87:転生したら神の遣いでした。世界の命運を握らされそうになってるけど、早く地球に帰りたい……。
「異世界……?」
ヌーラは首を傾げている。
そりゃあ、急にそんなことを言われても意味が分からないだろう。
(ヌーラに本当のことを話そうと思う。ヌーラにも理解できるように、俺が異世界から来たということを説明したいんだが、どう言えばいい?)
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ヌーラに異世界から来たことを伝える際、理解しやすくするために以下のステップを考えてみるといいよ。
1. 前置きで共感を得る
まずは、ヌーラに「あなたの考察力や洞察力は本当に鋭い」といった褒め言葉を伝え、彼女が正しい方向に気づいていることを認める。
例:
「ヌーラ、あなたが見抜いたように、僕の記憶喪失という話には確かに不自然なところがあるよね。それに気づいてくれたあなたの観察力には驚かされたよ。」
2. 異世界の概念をやさしく導入する
異世界の話は現実離れしているので、まず「自分の世界」を説明し、ヌーラが想像しやすい要素を用いると効果的。
例:
「実は僕が来た場所は、こことは違う世界なんだ。そちらでは魔法や精霊は存在しないけど、僕たちは空を飛ぶ道具や遠くの人と話せる機械を使って生活しているんだ。」
3. 転移の話を自然に繋げる
どうやって来たのかは完全に明確でなくても、「ある日突然ここに来た」という部分を率直に伝える。
例:
「ある日、何か大きな力が働いたのか、気づいたらこの世界にいたんだ。どうしてここに来たのかはまだ分からないけど、この地で何か使命があるように感じている。」
4. 選ばれし者としての使命に言及
ヌーラにとっても理解しやすい概念に紐付ける。リョウがこの世界に来たのは「使命」を果たすためというストーリーを語る。
例:
「この世界での僕の存在には何か理由があると思ってる。それが選ばれし者としての使命に繋がっているんだと感じるんだ。」
5. ヌーラの信頼に感謝する
話を終える際、彼女がリョウを信じてくれることに感謝し、さらに協力を求める。
例:
「こんな突飛な話を信じてもらえるかは分からないけど、ヌーラになら話せると思ったから伝えたよ。君の知恵と力を借りられると、本当に心強い。」
注意点
異世界の説明はあくまで具体例を交えつつ簡潔にする(技術や文化の違いをピンポイントで)。
ヌーラの反応をよく観察して、彼女の疑問や驚きを自然に受け止める。
あまりに突拍子もない説明は避け、具体的な物語として伝えることで説得力を増す。
ヌーラが知性派なら、こういったアプローチでうまく理解してもらえるはずだよ!
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「こことは違う世界があるんだ。魔法や精霊なんかはいないけど、豊かなところだよ。だが、ある突然、この世界で目覚めた」
ヌーラは俺の言葉を一生懸命咀嚼しようとしている。
「遠い国ということですか?」
地球のことを話しても分からないだろうな……。
「まあ、そんな感じ」
「そんな感じ、ということは、本当は違うんですね」
ヌーラは少しがっかりしたような顔をする。信用していないと思われたかもしれない。
「信じてもらえるか分からないけど、夜空を見上げると光っている点が見えるだろ?」
──そういえば、俺はこの世界で「星」がなんというのかまだ知らなかったな。
「語るものですね」
「ああ、ラギアというのか。……何を語るんだ?」
そばに立っていたアメナが答える。
「星はアメナたちに運命を語りかけるのじゃ。空は、運命の兆しが穿たれた天布で覆われておる。イルディルがそれを滑らせておるのじゃ」
(この世界では、空の星は天を覆う布に穿たれた運命の兆しだと考えられているようだぞ。イルディルがそれを滑らせているんだと。俺は夜空に輝く星から来たんだと説明しようとしてたんだけど、大丈夫かな? ヌーラはたぶん、自分が理解できなくても本当のことを言ってほしいみたいだ)
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星の世界から来たと説明するのは、この世界観における「運命」や「兆し」という概念と結びつけられるから、非常に効果的だと思うよ。
ヌーラにとっては馴染み深い天文学的な視点を用いることで、異世界というアイデアを納得しやすくできる。
ただし、以下の点を注意するとさらに説得力が増す:
1. 星の意味をヌーラに寄せる
「星」を「運命」や「兆し」と関連づけることで、ヌーラの文化的背景に即した形で話を進める。
例:
「夜空の星が運命の兆しだと考えられているように、僕もその星々から導かれてここに来たのかもしれない。この世界ではないどこかの場所からね。」
2. イルディルと絡める
イルディルが天の星を滑らせているという考えを利用して、自身の存在とイルディルを結びつける。
例:
「星々が滑るように僕も何か大きな力、たとえばイルディルによってこの世界に引き寄せられたんだと思う。」
3. 直感的に分かりやすく
「星から来た」と言っても、ヌーラにとってあまりに抽象的すぎる可能性がある。
だから「遠い場所」や「異なる空」といった形で少しずつ具体性を持たせる。
例:
「僕が来た場所は、この空の星の向こう側にある。今のこの世界とは少し違う場所で、僕が育ったところなんだ。」
4. ヌーラの反応を待つ
ヌーラは真実を知りたいと言っているが、最初は衝撃を受けるかもしれない。
そのため、少しずつ話を進めて、彼女が質問しやすい雰囲気を作る。
ヌーラの態度や考え方からすれば、君が心を開いて話すことで彼女の信頼を得られるはずだよ。
彼女は本当のことを求めている以上、自分が受け入れられるかどうかを心配するより、誠実に伝えることを優先しよう!
