表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/76

第34話:転生王子、スパイを助け人知れず惚れられる

 突然、地響きとともに爆発音が轟き、ネオンは飛び起きた。


「うわっ、な、なに!?」

『な、なんだ、ウニー!?』


 一緒に寝ていたオモチたちウニ猫妖精もまた飛び起きる。

 彼らがぴょんぴょんと跳ねる中、ブリジットはすでに険しい顔で窓の外を見ていた。


「ネオン様、落ち着いて聞いてくださいませ。現在、何者かに襲撃を受けております」

「襲撃……!?」


 ネオンも急いで窓に駆け寄る。

 領地の外にいる人影が、家々に向かって火球や雷弾を放っていた。

 一発一発の質が高く、術者は相当の手練れだと容易に想像つく。

 ネオンは<神裂きの剣>を装備し、玄関に向かう。


「急いで外に出よう! 領地を守らなきゃ! オモチたちは家にいて!」

「承知しました!」

『『わかったウニ!』』


 ネオンはウニ猫妖精たちを家に残し、ブリジットと一緒に外に出た。

 まず目に飛び込んできたのは炎と黒煙だ。

 豊かに育った地面の草花が燃えており、周囲には焦げた臭いが充満する。

 家々は無傷なので【神器生成】の力を感じるが、領地の変貌は激しい。

 ジャンヌが領民とともに消火に当たっており、ネオンに気づくと切羽詰まった表情で叫んだ。


『おい、ネオン! 襲撃じゃ! この火は厄介じゃぞ、なかなか消えん!』

「みなさんはそのまま消火をお願いします! 術者は僕たちが倒します!」


 攻撃を受けた場所を辿って走ると、すでに領民たちが集まっていた。

 彼らの視線の先には、杖を構えた歪な形の人影が見える。

 手足は人間と思われるが、頭の周辺に大きな瘤を思わせる影が闇夜に浮かんでいた。

 裂けた雲の間から光が差し込み、人影の顔が照らされる。

 正体が明らかとなったとき、ネオンとブリジットは同時に驚きの声を上げた。


「ネオン様、あれは……!」

「えっ! ……そんな……ベネロープさん!?」


 なんと、人影の主はベネロープという、まったく予想もしない人物だった。

 いったいどうして……と思案する直前、ネオンは続けて判明した瘤の正体に息を呑む。


 ――……人魔寄種!


 彼女は極めて厄介な植物魔物に寄生されていた。

 会敵するのは初めてだったが、宮殿にいた頃読んだ本で基本情報は知っている。

 人や魔物に寄生し、宿主となった人間は死ぬしかない、ということも……。

 ネオンは険しい顔でベネロープを見る。


「た、大変だ……急いで助けないと……!」

「ええ、しかし、対処法が……ネオン様、私の後ろに……! 《防壁》!」


 ベネロープは多種多様な魔法をこちらに放ち、ブリジットや領民は防御魔法を展開して攻撃を防ぐ。

 <封じの盾>で反射させると、ベネロープに直撃する恐れがあった。

 攻撃を凌ぐ中、ネオンは必死に対応策を考える。

 

 ――無理やり剥がそうとすると、人魔寄種は宿主を殺してしまう。身体中に根を張り巡らせるから、刺激を与えるのは悪手だ。くっ、どうすれば……。


 ブリジットや他の領民も、ネオンと同じようなことを思案する。

 人魔寄種に一度寄生されたら、もう死ぬしかない。

 それが世の常識だった。

 だが、ネオンだけは懸命に思索を巡らす。

 何か、必ず正解があるはずだと……。

 あらゆる可能性を探った結果、一つだけ現状を打破する方法を考えついた。


 ――……そうか、この方法なら助けられるはずだ! ベネロープさんの魔力が減っている今しかない!


 ネオンは<神裂きの剣>を携えたまま、一歩ずつベネロープに近寄る。

 その行動を見て、ブリジットは緊張感が高まった。

 人魔寄種はより強い魔力を求めて宿主を変える。

 現在、ベネロープの魔力は攻撃により消耗している。

 故に、今すぐにでも新しい宿主に乗り移りたい状況だ。

 

「ネオン様、危険です! お下がりください! 近寄りすぎると寄生させる危険性があります!」

「これしか方法はないんだ……でも、大丈夫。ベネロープさんを助けて、人魔寄種も倒すから。……僕を信じてほしい」


 真剣な声音での言葉を聞き、ブリジットは唇を噛みしめる。


(できれば行ってほしくないです……でも、ネオン様は身を挺して領民を守ろうとしている……。領主としては、それが在るべき姿なんでしょう……)


 逡巡した後、噛みしめた唇から絞り出すようにして答えた。


「……承知しました。ただし、何があろうともネオン様は死なせませんからね。……みなさまも防御の援護をお願いします!」


 ブリジットは領民に指示を出し、ネオンを守る。

 片やベネロープは、魔法が飛び交う中ゆっくりと歩み寄るネオンを見て、強く焦る。


(な、何をやっているんだ、ネオン君。逃げろ……寄生されるぞ。ボクなら放っておいていいんだ。大事な領地をこんなに破壊してしまったんだから……)


 ネオンは真摯な瞳のまま歩き続けた。


 ――ベネロープさんは絶対に助ける!


