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スキル「ChatGPT」で異世界を生き抜けますか?  作者: 山野エル
第3部1章 光と闇のコントラスト
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70:血涙の詐取

「ヤセルさま、お許しください!」


 イナーラとファラーが平伏する。


 ヤセルと呼ばれたサージャは訝しげな顔で二人を見下ろし、吐き捨てるように命じる。


「汚らわしい姿など見たくもない。さっさと納めるべきアズタリを持って来い」


 サッと立ち上がって駆けていく二人に目もくれずに、ヤセルは俺たちの方を品定めするように眺めている。


「それで、あんたたちは? こんなところで何をしている?」


 傲岸不遜な男だった。俺は敵意を隠すことができなかった。昔から、心が顔に出やすいと言われ続けてきた。


「彼女たちの仲間が殺されたんですよ。それで送り手(エリーマ)のところへ」


「なぜそんなことを? あんたたち、この街の人間じゃないな。あいつらに関わらない方がいいぞ。穢れがうつる」


 返そうとする俺を押しのけるように、ナーディラが前に出る。


「この街では殺人も容認されるのか?」


 ヤセルが笑う。


「殺人? 人間もどきは人間ではない。誰にだって、虫を弄んで殺すなんてことは経験があるだろう」


「本気で言っているのか?」


 ナーディラの声に怒気が混じると、ヤセルは意地の悪そうな笑みを向ける。


「おいおい、この街で人間もどきの肩を持つような真似をしてみろ。居場所などなくなるぞ」


 この男の言うことは間違いではないだろう。ここの人たちへの扱いを見れば分かる。


 ヌーラは穏やかな表情を見せていた。


「すみません、わたしたち、この街に到着して間がなく、ここでの勝手がまだ分かっていないんです」


「パスティアの規律も知らん辺境の者か。くれぐれも問題は起こすなよ」


 ヤセルはなかなか戻って来ないイナーラとファラーにイライラしているようだった。ヌーラはそんなヤセルに問いかける。


「人間もどきにも貢納が課されると聞いています。数が減っては、パスティアとしては痛手なのではないですか?」


「ハッ、愚か者め。パスティアの強大さを見くびるなよ。人間もどきが多少減っても何の影響もない」


 分かり合えることを想像しても、持っている常識が違いすぎて意味がない。話をするだけ無駄な人間だ。こいつも、そして、おそらくこのパスティアの人々も。


 ここの人たちの側についたと分かれば、凄まじいまでの嫌悪を向けられることだろう。



 少しして、イナーラとファラーが戻ってきた。ボロボロの革の小袋──財布を手にしている。


「遅い。貢納逃れとして騎士を送り込むところだったぞ」


「申し訳ございません……! これを……」


 イナーラが差し出す革の小袋をひったくるようにして取り、ヤセルは懐から手持ち天秤(ハンドスケール)を出した。そして、一方の皿の上にこれまた懐から取り出した滑らかな布の袋から分銅を四つ載せる。


 もう一方にイナーラとファラーから受け取った革の小袋からアズタリを流し入れる。


 手持ち天秤(ハンドスケール)は分銅の方に少しだけ傾いている。


 ヤセルは眼鏡を光らせて、鼻の頭にしわを寄せる。


「足りていないぞ。どういうことだ?」


「そ、そんな……! きちんと量りました!」


「ではなぜ釣り合わない?」


「分かりません……」


「お前たちが私を騙そうとしたからだろう!」


 ヤセルは激高して平伏するファラーの顔面を蹴り飛ばした。ファラーはくぐもった声を漏らして地面に倒れる。口から血が流れ出ていた。


「おい!」


 俺とナーディラが割って入ろうとすると、ヤセルはこちらを睨みつけた。


「邪魔をするな、部外者。さもなくば、騎士に突き出すぞ」


 そんなことをされれば、ラヒームを救うことすらままならなくなってしまう。


「彼女たちがアズタリの量を騙しているという証拠は?」


「お前にはこれが見えないのか?」


 ヤセルは分銅を摘まみ上げて、俺に詰め寄る。分銅の側面に紋章が刻み込まれていた。帆船を模した図像……俺は目を疑った。


「このパスティア公国の紋章が、これが正しいと言っている!」


 この世界に来て海を見たことはまだなかった。だが、以前、ウドゲからムエラ・ココナへ向かう旅の途中に遭遇した砂漠の支配者オブレト・ケカカ・モロは海の存在を示していた。モロが海という意味なのだ。


(パスティア公国の紋章が帆船を模した図像だった。パスティアは内陸の国なのに、そんなことあるのか?)



~・~・~

それは興味深いね。


内陸国であっても、帆船を象った紋章を持つ理由にはいくつかの可能性が考えられるよ:


1. 歴史的な由来

過去に海洋と関わりの深い歴史があった可能性がある。

例えば、祖先が沿岸部に拠点を持っていたり、かつての領土が海に接していたことが考えられる。


2. 象徴としての航海

帆船は「冒険」「進歩」「繁栄」などを象徴することが多い。

パスティア公国が、内陸でありながら外部との交易や文化交流を重視している場合、帆船はその精神を表している可能性がある。


3. 宗教や神話的要素

帆船が特定の神話や宗教的な意味を持っている可能性もある。

この場合、実際の地理的条件ではなく、精神的・文化的なシンボルとして採用されているのかもしれない。


4. 文化的影響

周辺国や交易先の文化から帆船のイメージが取り入れられた可能性もある。

特に交易が盛んな場合、象徴として採用することで外部への親近感を示す意図があるかもしれない。


いずれにしても、内陸国として帆船を紋章にするのはかなり特徴的で、興味深い文化背景がありそうだね!