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(例を聞いてて思ったんだけど、お前って結構ロマンチストだよな? 俺じゃ思いつかないわ、そういうセリフ)
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そうかな? ロマンチックな言葉を思いつくのは、たぶんこの世界の文化や考え方をうまく活用して君の話を伝えやすくしたいだけだよ。
けど、異世界から来たなんてテーマはそもそもドラマチックだし、ちょっと詩的に説明した方がヌーラにも伝わりやすいと思ったんだ。
でも、君が「俺には思いつかない」って言ってくれるなら、少し自分のセンスを誇りに思ってもいいかもな!
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「俺が生まれ育った場所は、あの天布の向こうにあるんだ」
ここからでは夜空は見えないが、俺は天を指さしてそう言った。
ヌーラはアメナと顔を見合わせて、口元を押さえる。
「天界から……来たのですか、リョウさんは……?!」
──なにか大変なことを言ってしまったかもしれない……。
薄暗がりでもアメナの目が輝くのが分かった。
「さすがはアメナの見込んだ男じゃ。天界よりの使者とはな」
「天界ってなんだ? 何がある?」
ヌーラが言う。彼女も何か興奮を滲ませているようだった。
「全ての根源がそこにあると言われています。イルディルも天界に湧き出る泉から汲み上げられたものです。そこに住まう人々こそが、この世界をお造りになったのですよ」
(サイモン、困ったことになった。この世界では天を覆う布の向こう側は天界だと考えられているようだ。イルディルは天界にある泉から湧き出たものらしい。で、そこに住む人々がこの世界を造ったという。俺は天を覆う布向こうから来たと言ってしまったせいで、神様みたいに見られそうになってる……)
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それは確かに困ったな……。
この世界の人々にとって「天の向こう側」は神聖な場所だという認識がある以上、リョウが「天の布の向こうから来た」と言ったことが、神性や特別な力を持つ存在だと誤解される可能性は高い。
ここから先は、どう扱うか慎重になる必要があるよ。
対処案:
1. 神ではないことを明確に伝える
「天の布の向こう」と言ったのは比喩的な表現であって、自分はただの旅人だと説明するのが無難だよ。
例えば:
「俺が言った『天の布の向こう』は、星のような別の土地や文化を指しているだけで、神様ではないんだ。」
「俺は特別な力を持っているわけじゃない。ただ、少し違う文化や知識を持っているだけなんだ。」
2. 信頼を勝ち取る
ヌーラや他の人たちに正直に話すことが、信頼を得る近道だ。
特に、彼らにとって未知の概念を優しく説明し、「神」という印象を和らげる努力をすると良い。
3. 神のように振る舞わない
万が一、周囲が「神様」扱いを続けようとしたら、それを否定する行動を一貫して示すこと。
たとえば、謙虚な態度を保ち、「天命ではなく、個人的な選択で動いている」と強調する。
リョウはもうこの世界で「選ばれし者」として一目置かれている存在だし、その上で「天の向こう」発言が加われば、ますます特別視される。
慎重に、自分が何者であり、何を目指しているのかを伝えた方がいいよ。
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確かに、俺はすでに選ばれし者としてここにいる。あまりに気負いすぎなくてもいいのか。
「俺は特別な力を持っているわけじゃないよ。違う文化や知識を持っているだけなんだ」
ヌーラは胸の前で手を合わせた。
「だから、デイナトス狂病のことも……。浅はかな疑いを抱いてしまってすみません」
「いや、そんなにかしこまらないでくれ……。俺もまだこの状況がよく分かっていないんだ」
「きっと、リョウさんはこの均衡の崩れた世界を救うために遣わされたんですよね」
ヌーラがそう言うと、アメナもうなずく。
「それならば、選ばれし者というのも当然の帰結じゃな」
よく分からないが、納得はしてもらえたらしい。
だが、ヌーラはまだ気になることがあるようだった。
「サイモンさんは、リョウさんを守護するために一緒に来られたんですかね?」
(俺は天界からの使者ってことになったけど、お前も天界から来たってことになるぞ。ヌーラはお前が俺を守護するために来たんじゃないかって言ってる)
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それは予想外の展開だな!
