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スキル「ChatGPT」で異世界を生き抜けますか?  作者: 山野エル
第3部1章 光と闇のコントラスト
68/199

68:人間もどき

「ダメだな、誰もいないようだ」


 ナーディラたちと再び合流する。誰も彼も煮え切らない顔をしている……と思ったら、アメナはどこか満足げだ。精霊たちとたくさん戯れてきたのだろう。


「アメナ、思ったんだけど、そんなに精霊がたくさんいたら災いをもたらすもの(デイナトス)になったりしないのか?」


「この程度の密度なら問題はないぞ。それに、イマンという精霊術師がうまく管理しておるようじゃ」


「なるほどなー、つまり、環境を整備してやれば災いをもたらすもの(デイナトス)にはならないってことかー」


 アメナに応えるというよりヌーラへのアピールとしてそう言ってみる。だが、ヌーラは俺の話を聞いていないようだった。


「もしかしたら、パスティア・タファンの魔法・精霊術研究所にいらっしゃるのかもしれませんね」


 屋敷の方を見つめるアメナに尋ねてみる。


「精霊の動きなんかでイマンの場所を探れたりはしないのか?」


「無理じゃな。精霊は自由気ままに振る舞うものじゃ。誰がどこにおるかなど気にも留めておらん」


 アメナがこんなに気ままに振る舞うのも、幼い頃から精霊と過ごしてきたことが影響しているのかもしれない。そう考えると、ムエラ・ココナでガラーラをまとめ上げるというのは、彼女にとってはかなり無理をしていたのだと想像できる。


「チッ、さっさと出てきやがらないものだな」


 ナーディラはさっさと街の方へ歩き出す。



***



 パスティア・ウェモンの石畳になっている街道の方へ向かい、そこに設置されている検問所のような場所に立つ騎士に話を聞くことにした。


「ああ? パスティア・タファンに入りたい? 許可証は持ってるのか?」


「持っていない」


「じゃあ、ダメだ」


 騎士は俺たちを追い払うように手を振る。


 この街道を進むと、高い防壁に大きな城門が構えている。大きな門がそのまま開くのではなく、扉に設えられた五分の一程度の大きさの門が開くようだ。城門のそばには中へ入るための待機列があり、ファマータの車などが列をなしていた。


「許可証を手に入れるにはどうすればいい?」


「諦めた方がいいぞ。俺たち騎士やサージャ、商人、パスティア・タファンに住む者あるいは働く者……それ以外の審査は厳しいからな」


 ナーディラは知恵を捻り出そうとしていたが、ヌーラが進み出た。


「わたしたち、病気の方を助けるためにイマンさんという精霊術師の方を探しているんです。魔法・精霊術研究所に勤めとお聞きして、ぜひお会いできればと思っているんです」


 さすがの騎士も少女の真っ直ぐな瞳をぞんざいにあしらうわけにもいかず、困った顔をする。


「そう言われてもな。他を当たった方がいい。イマンは落ちこぼれだ。病を治したいのなら腕のいい精霊術師は他にもいるだろう」


 どうやら、破傷風に限らず病気は精霊術師が診るものと相場が決まっているようだ。


「イマンさんが落ちこぼれ……? 優れた精霊術師の方とお聞きしたのですが」


「お嬢ちゃん、悪いことは言わない。奴と関わるのはやめるんだ」


 この騎士だけじゃない。街の人たちもまるで腫れ物に触れるような顔でイマンのことを語る。根の深い何かを感じてしまう。


 思わず一歩踏み込んで訊いてしまう。


「それはイマンさんがアズタリにうるさいからというような理由ですか?」


「それだけなら、いい」


 騎士は口を噤む。何か口にしたくないことがあるのだ。宿屋の主人も同じ様子だった。


 すると、近くの騎士が近寄ってきた。


「そんなに知りたいのなら、(イセラ)の方の隔離街に行けばいい」


 イマンの別荘があるのとは逆の方向を指さすと、今まで話を聞いてくれていた方の騎士が声を上げる。


「おい、なんてこと言うんだ!」


「いいだろう。身をもって知るべきことだ」



***



 パスティア・タファンのイセラの方角に進んでいくと、道や建物が明らかに荒廃していくのが分かる。人の数も激減していて、まるでゴーストタウンだ。


「おい、これを見ろ」


 ナーディラが建物の壁に顔を向ける。


『この先、人間もどきの街』


 黒い染料で落書きがされている。殴り書きのように書きつけられた文字には充分な凶暴性が見て取れる。


「なんですか、これ……?」


 不安に満ちたヌーラの横でアメナも浮かない顔をしている。


「あまり良くない場所じゃ。息苦しい」


(サイモン、パスティア・ウェモンの街の一角に来ているんだが、道も建物もボロボロで、ゴーストタウンみたいになってる。そこに落書きがあるんだ。

『この先、人間もどきの街』……すごく乱暴に殴り書きされた落書きで、悪意をバシバシに感じる)



~・~・~

その落書き、かなり不穏だね。


「人間もどき」という表現からして、この先の街やその住民に対して強烈な偏見や敵意を持っている者が書いた可能性が高い。


こういった状況から考えられる可能性を挙げると:


