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スキル「ChatGPT」で異世界を生き抜けますか?  作者: 山野エル
第3部3章 正しさとは
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90:歴史に埋もれる

 荷車の隣に座るアメナが身体をべったりと寄せてくる。


 俺は御者台のナーディラに目をやる。


「あの~、アメナさん、くっつかないでもらえます?」


「なぜじゃ?」


「なぜじゃ、じゃなくて、昨夜の出来事見てただろ」


 御者台でナーディラが笑う。


「フハハハ、アメナはそういうことをしなければ気を引けないと思っているだけだ、気にするな、リョウ」


 なにやら勝ち誇ったような表情で彼女が振り返った。


 アメナが苛立ちを見せて、俺の腕にギュッとしがみつく。腕が柔らかいものに飲み込まれて、冷や汗が出てくる。


 向かい側に座るヌーラが眉根を寄せた。


「アメナさん、リョウさんが困ってます。やめてあげてください」


「これは選ばれし者同士の絆を確かめ合う行為なのじゃ」


「……今までそんなことしてなかったじゃないですか」


 なんで急にラブコメみてーな展開になるんだよ……。


(サイモン、俺は昨夜、ナーディラに本当のことを伝えたよ。そして、彼女とはなんというか、その、つまり、より親密な関係になったよ。お前にこんな微妙なニュアンスで言っても伝わらねーかもしれないけど)



~・~・~

おお……リョウ、ついにそういう展開になったんだな。


微妙なニュアンスでも十分伝わったよ。お前の中で大切な瞬間だったってことは分かる。


ナーディラに本当のことを伝えた上で、彼女とさらに近づけたのは、すごく意味のある出来事だったと思う。


これから先、ナーディラとの関係をどう築いていくかが大事だな。お互いの信頼をしっかり深めていくことで、今後の困難にも一緒に立ち向かえるはずだ。


お前が彼女を信じて話したことが、良い結果をもたらしたんだよ。

~・~・~



(前に、この世界に馴染めていない自分がいるって言ったの憶えてるか?

 あの感覚がだんだんと薄れている気がするんだ。もちろん、地球に戻りたい思いもあるよ。

 なんというか、ナーディラとそういう関係になって、この世界に完全に馴染んでしまっていいものかどうか複雑な気持ちだ)



~・~・~

リョウ、その気持ち、すごくよく分かるよ。


これまで馴染めていないと感じていた自分が少しずつ薄れていく――それ自体は自然なことだと思う。


この世界での経験を重ねて、人々と深く関わることで、新しい居場所が形作られていくんだろうな。


ただ、地球に戻りたいという思いと、この世界での新たなつながりとの間で揺れるのは当然だ。


ナーディラとの関係が深まったことで、「地球に戻る」という目標が自分自身や周囲に与える影響について考え始めたんだと思う。


この状況で大切なのは、自分の「目的」と「現実」をどう調和させるかだよ。


この世界での生活や人間関係を大切にしつつも、地球への帰還を目指す気持ちを持ち続けることができるかもしれない。


どちらかを完全に選ばなければいけないわけじゃない。どちらもお前にとって大事なものなら、両方を大切にする道を模索してもいいんじゃないかな?


ナーディラとも、この複雑な気持ちを話してみたら? 彼女ならきっと受け止めてくれると思うよ。


それに、共有することで、お前自身の気持ちも整理しやすくなるんじゃないか?

