第23話:転生王子、地底エルフを領民に迎える
『お前たちが……浄化している……だと? この瘴気に溢れた土地を……?』
「ええ、実はそうなんです。すみません、先ほどもお伝えしようと思ったんですが……。今、土を耕すのに使っている特別な鋤を持ってきま……」
「こちらにございます、ネオン様」
「あ、ありがとう、さすがだね」
ネオンが話し終わる前に、ブリジットがどこからか即座に<至宝の鋤>を持ってきた。
それを受け取って、未だぼんやりするジャンヌに渡す。
「これが土地を耕すのに使っている鋤ですよ。どうぞ持ってみてください」
ジャンヌは震える手で持つと、鋤が放つ荘厳な威圧感に圧倒される。
『す、凄まじいオーラと魔力ではないか……。なんじゃ、これは……本当に農具か……? こんな物、どうやって入手したんじゃ』
「ありがとうございます。ええ、実は僕が……」
ネオンが説明する前に、ブリジットがずいっと前に出た。
そのまま、得意げな表情で語る。
「なんと……ネオン様がご自身のスキルで作られたのです!」
『なぁにぃいいい!?』
ブリジットの言葉を聞き、ジャンヌは驚愕の叫び声を轟かせる。
このときになると戦闘の緊迫した雰囲気は消え去り、周りの地底エルフたちもネオンの周囲に集まってきた。
みな、感嘆とした表情で<至宝の鋤>を見るばかりだ。
その光景に、ブリジットは満足感を覚える。
(偉大なるネオン様の素晴らしさを知りなさい)
愛するネオンの力が地底エルフたちに知らしめることができて、非常に嬉しい。
自慢げに追加の説明を続ける。
「等級としては、もちろんのこと神話級に分類されます。この世で最も強力で尊く、本来なら触れることさえできない神器です」
『神話級!? たしかに、そのレベルに相応しいの。長い歴史でも……久しぶりに見たわ……』
「わかったら跪いて、ネオン様に感謝しなさい。地面に頭をこすりつけて、額が擦り切れるほど感謝しなさい」
「そ、そこまではさすがに……」
ネオンがたどたどしく間に入ると、ジャンヌが震える手で<神裂きの剣>を指した。
『そやつらが装備する剣も、先ほどお前が生み出した盾ももしかして……』
「はい、いずれも僕のスキル【神器生成】で作った魔導具です」
『神話級の魔導具を作れるじゃと!? そんなの聞いたことないぞ! ……お前らはどうじゃ!?』
ジャンヌは慌てて周りの地底エルフに尋ねるが、みな首を横に振った。
信じがたいが事実らしい。
衝撃を受けると同時に、気になることがあった。
『そこまで強力なスキルなら、何かこう……リスクとかあるんじゃないのか? ……そうか、わかったぞ! 地底エルフの魂を代償とするスキルじゃな!』
「いえいえいえ、違います! 何でそんなにピンポイントなんですか! そこら辺の石とか枯れ葉から簡単に作れるんです。ちょいちょいっと」
『……へぁぁ。そんな馬鹿な……凄すぎるじゃろ……』
あまりにも想定外過ぎる力に、ジャンヌ及び地底エルフたちは驚きを隠せない。
唖然とする彼女たちを見て、ブリジットがさらに満足げな表情で左手をすっ……と顔の横に挙げた。
「さらに追加しますと、この結婚指輪も神器でございます。大事なことなので二回言いますが、"ネオン様との"結婚指輪でございます。なので、必要以上にネオン様に近寄らないように」
『『……ぐぎぎ』』
ジャンヌや地底エルフたちは、歯軋りをしながらブリジットを睨む。
ネオンには詳細がわからなかったものの、新たな争いが生まれる気配を感じ、彼女たちの間に入った。
「あ、あの、ジャンヌさん。領地を散歩されませんか?」
『……いいのか?』
「ええ、この土地が今どうなっているのかもお教えしたいので」
ネオンに優しく言われ、ジャンヌの顔はぱぁぁっ!と明るくなる。
ブリジットもまた、渋々としながらも許可を出した。
「ネオン様のご厚意で領地を案内いただくのです。怪しい動きをしたら首を撥ねますからね」
「ブリジット! お願いだから!」
ネオンはジャンヌたち地底エルフを連れて、飛び地を案内する。
輝く土地を踏みしめ、立派な畑を見せ、巨大な水路を見せ……。
地底エルフの感嘆とした声が止まることはなかった。
しばらく領地を案内した後、ジャンヌはほぅっ……とため息をついた。
