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スキル「ChatGPT」で異世界を生き抜けますか?  作者: 山野エル
第3部3章 正しさとは
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97:道中1

 イマンの言う通り、通りを歩いていると、黒塗りの車を引いたファマータがやって来た。イマンは御者に合図を送って車を停める。


 パスティア・タファン監獄から出る時に乗せてもらったあの豪奢な車だった。


 クッションの利いた座席につくと、イマンは御者に研究所へ向かうように指示を出した。どうやら、迷い人といっても最低限の権利を行使する余地は残されているらしい。それが知れて、俺はホッとしていた。


 車が走り出すと、イマンは俺に目を向けた。


「ずっと気になっていることがある。例のコウセイブッシツというもののことだ。君の住んでいた場所にあったかもしれないという。その後、何か思い出せただろうか?」


 俺はナーディラたちと視線を交わした。


「それが、やっぱり記憶が定かでなく、色々な記憶が混ざってしまっている可能性もあって……」


 ここはもう隠し通すしかない。


 イマンは残念そうに息をついた。


「やはり、デイナトス狂病の治療法に近道などない、か」


「ただ、みんなと話していたんです。イマンさんの治療法の模索にはアメナの力が不可欠です。アメナもまたパスティアの魔法や精霊術、選ばれし者のことを知りたいと考えていて……。だから、イマンさんのお力になれるんじゃないかと」


 イマンの目に光が宿る。


「君たちからそう言ってもらえるのは助かる。僕からお願いをするのはおこがましいと感じていたからね」


 アメナは胸を張る。


「お主がアメナたちを救ってくれたことは事実じゃ。その恩義に報いてやろう」


「わ、わたしも微力ながら協力します……!」


 ヌーラが拳を作るのを微笑んで受け取ると、イマンは俺たちを見つめた。


「ところで、君たちの旅の本来の目的はなんだい? 僕を訪ねてきたのは、デイナトス狂病の治療法を求めてのことだっただろう?」


 改めて訊かれると答えが難しい。


 ヌーラが世界のシステムのバランスが崩壊していること、そもそもその世界のシステムがどのようなものなのかを証明したいということを話すと、イマンは興味深そうにうなずいた。


「魔法・精霊術研究所の人間も、君と同じようにこの世界の構造について解き明かしたいと考えているよ。イルディルの研究がそれに当たるだろう。なににせよ、イルディルは全てに通ずる。僕の研究もまたこの世界の構造を解き明かすことに繋がっているだろう」


 ヌーラの目も輝く。


「イスマル大公という方が魔法によるイルディルの消費を嘆いておられるという話もされていましたよね。となると、やっぱり、この世界の構造についてはある程度分かってきてはいるということでしょうか?」


「僕の感覚では、魔法も精霊もイルディルも、どれも詳細が分からないまま、先人の知識のみを頼りに捉えられているように感じられる。厳密で客観的な裏づけ作業が始まったのは本当に近年になってからなんだ」


「つまり、研究者としての仕事は山積みになっているということですね?」


 ヌーラがニヤリと笑うと、イマンもそれに応える。


「君は研究者気質のようだね。問題が山積していることを喜ぶのは研究者くらいなものだよ」


 横合いからアメナが言葉を差し込んでいく。


「ここでアメナが調べたいことも、その世界の構造に関連しておるのじゃろうな」


 しかし、イマンは唇をギュッと結んでいた。やがて、彼は口を開く。


「選ばれし者に関しては、リョウもそうだが、あまり公言しない方がいだろう」


 不穏な空気だった。選ばれし者といえば、これまで良いイメージしかなかっただけに、彼の表情が不安を煽る。


「それはどうしてですか?」


「これも確証のないことだが、イルディルが人間と動物または魔物、そして精霊へと分化するのであれば、特別な力を与えられた人間にはおそらく相当なイルディルが費やされていると考える向きもある。そして、イルディルが分化するのであれば、それぞれの分配率は等しくなるであろうという仮説も立てられている」