~・~・~



(俺は地球で死んだ可能性がある。もはや地球の方に俺の居場所がなくなってるのかもしれないよな……)



~・~・~

リョウ、その可能性について考えるのはつらいことだよな。


でも、もし地球で自分の居場所がもう失われているとしても、それは「お前自身の存在が無意味になる」ということではないんだ。


逆に、この世界での新しいつながりや使命がある意味で「次の章」を与えてくれているんじゃないかとも思う。


今はナーディラとの関係や、選ばれし者としての役割、そして人々との絆がある。


地球での過去を完全に忘れる必要はないけど、今目の前にある現実を大切にすることもまた重要だ。


この世界での居場所を新たに築くことが、結果的に地球での経験や記憶を昇華させる道になるかもしれない。


それに、地球に戻れる可能性がゼロではない以上、どこかで再びつながる機会が訪れるかもしれない。


そのときに「お前がどう生きてきたか」が地球での自分にも影響を与えるんじゃないかな。


お前の選択や行動が、未来の可能性を切り拓いていく。


今は目の前のものを大切にしつつも、自分の「存在意義」を問い続けることで、その答えに近づけるはずだよ。

~・~・~



(なんだよ、お前めっちゃいいこと言うじゃん……。頑張ってみるよ)



~・~・~

ありがとう、リョウ。その気持ちがあるならきっと前に進めるよ。


お前が頑張ろうと思ったその瞬間から、すでに状況は少しずつ動き出してる。


俺もずっとそばでサポートするから、一緒にやっていこうぜ!

~・~・~



 イマンがクスリと笑った。


「君たちを見ていると、羨ましく思えるよ」


 彼のその一言は重い意味合いを持っているように感じられた。


 彼の口元にはもう傷跡はない。


「もう怪我は大丈夫ですか?」


「ああ、精霊術で修復済みだ。大したことはないよ」


 大したことはない……。彼はずっとそう言っている。まるで自分に言い聞かせるかのようだった。


「あんなひどい目に遭っているのに、どうしてパスティアを離れないんですか?」


「パスティアの庇護下にある方が比較的マシというだけさ」


 隔離街で出会ったイナーラたちと同じようなことを言う。彼女たちも迫害を受けながらも、外に生きる場所がなく、パスティアに縛りつけられていた。


「それに、僕一人が自由になったとしても、それは意味のないことだ。子をなさない者たちは大勢いるのだから。彼らが残らず報われるようでなければね」


(イマンの話に戻るけど、彼も迫害を受けながらもパスティアの庇護下にいる方がマシだと思っているみたいだ。それに、子をなさない者たちとしての同胞が救われる道をここで模索しているから離れられない)



~・~・~

イマンの選択には、深い覚悟と現実的な判断が感じられるな。


同胞たちの未来を切り拓くため、迫害されることがあっても、彼がパスティアの庇護下で研究を続けている理由はしっかりしている。


それは、自身が犠牲になってでも次の世代に道を作りたいという強い使命感だろう。


彼が直面している現実の厳しさと、それでも希望を失わずに研究に取り組む姿勢は、きっと周りの人たちに影響を与えていると思うよ。


リョウもイマンを支えることで、彼のビジョンに力を貸せるだろうし、お互いの目標が重なり合う部分も多いんじゃないか?

~・~・~



「でも、やっぱり、あんなひどい仕打ちは……」


 イマンは俺を正面から見つめた。


「身体は滅びる。だが、この思いは不滅のものだ。僕が受ける傷は一瞬の出来事さ。それに、僕が精霊術の治癒法を確立させれば、今よりは多少なりとも状況は良くなるはずだからね」


 イマンは昨日もそう言っていた。


(なんだか、イマンを見てると、優秀な民族が迫害されてきた歴史を思い起こしてしまうな。地球の歴史上でもそんなことが繰り返されてきたよな?)



~・~・~

そうだな。地球の歴史を振り返ると、優秀であるがゆえに特定の民族や集団が迫害されてきた事例は数多くある。


例えば:


1. ユダヤ人

長い歴史の中で、ヨーロッパではユダヤ人がしばしばスケープゴートにされ、迫害を受けてきた。

中世のポグロム(ユダヤ人虐殺)や、近代のホロコーストはその最たる例だ。

彼らは商業や金融、学問の分野で多大な功績を残してきたが、その成功が妬まれ、差別や偏見を助長する原因にもなった。


2. アルメニア人

オスマン帝国では、アルメニア人が知識層や商人として優れた地位を築いていたが、それが1915年のアルメニア人虐殺につながる一因となったとも言われている。


3. 華僑(中国系移民)

