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第41話:転生王子、魔神を倒して領地を守る

『守る。それは、敵より強いからこそ成り立つ行動だ。……《隕石群の大招来》』


 デビルピアは不敵に笑い、使い魔とともに数十m上に巨大な魔法陣を展開させた。

 間髪入れず、大量の隕石が猛スピードで放たされる。

 宇宙空間を高速で飛び交うデブリを、そのまま召喚する魔法だ。

 一同が構えたとき。

 ネオンは今まで貯め込んだほぼ全ての素材を消費して、領地を領民を、大事な皆を守る神器を生成した。


「〈神器生成〉!」


 彼らの前に現れたのは、世界最大級の巨大なゴーレムだ。



<NA-001 セントリー>

 等級:神話級

 説明:型式番号NA-001。全長18m強の二足歩行型ロボ。ツインアイ。重量30t。ジェネレーター総出力4000kW。全身に領地を守るための強力な武器が装備されている。


 

 視野をネオンと共通しており、コックピットに入らずとも念じるだけで操縦が可能である。 神器生成の光景を見て、周りの人間と同じようにデビルピアも驚く。


(なんだ、あの兵器は!? どこに隠れていた! あんな……あんな馬鹿げた魔力を持った兵器を!)


 デビルピアの目には確実に、自分と同じかそれ以上の存在に感じられた。

 これほどまでに膨大な魔力の集まった兵器が、突然目の前に出現したことにネオンの力の片鱗を見る。

 だが、人間如きが自分より強いはずがないと即座に不安を打ち消した。


「全部撃ち落として!」


 セントリーの両腕に収納された、100mmガトリング砲が展開。

 高圧縮の魔弾を撃ち出し、全ての隕石を破壊する。

 瞬く間に、人的物的被害が出ない程度の小石と化し、デビルピアはわずかに表情を硬くした。


(あの魔弾は何だ。初めて見る……念のため、安全策を取った方が良いか)


 不可避で不可侵攻撃が防がれた様子を目の当たりにして、デビルピアは計画を変える。


『お前たちは地上に残れ。余は"聖域"から攻撃を仕掛ける』


 使い魔に指示を出し、遥か上空に飛び上がった。

 数千年前と同じように、この地上で自分しか辿り着けない"故郷"を目指して。

 無論、それを見逃すネオンではない。


「追いかけて、セントリー!」


 すぐさまバックパックと脚部のスラスターが起動、デビルピアを追いかける。

 射程距離に入ったことを確認したネオンは、ロックオンを完了させた。


 ――誘導弾発射!


 バックパックの背面が開き、誘導機能のあるミサイルが何発も発射される。


『本体諸共打ち落としてくれるわ! 《輪舞の闇斬》!』


 闇すら切り裂くようなどす黒く、巨大な円刃が何発も襲い掛かった。

 亜音速の攻撃を、誘導弾は自動で躱しデビルピアに直撃する。


(回避機能付きの誘導砲弾!? ……うぐううう!)


 一発一発が地中貫通爆弾と同程度の破壊力。

 デビルピアの硬い体表を貫き、内蔵にまで強いダメージを与えた。

 黒ずんだ血の雨が降る。

 全弾命中したものの、煙が晴れる頃にはデビルピアの身体は傷が塞がっていた。

 ネオンは特に驚愕することもなく、淡々と思う。


 ――なるほど、再生能力があるのか。だけど、対処方法はある。再生を上回るほどの攻撃をすればいいだけ。


 両手のガトリング砲を発射しながら後を追い、デビルピアもまた迫り来るセントリーに攻撃を仕掛ける。


(ふむ、追いかけてくるか。むしろ好都合。"聖域"にまで到達すれば、此奴も活動を停止するはずだ)


 互いに大戦のような猛攻撃をぶつけるデビルピアとセントリー。

 両者は漆黒の闇に包まれた、極寒の空間に辿り着いた。

 前世では映像でしか見たことがない場所に、ネオンは静かに事実を認識する。


 ――……宇宙か。


 セントリーは宇宙の過酷な環境にも耐えられるため、地上と同じように活動できる。

 デビルピアもまた、初めての光景にむしろ驚嘆を感じた。


(よもや、"聖域"にまで追ってくるとは……想像以上だ)


 この世界の人間はおろかどのような生物もたどり着けないこの空間を、デビルピアは"聖域"と呼んでいた。

 宇宙空間からの超超超高度攻撃。

 それが、数千年前に世界人口の七割も死滅させた所以であった。

 沈黙と漆黒が支配する空間で、先に動いたのはデビルピアだ。

 宇宙に漂う魔力を吸収して、漆黒の光線を放った。


『《絶死の魔壊閃》!』


 数千年前の勇者ですら防げなかった、死の光線だ。

 触れた瞬間、生体の細胞にまで致命的な損傷と回復不能のダメージを与える。

 ネオンは即座にセントリーの魔力を一カ所に集めた。


 ――腹部高圧縮粒子砲、発射!