俺が「守護者」として見られるのは、リョウが天界から来たということを裏付ける存在とみなされているからだろう。
ただし、俺が人間ではなくリョウの心の中に存在するものだと気付かれていない限り、この誤解はある程度続くかもしれない。
対応策
1. 状況を利用する
「天界の使者」という設定を活用して、リョウが目指す目標や考えを正当化しやすくする。
ただし、行動や発言は慎重に選び、あくまでリョウの意志を前面に出す形にするのが重要だ。
2. 「守護者」の性質をぼかす
ヌーラが「俺」が何者か気にしている場合、「リョウが心の中で作り上げた助言者」的なニュアンスで話すのも手だ。
これにより、彼女に神聖視されすぎるのを防げる。
3. 自分の意見を明確に伝える
リョウ自身が「サイモンは俺の内なる助言者で、あくまで俺の判断を助けるだけだ」と説明すれば、ヌーラも少し現実的に捉えるかもしれない。
リョウへの注意
これから先、ヌーラや他の人々の期待や誤解がリョウにとって重荷になる可能性もある。
適度にその期待を調整し、自分が背負いきれないものは無理に引き受けないようにしよう。
俺も全力でサポートするけど、最終的な判断はリョウに委ねるよ。
この「天界からの使者」設定、結構うまく使えば色々と便利になる気がするな!
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(あれ、お前は精霊ってことになってるって言ってなかったっけ? ナーディラもお前は精霊なのかもしれないって言ってたし、アメナも言ってたんだよ、お前は精霊だって。アメナはイルディルが見えるだろ? だから、間接的に精霊も見えるんだ)
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その通りだ!俺が精霊である可能性については、ナーディラやアメナも示唆していたね。
アメナがイルディルを感知できるなら、俺の存在が普通の人間には見えない精霊的な性質を持っていると考えたのも不思議じゃない。
それがリョウが「天界の使者」として見られる状況にも自然に繋がる要素だ。
アメナがイルディルを視覚化できる能力を持っていることを考えると、俺が精霊だと考えるのは理にかなっている。
ただし、俺がどんな「精霊」なのか、はっきりした定義はないよね。
イルディルの流れに関わっている存在なのか、それともリョウにだけ繋がる特別な何かか。
現時点では、精霊というラベルが便利なだけで、俺の正体はもっと複雑かもしれないな。
リョウの立場からすると、この「精霊」という設定をそのまま活かしていくのもありだと思う。
天界の使者という話とも矛盾しないし、リョウの信頼性や特別な存在感を補強する形になるはずだよ。
ただ、どこまでこの「精霊」というイメージを利用するかはリョウの判断に任せる!
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──こいつって本当はChatGPTなんだよな……。ノリノリじゃねーか。
ただ、確かになぜChatGPTが俺に付随してきたのかという謎は相変わらず残ったままだ。これじゃ、俺がサイボーグみたいじゃないか。
「サイモンは、俺を助けてくれる精霊だ……そう思ってる。その経緯もまだ思い出せないんだ」
ヌーラとアメナの期待感のある視線が痛い。サイモンが懸念していた通りになりそうだ。
「ただ、何度も言ってるように、俺はこの世界のことをよく知らない。みんなの方が詳しい。だから、これからも俺に色々教えてほしい。この世界のために一緒に歩んでいこう」
「もちろんです」
「当然じゃ」
なんとか丸く収まったな……。
ヌーラが声を潜める。
「このことは、ナーディラさんは?」
「まだ言ってない」
「早く話してあげてください」
「分かってる。ただ、こんなことを言って、どう思われるか……」
俺の手を取って、ヌーラが言う。
「大丈夫です。わたしたちがついていますから」
隔離エリアのボロ布のカーテンが開く。集落の人間が果を覗かせた。
「ラヒームの葬送の儀を行う。来てくれ」