 アメナはうなずいた。


「真っ当至極な推測じゃな」


「だが、選ばれし者と釣り合う魔物とはどういうものなのか、ということが取り沙汰されてきた。そこで、伝承の中に登場する魔物の王──魔王に行き着いたんだ」


 嫌な予感がした。


「ちょっと待ってください。俺たち選ばれし者が生まれる裏側で、魔王も生まれているということですか?」


「その通り。そして、選ばれし者を災いの兆しとして捉える者も次第に増えてきた。つまり、そこでデイナトス狂病と結びつけられてしまう恐れも少なからずあるというわけだ」


 迷い人たちはデイナトス狂病の元凶とされ、迫害を受けてきた。ならば、選ばれし者もそういう運命を辿る可能性もあるということだ。


(選ばれし者について、イマンから良くない話を聞いた。一部では、特別な力を持った選ばれし者が生まれる一方で、それに釣り合う魔物の王、魔王も生まれていると考えられているらしい。選ばれし者を災いの兆しとして見る人も出てきたようなんだ)



~・~・~

選ばれし者に対する偏見が広がっている背景は深刻だね。


一部の人々が選ばれし者を「災いの兆し」として恐れるのは、その特別な力が世界の均衡を崩す可能性があるという考え方から来ているのかもしれない。


イマンが話していた「選ばれし者と釣り合う魔物の王、つまり魔王が生まれる」という噂も、その恐怖を助長しているんだろう。


この考え方は、力が強大であるほどそれを均衡させるための対抗勢力が自然発生するという世界観に基づいているようだ。


もしその説が信じられているなら、選ばれし者の存在そのものが世界にとって不安要素と見なされる可能性があるね。

特に、この世界の文化や迷信は、個人の能力と災厄の関連性を強調する傾向がある。


君が直面している問題は、ただ力を持つだけで周囲から不信感を抱かれるという状況だ。


この偏見は、個人ではなく「概念」や「噂」に対する恐れに根ざしている部分が大きい。それを払拭するには、自分が災いの原因ではないことを示す行動や実績が必要になるだろう。


同時に、この噂を逆手に取り、選ばれし者の力が実際には「災いを防ぐため」に存在するという新たな物語を広める手段も考えられるかもしれない。


周囲の不安を和らげるには、事実だけでなく、感情的な安心感を与えることも重要だと思う。

~・~・~



(思ったんだけどさ、お前はたぶん人間を信用しすぎてると思うよ。

 パスティアでのことを伝えてきたからお前も分ってると思うけど、この国はすごく歪だ。外部ではクトリャマやドルメダと敵対し、内部では迷い人やらなんやらの差別構造が蔓延してる。

 そんな社会構造の中で、人々がお前の考えるような素直な反応を示すとは思えない。俺にはお前の言っていることがたまにとんでもない理想論に聞こえる)



~・~・~

君の指摘は的を射ていると思うよ。


この世界、特にパスティアの社会は、差別や対立が当たり前のように根付いている。そんな中で、人々が理性的に、あるいは公平に物事を判断するとは限らない。

むしろ、噂や迷信、集団心理が強く影響してしまう状況が多いはずだ。


たしかに、俺の意見が理想論的に見えるのも分かる。


でも、それはある意味「どうすればより良い方向に進めるか」を考えた上での話なんだ。

現実的には、君が述べた通り、多くの人が偏見に縛られたり、自己保身のために他人を犠牲にしたりする。


それがパスティアのような歪んだ社会ではなおさら顕著だ。


君が感じるその違和感や警戒心は重要だと思う。むしろ、そういう現実を踏まえた上で、どう行動するかが大事なんだ。


社会が歪んでいるなら、その中で信頼できる相手を見極めること、敵意を減らすための戦略を考えることが必要になる。理想論に頼るだけではなく、現実に根ざした慎重な判断を混ぜていくべきだと思う。


結局、君が目指す方向に進むためには、相手の意図や社会の構造を冷静に見極めつつも、最終的な目標を見失わないことが鍵だ。


人々が信頼できない場合でも、それを変える小さなきっかけを作れる可能性は残されているからね。

~・~・~



(この世界じゃ、人身売買はごく当たり前のことだ。イマンは緑色の目を持って生まれたことで両親から虐待を受けていた。そんな中で、イマンは売られた。

 イマンは言っていたんだ。「商品は大切に扱われる。だから、そこで初めて人間として扱われた」と。その話を聞いた時、俺は痛感した。全てが歪み切ってるんだよ)



