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第40話:転生王子、国家元首とその娘たちと会う

 手紙を受け取ってから、きっかり一週間後。

 とうとう、国家元首訪問の日がやってきた。

 諸々の準備は無事に完了しているが、ネオンは朝から緊張しきりだ。

 オモチを撫でて、少しでも心を落ち着かせることしかできない。


「ほ、本当に、今日国家元首たちが来るなんて……。緊張で心臓が飛び出しそうだ。この訪問がきっかけで戦争にでもなったらどうしよう」


 目立った衝突はないものの、三大超大国はライバル同士として知られていた。

 故に、彼らが一堂に会するのは極めてよくない気がする。

 訪問予定は三国とも今日だったので、せめて時間だけはズラしていただきたい!と、ネオンはこの一週間祈っていた。

 せめて、ギリギリまで祈ろうと心の中で手を組んだところで、ブリジットが至極達観した表情で語る。


「何も心配はいりません。いずれもネオン様に会いに来るわけですから、堂々としていてくださいませ。むしろ、こんなに待たせるとは何事だと文句を言ってもいいのです」

「よくないよ!」


 文句など言おうものなら、その場で処刑されかねない。

 終始緊張しっ放しだが、朗報が一つあった。

 今のところ、ブリジットの手にぬいぐるみだの塗り絵だのは抱かれていないのだ。


 ――でも、僕のグッズはないみたいでよかったな……。たぶん、さすがにまずいと思ってくれたんだろうね。


 ネオンの心中を察したかのように、ブリジットはネオングッズの所在についてとうとうと述べる。


「ご安心くださいませ。お土産でお渡ししますので。ぬいぐるみに塗り絵に分解パズルに、全て用意しております。ちなみに、特製シャツも昨日思いついたので一緒に配る予定です」


 喜ぶ彼女に対しネオンががっくりと肩を落としたところで、領地が騒がしくなった。

 まず最初に駆けてきたのは、どこかワクワクした様子のジャンヌだ。


『なんか知らんが、馬車がいっぱい来たぞ~。今日は何かイベントがあったかの~? パーティーかぁ~?』

「あなたは参加しない方がよさそうですね。歓迎会が温まるまでは隠しておきましょう。……では、みなさんお願いします」


 ブリジットがパチンッと指を鳴らすと、たくさんのウニ猫妖精がジャンヌを運び出す。


『お、おい、何をする! 思い出した! よく覚えてないが、何か大事なお話会みたいなのがあるんじゃろ!? 妾も参加するぞ! 地底エルフの主なんじゃぞ~!』

『『ウニウニウニニ~』』


 ジャンヌはウニ猫妖精たちに運ばれ、領地の片隅へと消えていく。

 声が聞こえなくなったところで、今度はスパイ三人があくせくとこちらに駆け寄った。


「帝王様がお見えだぞ! 予想以上の大部隊だ!」

「大総統様もいらっしゃった! あんな大規模な一団は見たことないよ!」

「皇帝陛下もおいでです! すごい数の馬車ですわ!」

 

 彼女たちの言葉に、今度こそネオンとブリジットは駆け出す。

 領地の入り口に着くと、三方向からたくさんの馬車がこちらに来るのが見えた。

 それぞれ同じタイミングで到着し、最も豪華な車輌から国家元首と娘が降りる。

 また年頃の女性が来てブリジットは顔をしかめるが、それどころじゃないネオンは破裂しそうな心臓を胸に叫んだ。

 

「よ、ようこそお出でくださいました! 僕が"捨てられ飛び地"の領主、ネオン・アルバティスでございます!」


 ある種の気まずさを感じながら、ネオンは思う。


 ――ど、同時に来ちゃった……。本当は仲が良いのかな……。


 同時に、各国家元首と娘たちも疑問に思う。 


((…………なんでライバル国がここに……?))