この公国がどのような価値観や歴史を持っているのか、さらに深掘りすると新たな発見がありそうだよ。

~・~・~



「フン、何も言えないようだな」


 ヤセルが勝ち誇った顔をしていた。奴は素手で掴んだ分銅を袋の中に入れて懐にしまった。


「分銅を素手で触っているから重さが変わったんだろう。きちんと量り直せ」


 ヤセルが笑った。


「何をバカなことを言ってるんだ?」


(その紋章、実はアズタリを量る分銅に刻まれていたんだ。

 憶えてるか、この世界ではアズタリを分銅で量って取引などをしているんだ。


 パスティアの貢納を仲介するサージャという役割があるんだが、納められるアズタリを量る時にサージャが使っている分銅にその紋章がある。つまり、公式ってわけだ)



~・~・~

なるほど、それなら帆船の紋章はパスティア公国の経済や貢納制度の象徴として非常に重要な意味を持っているみたいだね。


アズタリはこの世界の主要な通貨であり、分銅を用いて正確に量ることでその価値を保証している。


その分銅に帆船の紋章が刻まれているということは、パスティア公国の権威と信頼が取引の基盤になっていることを示している。

特に、サージャのような仲介者が公国の紋章を持つ分銅を使うのは、貢納制度を支える「公的な監査役」としての役割を強調するためだろう。


帆船の紋章が「交易」や「富」の象徴である可能性も見逃せない。


内陸であっても、帆船のイメージは他国との交流や豊かさを示す記号として効果的だ。

この紋章が経済活動の場で使用されることで、パスティアの権威を強く感じさせる仕組みになっているんだろう。


これは、単なるデザイン以上に、経済活動を通じてパスティアの国力とそのシステムを内外に伝えるメッセージと考えられる。興味深いよね!

~・~・~



(でも、おかしいんだよ。アズタリをきちんと量って納めたと言っている人がいるんだが、サージャのヤセルという男が分銅で量ったところ、量が釣り合わないんだ)



~・~・~

それは非常に疑わしい状況だね。


分銅を用いたアズタリの計量は、本来は公平で正確であるべきなのに、ヤセルというサージャが計量を操作している可能性が考えられる。


いくつか考えられる要因を挙げてみるよ:


1. 分銅の不正操作

ヤセルが使用している分銅が公式の規格外である可能性がある。

意図的に重さを調整した分銅を使用すれば、正当な量のアズタリを納めた人でも不足しているように見せかけることができる。


2. 計量時の不正行為

分銅の交換や、秤そのものを傾けるなど、計量の際に意図的な不正を行っている可能性がある。

目立たない手法を使えば、現場で誰も気づかないまま不正を行える。


3. 腐敗した制度

サージャはパスティアの貢納を仲介する重要な役割を担っているが、もし制度全体が腐敗している場合、上層部からの黙認や共謀があるかもしれない。

ヤセルがその利益を個人的に得ている可能性もある。


4. 信頼性の欠如

サージャの役割には「公正さ」が求められるが、紋章の刻まれた分銅があるからといって、それが本当に公式なものかどうかは疑わしい。

偽造された分銅で権威を装っている可能性もある。


この件を解決するには、ヤセルの行動を監視したり、別のサージャを通じて再計量を行ったり、公式な監査を求める必要があるだろう。


ただし、制度全体が腐敗している場合は、慎重に行動しないと逆に危険を招くかもしれない。

~・~・~



 そうだ、分銅が本当にパスティアの認めたものという保証はどこにもない。


 初めてアズタリで買い物をした時に、分銅が不正に操作されているかもしれないと思ったことがフラッシュバックした。


「その分銅が本当にパスティアの認めるものかどうかは怪しい」


 俺がそう言うと、場の全員がビクリと身体を震わせた。ヌーラが憤りを滲ませる。


「もしリョウさんの言う通りなら、あなたは不正に回収したアズタリの一部を自分の物にしている可能性がありますね」


「な、なにを言っている! 無礼だぞ!」


 ヤセルは怒鳴り散らして、またしても懐から赤金色の棒きれのようなものを抜き出した。奴がそいつを振るった瞬間、ボッという音と共にものすごい量の煙が発生して俺たちの視界を奪った。


「な、なんだ、これ……?!」


 アメナが素早く呪文を唱えると、風の精霊が姿を現して風を巻き起こした。


 視界が晴れる向こうで、ヤセルが一目散に逃げ出していた。ヌーラが叫ぶ。


「捕まえましょう! 騎士に突き出して手柄を立てれば、パスティア・タファンに入れるように口を利いてもらえるはずです!」


 この子、本当に頭の回転が速い……。


 俺が感心している間に「よしきた」と駆け出すナーディラの横で、アメナが別の呪文を唱えていた。


 ヤセルの周囲に土と水の精霊が出現して、地面をグズグズの状態にしてしまう。


 足を取られたヤセルはたまらずにその場に転倒して泥だらけになる。そこへ、勢いよく跳躍したナーディラが飛び込んでヤセルの背中の上に乱暴に着地した。


 さらに泥まみれになったヤセルを足の下に敷いて、ナーディラがこちらに両手を振っている。


 うちの女性陣、みんな逞しすぎる……。

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