第43話:転生王子、国家元首とその娘たちと再会を誓う
宴の翌日。
国家元首たちが飛び地を立ち去る日がやってきた。
ネオンは今、領地の入り口でお別れの挨拶を交わしている。
ともに過ごした時間は一日と少しと決して長くはないのに、もう何年も一緒に過ごしたような密度だった。
各国家元首は、ネオンと握手をしては親愛の言葉をかける。
「そのうち、帝国にも遊びに来てくれ。国賓として手厚く迎えたい」
「連邦も同様だ。君に出会えたことが、連邦の何よりの財産さ。飛び地で過ごしたことはずっと忘れない」
「皇国もお主を熱烈に歓迎するぞよ。ワシの親友……いや、若者言葉でいうマブダチとしてな。また会える日を楽しみに待っておる」
「……ありがとうございます。いつか必ずお伺いしたいと思います」
ネオンもまた各国家元首と握手を交わし、いつの日か訪問することを誓った。
娘たちとも別れの挨拶をすると、何やら小声で呟かれる。
「私はまだ諦めてないからね」
「わたしもよ~。諦めたらそこで終わりだから~」
「ネオンと……ずっと一緒にいたい……」
ブリジットの顔が硬くなっているのを背中で感じるが、娘たちとも無事に挨拶を終えた。
その光景を温かく見守るスパイ三人は、それぞれの国家元首の視線から、彼らの心中を察する。
(わかっております、帝王様)
(引き続き、ネオン君との関係を強化します)
(それが我が国にとって、最も有益なのですから)
秘密裏に相談した結果、彼女たちは飛び地に残ることが決まった。
国家元首は一度帰国するが、定期的にネオンの情報を伝えるためである。
今回の飛び地訪問を経て、三大超大国の間ではネオンの評価が一段と高まった。
彼を味方につけた国が勝つ……。
互いに静かに牽制し合う中、ブリジットが進み出た。
「さて、実はみなさまにお土産がございます。"捨てられ飛び地"が誇る、世界に類をみない特産品でございます」
彼女の言葉に、ネオンは感嘆として呟く。
「お土産なんて用意してくれたの。さすがはブリジッ…………まさか!?」
次々と運び込まれる数多のネオングッズを見て、モデルとなった少年は「やっぱり……」と頭を抱える。
ぬいぐるみにパズルに塗り絵……。
この前見た頃よりデザインが洗練されていて、改良が進んだことがわかる。
数々のネオングッズを渡されると、各国家元首及び娘たちは大変に喜んだ。
国宝にするとまで言われ、ネオンは恥ずかしくて仕方がない。
とはいえ、と思う。
――さすがに、冗談だよね? ぬいぐるみを国宝にした国なんて聞いたことがないもの。
種々のお土産は本当に国宝として登録されてしまうわけだが、それはまたこの先のお話。
兎にも角にも、お互いに最後の別れを交わす。
国家元首たちは各々の馬車に乗り込み、本国へと帰っていく。
「お元気でー! またお会いしましょうー!」
ネオンはブリジットや他の領民たちと一緒に、三大超大国の一団を見送る。
姿が見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。
□□□
ガタゴトと本国に向かう、エルストメルガ帝国の最も豪華な馬車。
その中では、グリゴリーとシャルロットが飛び地での日々を惜しんでいた。
「彼には多大な借りができてしまったな。いずれ返さなければ……。シャルロットよ、ネオン少年はどうだった?」
「婚姻関係うんぬんは置いといて、いつまでも仲良くしてもらいたいわ。あんなに強くて人徳にあふれた人は、ネオン君の他にいないもの」
カカフ連邦の一番立派な馬車でもまた、ガライアンとアリエッタがネオンに対して思いを募らせる。
「今回の訪問は非常に有意義な時間になった。ネオン少年とは、いずれゆっくりと話をしたいものだ」
「わたしもネオンちゃんとはまだまだ話し足りないわ~。なるべく早く、お話の機会を作りたいわね~」
ユリダス皇国の豪奢絢爛な馬車の車内。
バルトラスとラヴィニアは、ネオンに思いを馳せる。
「ラヴィニアよ、ネオン少年と仲良くできてよかったのぉ」
「また……ネオンに会いたい……」
みな、ネオンへの賞賛と離れていく寂しさをいつまでも話していた。
□□□
各々が思う馬車を見送ったネオンは、後ろを振り返る。
目に飛び込んでくるのは、ブリジットにルイザ、ベネロープ、キアラ、ジャンヌ、オモチ、そして領民たち……。
――みんながいたから……僕がいる。
その事実に改めて感謝して、ネオンは力強く拳を突き上げた。
「では、デビルピアの襲撃で荒れてしまった領地を元に戻しましょう。みんなでやればすぐに元通りになるはずです」
「『おおおー!』」
ネオンの言葉に、みなは笑顔で応えた。
今日もまた、領地の開拓が始まる。
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