未だ発展を続ける領地を眺めてから、ネオンを真剣な表情で見る。
『ネオンよ。妾はお前を誤解しておった。あれほど強力な瘴気を、こんなに浄化してくれていたんじゃな。地底エルフにとって、土地は命。恩人とも言える人間を殺そうとするなんて、妾たちは大変な愚か者じゃ』
「いえ、もう気にしないでください」
『……ありがとうのぉ。お前は優しい人間じゃ』
ネオンの優しさに心が温かくなった後、ジャンヌは"捨てられ飛び地"の歴史を話し出した。
『あれはたしか……もう千年前じゃった。妾たちは元々、この土地で平和に暮らしていたんじゃよ。じゃが、人間同士の戦争が起きての。ヤツらが撒き散らした瘴気は互いに混じり合い、著しく毒性を増した。いつかまた暮らせることを願って、真下にある地下洞窟に移住したんじゃ』
「そんな歴史があったのですか……」
アルバティス王国や三大超大国に、"捨てられ飛び地"の詳細な歴史は伝わっていない。
正確には、長い年月で情報が風化してしまったのだ。
ジャンヌは悔しげな表情で言葉を続ける。
『妾は……妾たちは……また太陽の下で暮らしたかっただけなんじゃ……。それなのに、妾は話を聞こうともせず、お主らを襲ってしまった。謝っても謝りきれん。そこの薬師的な女も怖い思いをさせて悪かったな。どうか許してくれ』
「いえ、わたくしは大丈夫です。怪我もしていませんし。むしろ、怪我をしないように加減してくれたのですよね」
ジャンヌたち地底エルフは、本当は優しい。
キアラも含め、この場の誰もがそう思っていた。
ネオンはブリジットと顔を見合わせる。
互いに無言で頷き合うと、ジャンヌに手を差し伸べた。
「もしよかったら……この土地で僕たちと一緒に暮らしませんか?
ネオンの言葉は、ジャンヌの心にすとんと落ちた。
(妾たちも……ここで……? この緑豊かな土地で、太陽の下で暮らせる……?)
周りを見渡すと、木々や草花が爽やかな風に揺れ、空には白くて力強い太陽が昇る。
目に映るどれもが、彼女と地底エルフたちの心に明るい光となって差し込まれた。
(地底に退避する前……いや、千年前よりずっと豊かになっている。まさしく、地底で思い描いていた……ユートピアそのものじゃ)
喜びがじわじわと、彼女の胸にあふれる。
ふと、ネオンは何かに気づいたように言った。
「……あっ、すみません。元々はジャンヌさんたちの土地でしたよね。だったら、領主も……」
『いや、結局のところ、妾たちは瘴気の浄化から逃げたんじゃ。懸命に努力すれば、対策が見つかったかもしれんのに。じゃから、この土地は……豊かにしてくれたこの土地は、ネオンが統治するべきなんじゃ。妾たちも住まわせてくれたら……嬉しいのぉ』
「ジャンヌさん……」
ネオンはこほんっと軽く咳払いし、右手をそっと差し出した。
「では、改めて……僕たちと一緒に住みませんか?」
ジャンヌは握手仕返すと、仲間の地底エルフたちとともに笑顔で叫んだ。
『『絶対住むー!』』
「ありがとうございます! これからよろしくお願いしますね!」
『こちらこそじゃー!』
わあああ!という大歓声が領地を包む。
地底エルフはみな笑顔で互いに喜びを分かち合う。
もちろん、ルイザやベネロープ、そしてキアラたち元からいる領民もそうだ。
ネオンは温かい目で彼女らを見守る中、隣を見るとブリジットの冷たい視線に気づいてしまった。
研ぎ澄まされたナイフのような視線。
――え……。もしかして、本当は嫌だった?
ごくりと唾を飲み込み、彼女に尋ねる。
「ど、どうしたの……そんなに凍てついた目でジャンヌさんたちを見て……。視線だけで切れちゃいそうだよ」
「……なぜ、こうも女性が多く集まるのでしょうかね」
「え! な、なんでだろうねぇ。僕には何とも……」
「ネオン様の魅力が世界に伝わり、領地が発展するのは私の目的でございますが、女性が増え過ぎるのはあまり好ましくないのであってですね……」
ネオンは不機嫌なブリジットを懸命に宥める。
何はともあれ、ジャンヌたち地底エルフが"捨てられ飛び地"の新たな領民となった。
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