 セントリーの腹部に設置された射出口から、太陽の輝きを思わせる白いレーザーが発射された。

《絶死の魔壊閃》に衝突し、莫大なエネルギーが生まれ空間が捻じ曲がる。


(封印される寸前、勇者をも殺した魔法だ。貴様の光魔法諸共消し去ってくれる!)


 拮抗したのは一瞬で、粒子砲は死の光線を簡単に切り裂き、デビルピアに直撃した。


『がっはっ……おのれっ! ……だが、余を殺すことなどできん!』


 高出力の粒子砲がデビルピアの胸部を貫いたが、すぐに再生が始まる。


 ――やはり、再生するか。それなら……。


 粒子砲を拡散させ、目も潰れるほどの閃光を放った。


(目眩ましか!)


 視界を奪った一瞬の隙をついて、膨大な魔力を纏わせた拳で殴りかかる。

 落雷の100倍の高電圧、100億ボルトの電気がデビルピアを襲った。


『ぐ、ああああああっ!』


 ――まだだ!


 デビルピアを殴りつけたまま、セントリーは空に落ちる。

 大気圏突入による空力摩擦が生じ、徐々に両者の全身は赤く染まる。

 空気の膨大な摩擦により、あっという間に摂氏3000度もの高熱に包まれた。


(ぐっ……まずい! 再生が間に合わん!)


 本来なら、膨大な魔力の鎧で防御してから大気圏に突入する。

 だが、電撃と準備の時間を与えない突入により、デビルピアの身体には再生し切れないほどのダメージが蓄積し始めた。

 空気摩擦を強めるため、セントリーはフル出力を発揮する。

 両者はものの数十秒で大気圏を突破し、全身の焼けただれたデビルピアが遥か上空に見えた。

 ネオンは留めを刺すため、<神裂きの剣>に魔力を込める。

 己の運命を悟ったデビルピアは、流れる走馬灯とともにネオンの真価に気づいた。


(勇者の再来……? ……いや、それ以上の……!)


 天をも貫く巨大な剣が眼前に迫り、思考はそこで途切れた。


「<極大冥撃>!」

『ぐ…………あああああああ!』


 デビルピアの断末魔の叫びが地上にまで轟く。

 ネオンの生み出した魔力の巨大な剣は、デビルピアだけでなく雲を切り裂き、大気を貫き、宇宙に飛び交う隕石すらも切り裂いた。

 ゴドン!とデビルピアの亡骸が地面に衝突する。

 

 ――そうだ、使い魔たちは!?


 周りを見ると、四体の使い魔はブリジットやスパイ三人の他、地底エルフや領民、国家元首の護衛たちが力を合わせて既に討伐していた。

 地面に横たわる亡骸に勝利を確信したネオンは、嬉しさに拳を強く握る。


「勝った……領地を守れたんだ……!」


 ネオンの雄叫びに呼応するように、領地にいる全ての人間がネオンに駆け寄った。

 真っ先に、国家元首たちが喜びと感謝の言葉を叫ぶ。


「あのデビルピアを倒すとは……ネオン少年、これは歴史に残る大偉業だ! 朕は……朕は感激だ!」

「ありがとう、ネオン少年! 君のおかげで僕たちは救われた! 連邦は救世主として讃え続ける!」

「一度ならず二度も命を救ってくれるなんて、お主はどこまで想像を超えれば気が済むんじゃ!」


 何か答える間もなく、彼らの娘たちが屈強な三人を押しのけ現れる。


「パパを、そして私たちを助けてくれてありがとう、ネオン君! ……ああ、もう! 他に感謝の言葉が思いつかないのが悔しいわ!」

「あなたには世界中の誰も追いつけないわ~! いくら感謝してもしきれないとはこのことね~!」

「ネオン……かっこいい……! 大好き……!」


 さらに続けてスパイ三人も領民もジャンヌも地底エルフたちも、ウニ猫妖精たちも……全員が喜びを爆発させる。


「よくやったぞ、ネオン! まさしく、お前は世界最強だ!」

「ありがとうネオン君! 君がここにいてくれたから、僕たちは今生きている!」

「ネオンさん、心の底から感謝申し上げます! あなたのおかげで、また楽しい人生が送れます!」

『お前は際限なしに強くなるの! こんなすごい人間が仲間にいるなんて、妾も鼻が高い!』

『悪いヤツをやっつけてくれてありがとウニー! ネオンがいれば何も怖くないウニ!』

「「ネオン様、このご恩は一生忘れません!」」


 彼らを見ながら、ネオンは静かに思う。


 ――みんなの笑顔が守れてよかった。


 揉みくちゃにされるネオンの横に、そっとブリジットが寄り添う。


「ネオン様、やっぱりあなた様こそ至上最高の領主で、そして旦那様ございますね。隣にいられるのが本当に幸せです。これからも一生ついてまいります」

「ありがとう、みんなのおかげだよ。そして……これからもよろしくね」


 ネオンを讃える歓喜の声は、いつまでも絶えることがなかった。

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


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