 

 三国ともスパイを飛び地に放っているので集合するのは必然と言えば必然だったが、互いに知らないのでしょうがない。

 単なる偶然だと気を取り直して、それぞれネオンに歩み寄る。

 

「突然の訪問、失礼する。朕がエルストメルガ帝国帝王、グリゴリーだ。貴殿の薬のおかげで、朕は命が救われた。本当にありがとう。そのお礼を伝えに、本日は参った」

「急な来訪申し訳ない。カカフ連邦の大総統、ガライアンと言う。君の生み出した薬を飲ませてもらった結果、持病が完治したんだ。心から感謝している」

「いきなり来て悪かったのぉ。ワシはユリダス皇国の皇帝、バルトラスじゃ。お主が作ったエリクサーのおかげで、今のワシはある。感謝感謝じゃよ」

「そ、その節は大変お世話になりましたっ。よろしくお願いいたしますっ。お会いできて光栄でございますっ」


 ネオンはしどろもどろになりながら、各国家元首と握手をしては挨拶を交わす。

 帝王も大総統も皇帝も、力強い手だった。

 挨拶が終わると、彼らの娘たちがネオンに手を差し出す。


「初めまして、ネオン君。帝国の第一王女、シャルロットよ。あなたの噂は兼々聞いているわ。ずっと会いたかったの」

「こんにちは、ネオンちゃん。わたしは連邦の第二王女、アリエッタ。今日はたくさんお話ししましょうね~」

「私は皇国の第一皇女、ラヴィニア……。ネオンに会うの……楽しみだった……」

「よ、よろしくお願いいたしますっ。光栄の極みでございますっ」


 表情を硬くするブリジットに対し、娘たちは笑顔で握手を交わす。

 ネオンの見た目もまた好みであり、心中では「絶対に結婚する」と固く誓いを立てていた。 国家元首が部下に指示を出し、大量の高価な土産が運び込まれる。

 名だたる芸術家の作品や貴重な鉱物の数々……。

 驚きと衝撃で、ネオンは目が点となった。


「あ、あの……これはいったい……」

「お礼と土産の品だ。ぜひ受け取ってほしい」

「全て、君のために用意した」

「ほっほっ、お主への感謝が少しでも伝われば良いんじゃがの」


 そう、国家元首たちから聞き、ネオンはさらなる衝撃に飲み込まれる。


 ――領地が発展してほしいとは思っていたけど……これはもう大変なことだよ!


 ブリジットの適切な指示により領地に運び込まれる光景を見ながら、国家元首と娘はメラメラと思う。


((ネオン・アルバティスは誰にも渡さない……!))


 諸々の挨拶が終わった後、領地には沈黙が横たわる。

 不気味な間が苦しく、ネオンはすぐに領地を案内することにした。


「そ、それでは、まずは領地をご案内いたします。僕についてきてください」


 ネオンは皆を連れて、領地を紹介する。

 畑が見えてきたところで、ジャンヌがウニ猫妖精の中から飛び出てきた。

 周囲の地底エルフが制止するのも構わず叫びまくる。


『こら~、妾を差し置いて何しとるんじゃ~!』

『まだ出てきちゃダメウニよ~!』


 ブリジットが顔をしかめるや否や、ネオンが慌てて紹介する。


「え、え~っと、あちらにいらっしゃるのは地底エルフのジャンヌさんと、ウニ猫妖精たちです。少し前から、一緒に暮らしています」

「「地底エルフにウニ猫妖精!?」」


 ネオンのさらりとした紹介に、国家元首たちは驚愕する。

 いずれも、こんな簡単に出会える存在ではない。

 地底エルフは何百年も前に地上から姿を消したと言われているし、ウニ猫妖精もまた、本国でも生息が確認されない絶滅間近の貴重な妖精だ。

 それだけでも衝撃的な出会いだったが、驚きはそこで終わらない。

 伝説的な作物ばかり育つ畑に、高度な技術で作られた巨大な水路、そこを流れる聖水よりも綺麗な水……さらには本国の宮殿や官邸よりも強固な家々が多数立ち並ぶ様子を見て、国家元首一同は感嘆の声が漏れ出るのを止められなかった。


(これは……想定を遥かに超えた土地だ。作物も水路も家も、全てが帝国のレベルを遥かに上回る)