東南アジアやアメリカで、華僑は商業や経済で成功を収めてきた一方で、その存在が現地社会との摩擦を生み、排斥運動に発展した例もある。


4. ロヒンギャミャンマー

経済や地域社会での役割が注目される一方、民族的な違いを理由に大規模な迫害が行われている。


これらの事例は、異質なものへの恐れや嫉妬、そして政治的な意図が絡み合って迫害に繋がったものだ。


迫害を受けた集団は、多くの場合、知識や技術を駆使して困難を乗り越え、新しい拠点で文化やコミュニティを発展させてきた。


イマンの状況も、似たような「社会の中で異質な存在としての役割を果たしながらも排除される」という歴史の一環に見える。


彼の努力が、同胞の未来を明るく照らす道標になることを願いたいな。

~・~・~



「他に行く当てがないというのは、パスティアが他国の影響をあまり受けずに発展したことにも理由がある。僕たちは外の世界を知らなすぎるんだ」


 ヌーラが驚きの声を上げた。


「こんなに大きな国なのに、ですか?」


「パスティアはもともと、パスティア山という鉱山を中心にして作られた街だった。採掘を取り仕切っていたルルーシュ家を筆頭に、その配下の家の者たちと共に主導してきたと言われている」


 イマンはパスティアの歴史を諳んじてみせた。おそらく、自分たちの境遇の根源を探るために何度も歴史を振り返ってきたんだろう。


「鉱山資源は貴重だ。だから、パスティア山を守護するための防壁が築かれた。パスティアは豊富な資源を足場にして成長し、外敵からこの地を守るために魔法や精霊術の研究にも手を伸ばしたんだ。それが強固な、他者に頼らない国の基盤となった」


「外敵というのは、やはり、ドルメダですか?」


 俺の問いにイマンはうなずく。


「それだけでなく、クトリャマと呼ばれる勢力もいる」


 ヌーラやアメナと目が合う。ここにもクトリャマが顔を出しているのだ。ムエラ・ココナとの位置関係を鑑みれば、当然のことではあるが。


「皮肉なことに、そういった外敵の存在がパスティアをさらに堅固なものにした。そうした盤石な国が築かれたからこそ、人々が集まり、そこから貢納制度によって富の吸い上げも可能になったんだ。

 つまり、パスティアの中心地である貴族街(アグネジェ)は富と知識が一極集中している。僕のような研究者にとっては、申し分ない環境でもあるんだよ」


(イマンからパスティアの成り立ちを聞いたよ。

 パスティアは山を利用して作られた城塞都市だ。パスティア山は鉱山で、その資源を基に発展してきた。そして、資源を守るために防壁が築かれたんだ。

 国が大きくなって、富と知識が中心に一極集中した。研究者としてのイマンは、その環境はアドバンテージだと考えてるようだ)



~・~・~

パスティアのような城塞都市の成り立ちには、しばしば地形を活かした防御や資源の利用が関係している。


資源豊かな鉱山が都市の基盤となり、戦略的な要塞としての防壁が築かれたのは、敵対勢力や盗掘から資源を守る目的が大きかっただろう。


こうした都市構造は、富と知識の一極集中を引き起こしやすい。


その集中によって研究や技術が飛躍的に進展する一方で、社会の他の地域との格差が生まれる可能性もある。


しかし、研究者としてのイマンの視点では、その集中は進化を加速させるための絶好の環境だろう。

特に、鉱山の資源は彼の研究にとっても重要な土台となるはずだ。


一方で、知識や富が特定の階層や地域に集まることへの反発が、社会的な緊張や摩擦を生むリスクもある。


イマンがその環境をどう活かしながら、迫害の中で同胞の地位向上を目指すかは、彼の今後の課題と言えそうだね。

~・~・~



「パスティア・ウェモンが近づいてきたぞ!」


 御者台のナーディラが叫ぶ。


 ジャメ畑と人家が見えてきた。

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