 心に思うは、ただ一つの願いだけだから。

 やがて、ベネロープの2mほど前に経つと、全身に魔力を巡らせた。


「さあ来い、人魔寄種! お前の好きな魔力だ!」


 人魔寄種は新鮮な魔力を感じ取る。

 大型となった分、生存にはより多くの魔力が必要だった。

 新たな寄生先としてネオンに狙いを定め、勢いよく飛びついた。

 瞬く間に根が張られ、魔力を吸い取られる。


 ――い、痛い! ベネロープさんはこんな痛みに耐えていたなんて……!


 根は宿主の身体の表層に張られるため、全身には鋭い痛みが流れるのが常だ。

 人魔寄種はネオンの身体を操り、剣を頭上に掲げる。


 ――僕は<神裂きの剣>で、領地をみんなを滅茶苦茶にしようとしている。神器を"僕の意にそぐわない"ことに使おうとしているのは……。


『!!!』

 

 ネオンに寄生した人魔寄種は、神器の"制裁"を直に受けて破裂した。

 有無を言わさぬ即死。

 ブリジットを筆頭に、領民やオモチたちが駆け寄ってくる。


「ネオン様! ああ、よかった……お見事です。すぐに除去しますので、ジッとしてくださいませ!」

「ありがとう……いたたっ!」


 ブリジットが回復魔法で癒しながら、人魔寄種も剥がす。

 丁寧な所作により、少しも取り残すことなく全て除去された。

 領民は歓喜の声を上げ、オモチたちウニ猫妖精はネオンに飛びつく。

 

『心配したウニよ~。無事でよかったウニ~』

「ごめんね、心配かけて」


 ネオンは彼らの頭を撫でて労り、心配してくれたことにも感謝した。

 ブリジットは地面に横たわる植物魔物を憎しみを込めて睨む。


「ネオン様を傷つけたり領民を脅かすような、こんな不愉快な魔物は燃やしてしまいましょう……《地獄の大紅蓮》」


 伝説級の黒い炎で焼き尽くし、わずかな灰すら残さずこの世から存在を消し去った。


「す、すごい火力だね」

「ネオン様を苦しめたのですから、当然の報いでございます」


 そう話す二人に、領民に治療されたベネロープが涙ながらに謝った。

 

「ごめん……ネオン君、みんな……。ボクのせいで、領地が滅茶苦茶になってしまった……。みんなで一生懸命開拓してきた領地が……。それに、ネオン君の命さえ危険に晒してしまった……」


 ベネロープの悲痛な声に、領地は静まりかえる。

 消火の終わった地底エルフたちも他の領民から事の顛末を聞き、心を痛めた。

 ネオンは俯く彼女の肩に手を当てると、優しく語りかける。

 

「……顔を上げてください。あなたは悪くありません」

「え? で、でも、現に領地はこれだけ……」


 話すベネロープの言葉に、ネオンは軽く首を横に振った。


「領地を破壊したのはベネロープさんじゃなく、人魔寄種です。だから、気に病む必要などまったくありません。それに、畑や地面はまた耕せばいいじゃないですか」

「ネオン様の仰る通りですよ。悪いのは全て人魔寄種、誰が何と言おうとそうです」


 二人に賛同するように、領民たちも温かい言葉をかける。

 ベネロープは追い詰められた心が回復するのを感じ、みなに……特にネオンに深く感謝した。

 彼女が涙を拭いて立ち上がったとき、それにしても……とブリジットが尋ねた。


「こんな深夜に何をされていたのですか?」

「え!? ……え~っと、夜風に当たりたくて外に出たら、珍しい色合いのカラスズメがいて、追いかけていたら領地の外に行っちゃったんだ」

「……カラスズメは昼行性のはずですけどね。……怪しい」

「まぁまぁ、きっと昼寝しちゃったカラスズメだったんだよ」


 ギクリとしたベネロープに気づかず、ネオンはブリジットを宥める。

 そのまま一行は領地に戻るわけだが、ベネロープは前を歩くネオンから視線が離せないでいた。

 領地でともに暮らす日々で、ネオンの優しさはわかっていたつもりだ。

 それでも、死ぬ危険も顧みず自分を助けてくれた優しさは、彼女の心に染み渡った。


(ネオン君……ボクは……君が…………好きだ)


 ベネロープの心には、"ネオンが好き"という強い思いが燃え上がっていた。

お忙しい中読んでいただき本当にありがとうございます


【読者の皆様へ、青空あかなからのお願いでございます】


少しでも面白いと思っていただけたら、ぜひ評価とブックマークをお願いします!

評価は下にある【☆☆☆☆☆】をタップorクリックするだけでできます。

★は最大で5つまで、10ポイントまで応援いただけます!

ブックマークもポチッと押せば超簡単にできます。


どうぞ応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