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第35話:ベネロープの心情

 ――"稀代の魔導師"。


 それが、ベネロープがカカフ連邦にて轟かせた二つ名だった。

 彼女は連邦が誇る名家の出身だが、次女のため家督を継ぐ必要はないし、継ぐこともできない。

 そこで、自分の国と家の両方に貢献できそうな、宮廷魔導師を目指した。

 生まれ持った才能と懸命な努力により瞬く間に実力を伸ばし、彼女は史上最年少で宮廷魔導師となった。


 "捨てられ飛び地"での極秘任務も、国や家に貢献できると喜んで拝命した。

 だが、想像以上に厳しく辛い環境に



(ボクは……まだまだ努力が足りない……)


 飛び地に来てから、ネオンと出会ってから、ベネロープは力不足を感じる毎日だ。

 瘴気の浄化や超自然的な神器の生成など、自分の実力を遥かに超えた芸当をあっさりとやってのける。

 <至宝の鋤>や<神裂きの剣>など、いずれも自分にはとうてい生み出せない。

 いや、本国の誰もが生み出せないだろう。

 ネオンはすでに、連邦の魔道具技術を著しく超えていた。

 

 人魔寄種に襲われたとき、死を覚悟した。

 魔法使いと最も相性の悪い魔物だ。

 今までどんな魔物や敵を倒してきたが、今回は死ぬと思った。

 自分で言うのも何だが、人魔寄種は宿主の魔力が良質であればあるほど急速に成長する。

 抵抗する間もなく全身を支配され、生存権と身体の主導権を握られてしまった。


 "死"自体は怖くない。

 自分がこの世から消えても、家も国もこの先ずっと存続するから。

 だが、任務はやり遂げられない。

 飛び地にいる仲間は優秀なので、指導者がいなくても問題ないかもしれない。

 そうは思うものの、拝命したからには最後までやり遂げ、ネオンを連邦に引き入れたかった。


 それだけではない。

 志半ばで死ぬこと同じかそれ以上に、ネオンが仲間とともに懸命に開拓した領地を、自分の手で破壊してしまうことが辛かった。

 小さな花が咲いてオモチと一緒に喜んでいる光景を見たのは、つい昨日のことだ。

 畑の作物が育ったり土を耕すたびに見せる彼の笑顔が、瞼に刻まれていたからこそ余計に辛かった。


 ネオンは決して責めることはしなかった。

 文字通り、命を懸けて自分を救ってくれた。

 成長した人魔寄種の寄生は痛く、一歩間違えばその場で魔力を吸われ尽くして死に至る。

 命を救ってくれた事実を一生忘れることはないし、生涯に渡って感謝し続ける。

 この一件が収束した後、ベネロープは人知れず、静かに決めたことがあった。


(いつか、全てが終わったとき……ネオン君に話す。ボクの正体とネオン君に対する思いを……)

 

 夜空に爛々と輝く月と星に、強く誓う。

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


【読者の皆様へ、青空あかなからのお願いでございます】


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