第34話:転生王子、スパイを助け人知れず惚れられる
突然、地響きとともに爆発音が轟き、ネオンは飛び起きた。
「うわっ、な、なに!?」
『な、なんだ、ウニー!?』
一緒に寝ていたオモチたちウニ猫妖精もまた飛び起きる。
彼らがぴょんぴょんと跳ねる中、ブリジットはすでに険しい顔で窓の外を見ていた。
「ネオン様、落ち着いて聞いてくださいませ。現在、何者かに襲撃を受けております」
「襲撃……!?」
ネオンも急いで窓に駆け寄る。
領地の外にいる人影が、家々に向かって火球や雷弾を放っていた。
一発一発の質が高く、術者は相当の手練れだと容易に想像つく。
ネオンは<神裂きの剣>を装備し、玄関に向かう。
「急いで外に出よう! 領地を守らなきゃ! オモチたちは家にいて!」
「承知しました!」
『『わかったウニ!』』
ネオンはウニ猫妖精たちを家に残し、ブリジットと一緒に外に出た。
まず目に飛び込んできたのは炎と黒煙だ。
豊かに育った地面の草花が燃えており、周囲には焦げた臭いが充満する。
家々は無傷なので【神器生成】の力を感じるが、領地の変貌は激しい。
ジャンヌが領民とともに消火に当たっており、ネオンに気づくと切羽詰まった表情で叫んだ。
『おい、ネオン! 襲撃じゃ! この火は厄介じゃぞ、なかなか消えん!』
「みなさんはそのまま消火をお願いします! 術者は僕たちが倒します!」
攻撃を受けた場所を辿って走ると、すでに領民たちが集まっていた。
彼らの視線の先には、杖を構えた歪な形の人影が見える。
手足は人間と思われるが、頭の周辺に大きな瘤を思わせる影が闇夜に浮かんでいた。
裂けた雲の間から光が差し込み、人影の顔が照らされる。
正体が明らかとなったとき、ネオンとブリジットは同時に驚きの声を上げた。
「ネオン様、あれは……!」
「えっ! ……そんな……ベネロープさん!?」
なんと、人影の主はベネロープという、まったく予想もしない人物だった。
いったいどうして……と思案する直前、ネオンは続けて判明した瘤の正体に息を呑む。
――……人魔寄種!
彼女は極めて厄介な植物魔物に寄生されていた。
会敵するのは初めてだったが、宮殿にいた頃読んだ本で基本情報は知っている。
人や魔物に寄生し、宿主となった人間は死ぬしかない、ということも……。
ネオンは険しい顔でベネロープを見る。
「た、大変だ……急いで助けないと……!」
「ええ、しかし、対処法が……ネオン様、私の後ろに……! 《防壁》!」
ベネロープは多種多様な魔法をこちらに放ち、ブリジットや領民は防御魔法を展開して攻撃を防ぐ。
<封じの盾>で反射させると、ベネロープに直撃する恐れがあった。
攻撃を凌ぐ中、ネオンは必死に対応策を考える。
――無理やり剥がそうとすると、人魔寄種は宿主を殺してしまう。身体中に根を張り巡らせるから、刺激を与えるのは悪手だ。くっ、どうすれば……。
ブリジットや他の領民も、ネオンと同じようなことを思案する。
人魔寄種に一度寄生されたら、もう死ぬしかない。
それが世の常識だった。
だが、ネオンだけは懸命に思索を巡らす。
何か、必ず正解があるはずだと……。
あらゆる可能性を探った結果、一つだけ現状を打破する方法を考えついた。
――……そうか、この方法なら助けられるはずだ! ベネロープさんの魔力が減っている今しかない!
ネオンは<神裂きの剣>を携えたまま、一歩ずつベネロープに近寄る。
その行動を見て、ブリジットは緊張感が高まった。
人魔寄種はより強い魔力を求めて宿主を変える。
現在、ベネロープの魔力は攻撃により消耗している。
故に、今すぐにでも新しい宿主に乗り移りたい状況だ。
「ネオン様、危険です! お下がりください! 近寄りすぎると寄生させる危険性があります!」
「これしか方法はないんだ……でも、大丈夫。ベネロープさんを助けて、人魔寄種も倒すから。……僕を信じてほしい」
真剣な声音での言葉を聞き、ブリジットは唇を噛みしめる。
(できれば行ってほしくないです……でも、ネオン様は身を挺して領民を守ろうとしている……。領主としては、それが在るべき姿なんでしょう……)
逡巡した後、噛みしめた唇から絞り出すようにして答えた。
「……承知しました。ただし、何があろうともネオン様は死なせませんからね。……みなさまも防御の援護をお願いします!」
ブリジットは領民に指示を出し、ネオンを守る。
片やベネロープは、魔法が飛び交う中ゆっくりと歩み寄るネオンを見て、強く焦る。
(な、何をやっているんだ、ネオン君。逃げろ……寄生されるぞ。ボクなら放っておいていいんだ。大事な領地をこんなに破壊してしまったんだから……)
ネオンは真摯な瞳のまま歩き続けた。
――ベネロープさんは絶対に助ける!