(連邦にこれほど豊かな土地があるだろうか。この先いくら開拓しても、この土地を超えることなどできないのでは……)

(素晴らしいぞよ、ネオン少年。この土地だけで皇国は貴殿に負けた。こんなことができるのは……まさしく、神の御業じゃ)


 国家元首が圧倒されるのと同じように、娘たちも領地の発展具合に衝撃を受けていた。


(これがネオン君の領地……。すごい、発展しすぎでしょ……)

(わたしがもしここの領主だったら、絶対にここまでは開拓できないわ~……)

(ずっと住みたくなるくらい……)


 あの瘴気にまみれた"捨てられ飛び地"をここまで発展させるなど、この世界の常識ではとうてい考えられない。

 ネオンの価値は、瞬く間に天元突破してしまった。


((絶対に我が国に引き入れる……!))


 案内はスムーズに終了し、続けて国家元首たちの歓迎会が開かれるわけだが、ネオンはテーブルを見て思う。


 ――改めて思うけど…………これ、どういう状況?


 右を向けばエルストメルガ帝国のグリゴリーとシャルロット、左を向けばカカフ連邦のガライアンとアリエッタ、そして前を向けばユリダス皇国のバルトラスとラヴィニア……。

 本来なら、一生で一度も会うことさえない面々と同じ空間にいた。


 ――外にいるのに空気が苦しいのはなぜ?


 緊張と威圧感とで、ネオンは酸欠しそうな心境であった。

 どうにか挨拶を終え、特製の料理が運ばれてくると、国家元首たちは顔が綻ぶ。

 どれも宮殿で食すより何段階も豪華で、美味たる料理の数々だった。

 食事の感想もそこそこに、歓迎会という名の探り合いと牽制がさっそく始まる。

 国家元首たちは爽やかな笑顔でネオンを見た。


「さて、ネオン少年。前から考えていたのだが、貴殿を我が帝国にお呼びしたい。まぁ、構えることはない。ちょっとした観光に来てほしくてな」

「いやいや、ここはカカフ連邦でしょう。食事や娯楽、自然遺産など、どれもネオン少年の興味を惹くものばかりですから」

「お待ちくださいな、皆様方。ネオン少年にはぜひ皇国に遊びに来ていただきたいの。楽しくて永住してしまうことこの上なしじゃ」


 三大超大国は誰がネオンを引き入れるかで、すでに静かな戦を始めていた。

 互いに様子と隙を窺い、牙を向けては相手の牙を躱す。

 ネオンは緊張と恐怖で水さえ喉を通らなかったが、ブリジットは自慢げだ。

 