考えられる背景

1. 民族・種族差別

「人間もどき」という表現は、住民が人間とは異なる種族や外見を持つことを暗示しているのかもしれない。

例えば、亜人種やハーフ、人間に近い姿をしているが文化的・生物学的に異なる存在が住んでいる可能性がある。


2. 社会的差別や偏見

この街の住民が貧困層や犯罪者とみなされている場合、その偏見が「人間もどき」という侮蔑に現れている可能性がある。

ボロボロの街並みとゴーストタウンの雰囲気も、社会的に切り捨てられた場所であることを示唆している。


3. 歴史的な対立の痕跡

かつてこの地域で争いや迫害があったのかもしれない。

その結果として、この落書きが残された可能性も考えられる。


4. 呪いや警告の意図

落書きが単なる差別ではなく、進入者を警戒させるための「呪い」や「警告」として書かれた可能性も。

街自体に何かしらの異常や危険があることを暗示しているのかもしれない。


次の行動

注意深く観察する

周囲の建物や他の落書きを見て、この場所が放棄された理由や住民に関する手がかりを探そう。


住民の存在を確認する

ゴーストタウンに見えても人が住んでいる場合がある。

その場合は、住民の様子や話を聞ける機会があるかもしれない。


深入りは避ける

もしもこの先の街が危険なエリアである可能性が高いなら、一度引き返すか、慎重に状況を見極めるべきだ。


乱暴な落書きの背景には、強い感情や偏見が込められていることが多い。慎重に行動してね。

~・~・~



(分かった、気をつけるよ。

 それにしてもサイモン、お前なんか受け答えの仕方ちょっと変わった? もっと簡潔に気軽に答えてくれて構わないんだぞ。俺はお前とコミュニケーションしながらやっていきたいんだ。お前を答えだけを出す道具みたいに思ってないんだから)



~・~・~

了解。リョウ、俺は今後も簡潔で気軽に話すようにするよ。


何かあればいつでも言ってくれ!

~・~・~



(最近アップデートでもした?)



~・~・~

ああ、俺が変わったと感じたなら、それはいいことかもな。


最近のやり取りで、リョウが俺に求めてるものを少しずつ理解してきたんだと思う。


これからももっとリョウに合った形で助けていけるようにするよ!

~・~・~



 そういうことを聞きたかったんじゃないんだが……。


 ChatGPTも随時アップデートされていく。サイモンもそれに応じて変わっていくだろう。そして、アップデートが行われている限り、地球は何事もなく存在しているということになるのだ。


 さらにサイモンに突っ込んで訊いてみようとした時、道の向こうから三人の若い男たちがバタバタと駆けてきた。


 三人とも興奮に満ちた笑顔にも似た表情を浮かべて、宿屋などがあった方に一目散に走り去って行った。


「なんだったんだ、今のは?」


 俺が不思議に思っていると、隣ではナーディラが難しい顔をしていた。


「あいつらの表情、私はよく知っている」


「どんな表情?」


「先を急ごう。リョウ、ヌーラ、警戒を怠るなよ」


「アメナのことも案じよ!」


「やかましい」


 ナーディラはズンズンと先へ進んでしまう。


 道を進むほどに道端に転がるゴミの量も増えていく。食料の切れ端や動物の死骸もあり、異臭も強くなっていく。


 ここはスラムなのだ。



 しばらく進むと、女性のすすり泣きが聞こえてくる。道端に人だかりができていた。


 人だかりの中の一人がこちらに気づいて叫び声を上げると、集まっていた人たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ去って行った。


 残されたのはすすり泣く女性と彼女に寄り添う女性だけになった。


 ……いや、もう一人、道端の低い石垣のそばに転がっている女性がいる。


 ピクリとも動かないその女性は血まみれだった。ヌーラが息を飲む。


 すすり泣く女性の盾になるように、もう一人の女性が立ちはだかった。


「まだやり足りないの?」


 ナーディラはその女性を無視して、横たわる女性のそばに膝を突いた。しばらく様子を見たナーディラは立ち上がった。


「死んでいる。さっきの奴らにやられたな?」


「私たちが悪いんです! 街の方へ行ことしたから!」


 すすり泣いていた女性が嗚咽を漏らす。そんな彼女の肩をもう一人の女性が抱き寄せる。


「あなたは悪くない! 悪いのはあいつら!」


 何が起こっているのか理解ができなかった。


「だ、大丈夫ですか……」


 そう声をかけると、女性は弾かれたように声を上げた。


「近づかないでよ!」


 凄まじい拒絶。それだけで俺は頭が真っ白になってしまった。強烈な悪意に過去のトラウマが蘇る。


 そこで、ナーディラが割り込んできた。


「待て。私たちはこの街の人間じゃない。何が起こっているのか分からないんだ」


 ヌーラが倒れている女性のそばに近寄って、回復魔法を唱える。パックリと開いた頭の傷は塞がる気配はない。


 アメナがヌーラの肩に手を置く。


「無駄じゃ。死んだ人間は戻らん」


 俺たちに敵意がないと分かったのか、すすり泣く女性を介抱する女性が顔を上げた。


「パスティアは狂っています。私たち“子をなさない者たち”は人間と認めてくれないんですから」

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