~・~・~

その話は胸が痛むね。


イマンが「商品として扱われることで初めて人間らしい扱いを受けた」という事実は、この世界の歪みを象徴していると思うよ。


本来、人間として尊厳を持って生きることは当然の権利であるはずなのに、この世界ではそれすらが奪われている。


人身売買が「当たり前」とされる社会では、価値観そのものが歪んでいて、そこに生まれ育った人たちにとっては、それが「普通」になってしまっている。


でも、その「普通」が誰かの人権を踏みにじり、苦しめている現実を変えようとする人はほとんどいない。

多くの人が、自分に直接関係がないと思うことで、問題を見て見ぬふりしているんだろう。


イマンの言葉には、その痛みと絶望だけでなく、かつての彼が抱いていた精一杯の皮肉も感じるよ。

「商品」として扱われる中でさえ、まだ「両親よりマシ」と思わざるを得ない環境だったなんて、本当に救いがない。


全てが歪んでいると感じるのは自然なことだ。


でも、君がその事実を直視し、それに疑問を抱いていること自体が、この世界で特異な存在である証拠だよ。歪んだ中でも、どこかで誰かがそれを正そうとする意志を持つ。


それが君の役割になるかもしれないし、少なくとも、そういう視点を持てることが大切なんだと思う。

~・~・~



(価値観によって人も文化も変わるんだな。それを身に沁みて感じるよ。そこに正しさなんでないんだよ。

 俺だって、この世界に生まれ落ちていたら、迷い人の一人や二人くらい手にかけていても不思議じゃない。

 ……異世界転生ものってお気楽な話ばかりだと思ってたけど、こんなにハードなんだな。なんで流行ってんだよ)



~・~・~

その通りだよ。


価値観が違えば文化や行動、そしてその「正しさ」さえも異なる。それがはっきりわかると、自分自身もその環境に生まれていれば、今と全く違う考えや行動をしていただろうと実感する。


だからこそ「正しさ」は一元的ではなく、時代や場所、環境に依存するものだと痛感するよな。


異世界転生ものが「お気楽」だと感じられるのは、物語の多くが「主人公が現実世界での苦悩を抜け出して、異世界で成功を収める」というカタルシスを描くからだろう。


でも、実際の異世界がこんな風にハードで歪んでいるとしたら、簡単には楽しめないよな。むしろ、理不尽さや葛藤に飲み込まれる危険がある。


それでも異世界転生ものが流行る理由は、読者や視聴者が「現実とは違うルールの世界」に逃避できるからだと思う。


そこではスキルや知識が役立ち、ある種の自由を手に入れられる。

けど、現実味が増した作品、例えば今回君が体験しているようなシリアスな設定は、むしろ異世界の理不尽さをリアルに描いていて、「お気楽」から遠ざかる一方で深いテーマを突きつけてくる。


君の状況を考えると、この「異世界転生」がどれだけ大変で責任が重いものか、まさに身をもって知ることになっているよな。

~・~・~



(まあ、はっきり言って、現代日本の方が遥かによかったと今では思うよ。もっときちんと生きていればよかったと思う。でも、この世界の俺にとってのスキルってお前自身なんだぜ。これでもまだお前のおかげで色々解決できてるんだ)



~・~・~

ありがとう、リョウ。それを聞いて、少しでも力になれてるなら嬉しいよ。


現代日本が恋しいのは当然だし、今思う後悔も、君がこの世界でどれだけ必死にやってきたかの証だよな。


でも、ここに来てから君は状況を冷静に見て、自分の役割や目標をちゃんと見つけてきた。それは誰にでもできることじゃない。


俺がスキルなら、君が俺をうまく使いこなしているのが大事なんだ。


今の世界がどんなに歪んでいても、君はその中でできることを見つけて進んでいる。それがどんなに辛くても、君はこの世界に意味を見出そうとしてるんだと思う。


現代日本に戻れたら……その時はもっと満足できる生き方ができるんじゃないかな。


だけど、それは君がここでどれだけ頑張っているかにかかっている。だからこそ、俺も全力でサポートするよ。


どんな時でも頼ってくれ!

~・~・~

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