「いやはや、ネオン様は人気者でございますね。妻としても誇らしくて仕方ありません」

「う、うん……そうね……」


 国家元首が笑顔の下で激しい戦闘を繰り広げる中、今度はその娘たちがネオンに迫る。


「ねぇ、ネオン君。私と少しお話ししましょう。まずはここから離れましょうね」

「ネオンちゃ~ん、わたしね、ずっとあなたのことを考えていたのよ? こんな騒がしいところじゃなくて、向こうに行きましょ」

「ネオン……こっち来て……」

「あ、あの、ちょっ……!」


 三人に引っ張られ身体がちぎれそうになっていると、何者かがスッ……と間に入り込みネオンを回収した。

 ブリジットだ。


「皆様、こちらをご覧くださいませ」

「「そ、それは……!」」


 彼女の左手に煌めく"それ"を見たとき、娘たちはハッとした。


「ネオン様との結婚指輪でございます。いくら王女や皇女様と言えども、人の夫に纏わりつくのはいかがなことかと」

「「ぐぎぎ……!」」


 指輪を見て、娘たちは悔しがる。

 ブリジットとの間に激しい火花が散る様子を見て、ネオンはさらに居心地が悪くなるのであった。


 ――もう帰りたい…………いや、ここが僕の家だった。


 思わず空を見上げると、遥か遥か上空に微かな魔力を感じた。

 ぽつぽつと黒い点が大量に見える。


「んん~? なんだろう、鳥の群れかな」

「それにしてはずいぶんと高度ですね…………あ、あれは!?」


 ブリジットの顔が青ざめると同時に、ネオンは大声で叫んだ。


「みなさん、建物の中に避難してください! 空からの襲撃です!」


 ネオンの言葉に、その場の全員が迅速に建物に逃げ込む。

 5m強ほどもある魔力の黒剣が、豪雨のように大量に降り注いだ。

 歓迎のテーブルや畑は滅多刺しにされ、欠片も残さずに消し飛ぶ。

 明らかに、通常の魔物や人間の攻撃ではない。

 人智を超えた、存外の力による襲撃だ。

 ネオンは震えるオモチを抱き締めながら、窓から慎重に上空を見る。


「いったい何が起こっているの!?」

「わかりませんが、途方もない魔力を感じます! 今まで感じたこともない……邪悪で冷たい、無慈悲な魔力です!」

 

 ブリジットもまた、厳しい顔で空を見上げる。

 十秒ほども降り注ぐと黒剣は消失し、無残な土地が姿を現す。

 異常な攻撃よりも、家々や水路はまったくの無傷な様子を見て、国家元首及び娘たちは息を呑んだ。


((こ、これが【神器生成】の力……))


 ネオンが生み出した神器がなければ、今の攻撃で確実に死んでいた。

 一方、遥か上空からは地上を見る存在がいた。

 今の攻撃で全てを葬り去るつもりだったが、主要な建造物は想定外の無傷だ。

 土壌を破壊したものの、土地全体の煌めきはまったく消えていない。

 数千年前の襲撃で落とせなかった"神域"以上の頑強さだった。

 驚きを隠せないと言ったら嘘になる。


(……ふむ、これは少々面倒だな。さすがは、あの憎き勇者どもの血を引く人間か)


 直接始末をつけるため、四体の部下とともに地上に向かう。

 瞬く間に、領地の上空数十mに到着した。

 注意深く外に出たネオンたちは、襲撃者の正体を見て驚愕する。


「「ま、魔神……デビルピア……!?」」


 数千年前、世界を滅亡の一歩手前まで追い詰めた破滅の魔神。

 語り継がれる伝承や伝説とまったく同じ姿形だ。

 迸る魔力は目に見えるほど濃く、邪悪が体現したようだった。

 四体の使い魔も、それぞれが一国を壊滅せんとする力を持つことは明らかだ。

 周りのみなと同じように、国家元首たちの額に汗が伝う。


(まさか、魔神と相対する人生を送るとは……朕の命もここまでか……)

(大至急、連邦に伝書を飛ばすか? ……いや、間に合わないだろうな)

(まずいことになったの……。皇国の全勢力でも倒せないかもしれん……)


 領地が緊迫感と恐怖に包まれる中、ネオンは思案する。


 ――どうして、デビルピアが復活したんだ……。ずっと封印されていたのに……もしかして……。


 デビルピアはその場の全員を見渡した後、八つの目でネオンを睨む。


『憎き血の主は……ふむ、お前か。予想よりずいぶんと幼い稚児だ』


 "魔神将来"の儀でアルバティス家の血を吸収したので、名乗らずとも殺戮対象者がわかった。

 ネオンは剣を構えたまま、厳しい顔で問う。


「僕に何の用だ」

『血の契約により、余はお前を抹殺し、この領地を壊滅させに来た。ただ、それだけの話だ』


 ――血の契約……。やっぱり間違いじゃなかった、というわけか。


 魔神を送り込んだ人間の正体が判明したとき、悔しさや寂しさ以上に怒りが沸いた。

 自分だけならまだしも、あの三人は大事な仲間を傷つけようとしているのだ。


「……ブリジットはみんなと使い魔の方を倒して。デビルピアは僕が倒す」

「承知しました」


 ブリジットやルイザにベネロープ、キアラ、ジャンヌ、三大超大国の護衛部隊……。

 ネオンの言葉に、自然と皆が従った。


「みんなは……僕が守る!」


 ――実力を隠さないといけないなんて……もう関係ない。


 今ここに、最強最悪な敵との戦いが始まる。

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


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