子で弟。 彼を思うと、自然と涙が零れた。
((ネオンを追放したりしなければ、こんな目には遭わなかったのに……))
後悔しても、もう遅い。
今ここに、アルバティス王と双子兄はただ苦しむだけの人生が確定した。
◆◆◆
三人を投獄した直後。
"王の間"ではニコラスとギルベールが、すでに事後処理を始めていた。
「……やれやれ、この後始末はかなり大変そうですね」
「私めも全身全霊で尽力いたします」
三大超大国にはまず謝罪の手紙と品々を送り、謁見の予定を決めることになった。
事後処理が一段落したところで、ニコラスはネオンについて思いを巡らす。
自分がいない間に、相当な苦労をかけてしまった。
いじめに加担した使用人や、デビルピア招来に力を貸した魔法使いたちも探し出し、全員処罰するつもりだ。
ネオンと言えば……と思い、ニコラスは指示を出す。
「……ギルベール、大陸の地図を出してくれますか?」
「こちらにございます」
ニコラスは大陸を記した巨大な地図を、魔法で空中に浮かべる。
魔力でダーツを生み出すと、シュッと美しい所作で投げた。
「エルストメルガ帝国」
首都クレオフィアに一本目が刺さる。
「カカフ連邦」
首都エリゼオンに二本目が刺さる。
「ユリダス皇国」
首都ブリンダルに三本目が刺さる。
三大超大国の全ての首都を射貫いた後、ニコラスの目は月が出ていない闇夜のように暗くなった。
「世界を導くのは……こいつらじゃない」
ダーツから生まれた真っ赤な炎により、大陸地図が燃え盛った。
ニコラスもギルベールも、まったく揺るがぬ瞳で見つめる。
炎が収束しパラパラと紙の破片が舞う中、ニコラスは告げた。
「世界の統率者になるべきは…………君ですよ、ネオン」
三大超大国を視察した結果、ネオンこそが世界を統べるべき存在だと確信した。
故に、今の現状はとうてい認められなかった。
「ネオンには、このまま建国してもらった方がいいかもしれませんね。ただの辺境の領主では、器に収まらない。その旨を記した文書を飛び地に送りなさい。もちろん、王国にはいつでも帰還していいとも伝えるのです」
彼の言葉に、ギルベールは音もなく頷く。
ニコラスは穏やかな態度でいるが、その内面ではネオンを狂信的に愛していた。
そんな彼のスキルは…………【超越者】。
相手の上位互換の能力を得るスキルである。
この力があれば、三大超大国にも十分対抗できると考えていた。
そこに愛しのネオンが合わされば、この世界に敵はいないとも。
(ネオン、私と一緒にこの世界を手に入れましょう。この世の物は、全て君の物だ。私が君の欲しい物を全部用意してあげます。でもね、ネオン……)
愛する弟を思うと、微笑みが止まらなかった。
(君は私の物だ)
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