心に思うは、ただ一つの願いだけだから。
やがて、ベネロープの2mほど前に経つと、全身に魔力を巡らせた。
「さあ来い、人魔寄種! お前の好きな魔力だ!」
人魔寄種は新鮮な魔力を感じ取る。
大型となった分、生存にはより多くの魔力が必要だった。
新たな寄生先としてネオンに狙いを定め、勢いよく飛びついた。
瞬く間に根が張られ、魔力を吸い取られる。
――い、痛い! ベネロープさんはこんな痛みに耐えていたなんて……!
根は宿主の身体の表層に張られるため、全身には鋭い痛みが流れるのが常だ。
人魔寄種はネオンの身体を操り、剣を頭上に掲げる。
――僕は<神裂きの剣>で、領地をみんなを滅茶苦茶にしようとしている。神器を"僕の意にそぐわない"ことに使おうとしているのは……。
『!!!』
ネオンに寄生した人魔寄種は、神器の"制裁"を直に受けて破裂した。
有無を言わさぬ即死。
ブリジットを筆頭に、領民やオモチたちが駆け寄ってくる。
「ネオン様! ああ、よかった……お見事です。すぐに除去しますので、ジッとしてくださいませ!」
「ありがとう……いたたっ!」
ブリジットが回復魔法で癒しながら、人魔寄種も剥がす。
丁寧な所作により、少しも取り残すことなく全て除去された。
領民は歓喜の声を上げ、オモチたちウニ猫妖精はネオンに飛びつく。
『心配したウニよ~。無事でよかったウニ~』
「ごめんね、心配かけて」
ネオンは彼らの頭を撫でて労り、心配してくれたことにも感謝した。
ブリジットは地面に横たわる植物魔物を憎しみを込めて睨む。
「ネオン様を傷つけたり領民を脅かすような、こんな不愉快な魔物は燃やしてしまいましょう……《地獄の大紅蓮》」
伝説級の黒い炎で焼き尽くし、わずかな灰すら残さずこの世から存在を消し去った。
「す、すごい火力だね」
「ネオン様を苦しめたのですから、当然の報いでございます」
そう話す二人に、領民に治療されたベネロープが涙ながらに謝った。
「ごめん……ネオン君、みんな……。ボクのせいで、領地が滅茶苦茶になってしまった……。みんなで一生懸命開拓してきた領地が……。それに、ネオン君の命さえ危険に晒してしまった……」
ベネロープの悲痛な声に、領地は静まりかえる。
消火の終わった地底エルフたちも他の領民から事の顛末を聞き、心を痛めた。
ネオンは俯く彼女の肩に手を当てると、優しく語りかける。
「……顔を上げてください。あなたは悪くありません」
「え? で、でも、現に領地はこれだけ……」
話すベネロープの言葉に、ネオンは軽く首を横に振った。
「領地を破壊したのはベネロープさんじゃなく、人魔寄種です。だから、気に病む必要などまったくありません。それに、畑や地面はまた耕せばいいじゃないですか」
「ネオン様の仰る通りですよ。悪いのは全て人魔寄種、誰が何と言おうとそうです」
二人に賛同するように、領民たちも温かい言葉をかける。
ベネロープは追い詰められた心が回復するのを感じ、みなに……特にネオンに深く感謝した。
彼女が涙を拭いて立ち上がったとき、それにしても……とブリジットが尋ねた。
「こんな深夜に何をされていたのですか?」
「え!? ……え~っと、夜風に当たりたくて外に出たら、珍しい色合いのカラスズメがいて、追いかけていたら領地の外に行っちゃったんだ」
「……カラスズメは昼行性のはずですけどね。……怪しい」
「まぁまぁ、きっと昼寝しちゃったカラスズメだったんだよ」
ギクリとしたベネロープに気づかず、ネオンはブリジットを宥める。
そのまま一行は領地に戻るわけだが、ベネロープは前を歩くネオンから視線が離せないでいた。
領地でともに暮らす日々で、ネオンの優しさはわかっていたつもりだ。
それでも、死ぬ危険も顧みず自分を助けてくれた優しさは、彼女の心に染み渡った。
(ネオン君……ボクは……君が…………好きだ)
ベネロープの心には、"ネオンが好き"という強い思いが燃え上がっていた。
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