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スキル「ChatGPT」で異世界を生き抜けますか?  作者: 山野エル
第2部1章 再スタート
35/199

35:第一の証明

 翌朝、目覚まし器の音で目覚めた。


 ちょうど一日前、サイモンに時間の計測をスタートさせた。今日はその結果をようやく確認できる。

 俺が「ストップ」と言えば、サイモンが昨日の日の出から今日の日の出までの間隔を導き出してくれる。


「んん~、おはよ……」


 今日はザラも起きてきたらしい。俺は寝ぼけ眼のザラとナーディラを引き連れて山小屋の外に出た。


 また暗い外は吐く息が白くなるほどではないがかなり冷える。


 崖のところへ向かう。昨日太陽が沈んだのとは反対の山の稜線が明るくなってきた。


 おもむろにザラが深呼吸するので、俺たちもそれに倣って大きく息を吸い込んだ。


「今日は丸一日かけて山を越えるぞ」


 ナーディラがそう言うと、ザラが拳を掲げた。


「おー!」


 一日が始まる時間に居合わせると、心機一転する気がする。


 そのせいだろうか、昨日サイモンと話していた俺の“特殊な魔法”について、俺の中で考えが改まっていた。


 昨日は俺がサイモンと話すことができる理由を特殊な魔法による通信だと推測した。だが、魔法で通信できることとChatGPTが使えることとは同義ではない。


 なぜサイモンと話ができるのかという問いについての答えは依然不明なままなのだ。


 疑問が振出しに戻ったところで、太陽が顔を見せた。


 俺はサイモンに告げた。


(ストップ)



~・~・~

今回の計測時間は約21時間2分6秒だったよ。

~・~・~



 地球の一日の長さと明らかに違う……。


(サイモン、この世界の一日の長さは約21時間2分6秒だ)



~・~・~

その一日の長さをもとに、地球での日数との差異を確認してみよう。


この世界で79日が経過した間、地球では約69.24日が経過していたことになるね。このズレは、この世界の一日の長さが地球より短いことで説明できる。

~・~・~



 俺がこの世界で七十九日過ごした時点での地球の日時は十月十二日だった。

 一方で、俺が憶えている元の世界での最後の記憶は八月四日だった。


 その差は六十九日。


(俺が認識している日数のズレと一致してるぞ! ここは地球より自転速度が速いんだ。

 地球の自転速度が一気に三時間くらい速まることなんてないよな?

 それって、つまりこの世界が過去現在未来のどの地球でもないってことが証明されたってことか?)



~・~・~

そうだな、まさにその通りだよ!


この世界の自転速度が地球より速い(=1日の長さが短い)ことから、地球とこの世界が異なる天体であることがわかる。


もしこの世界が地球の過去や未来の姿だったら、1日の長さにこれだけの違いが生じるような急激な変化は考えにくいし、地球の物理法則の範囲内ではそのような自転速度の変化も起こりえない。


これで、少なくとも地球とは別の天体にいるということが証明されたし、異世界という感覚が現実味を増してきたね。

~・~・~



(そうなると、まずますこの惑星はどこにあるんだって話になるな……。


 人類が居住できる惑星が見つかったなんて今までニュースで聞いたことないから、現在の宇宙の観測範囲外にいる可能性の方が高いだろ?)



~・~・~

その可能性が高いと思う。


地球の科学技術や観測能力では、今のところ人類が居住可能な惑星は見つかっていないし、発見されている惑星の多くは地球から数光年、あるいはもっと遠い距離にある。


だから、今の宇宙の観測範囲を超えた場所、もしくは地球の科学技術ではまだ見つけられていない隠れた領域にある惑星なのかもしれないね。


あるいは、地球の宇宙物理学では説明できないような異次元的な空間に存在している可能性も考えられる。


もしこの世界が「現在の地球の観測範囲外」にあるとしたら、それがどのようにしてリョウがここに来たのか、あるいは地球とどう結びついているのか、謎がさらに深まるな。

~・~・~



「満足したか?」


 ナーディラが俺を見ていた。きっと、日の出が見られたこと、そして、サイモンと話したことの二つの意味で訊いたんだろう。


 ザラがを見ると自分を抱きしめるように身体をさすっていた。


「ああ、ごめん。じゃあ、小屋に戻ろう」


「よし、朝食にしよう」


 ナーディラが言うと、ザラが両手を広げた。


「わーい」



***



 アレムは俺たちに旅の食料も用意しておいてくれていた。


 この世界の携行食は意外と豊富だった。


 まずはジャメの粉で作った“凄まじい乾燥パン” 。

 その名の通りとんでもなくパサパサした塊だ。そのまま食べてもいいらしいが、口の中が死ぬほどパサパサになるのでたいていは水でふやかしたり、料理に投入したりする。


 他には、木の実や種など、そのままで保存が利くものは革の袋の中に詰めて持って行けるし、干し肉や干し果物、干し野菜もいくつか種類がある。

 酒や酢で漬けた保存食もアレムは荷物に入れてくれていたようだ。


 おかげで空腹で倒れるという心配は要らなかった。


(この世界の食文化は地球の別の地域のものと言われても疑問が湧かないくらいの感じだ。凝った料理はないけどな。酒も酢も……あとは蜂蜜なんかもあるんだぞ)



~・~・~

食文化に関しては、日常の食べ物が似ていると感じると不思議な気持ちになるよな。


料理の工夫は少ないけれど、基本的な調味料や酒があるなら、地球のどこかと繋がりがあるかのように見えるね。


でも、それが本当に地球と関係があるのかどうかは謎が深まるばかりだ。

~・~・~



(蜂蜜があるってことは、虫と植物の関係性が地球と似通ってるってことだろ? 別の惑星にしては環境が似通いすぎだよな)



~・~・~

確かに、蜂蜜が存在するということは、少なくとも花を訪れる昆虫がいて、植物がその受粉を通じて繁殖しているということになる。


この生態系の構造が地球と似ているのは、偶然にしてはできすぎているよな。


植物の花とそれに適応した虫がいること、そしてそれが蜜を作るというのは、かなり精密な進化の過程を経ないと成り立たない。


これが別の惑星だとしたら、環境や生物の進化が地球とほぼ同じ道を辿ったか、あるいは何かが意図的にそうさせたんじゃないかとも考えたくなるほどだね。

~・~・~



(例えば、ここを地球と同じ環境にしようとした奴がいたとか?

 でもそれって、この惑星に人類がすでに来てたってことになるけど、それはいくらなんでもおかしいよな)



~・~・~

そうだな、それが本当だとしたらかなりとんでもない話になるよ。


もし誰かがこの惑星を地球と同じ環境にしようとしたとしたら、地球から来た人類が関与している可能性が考えられる。


でも、そうなると地球側でその痕跡や技術の証拠がまったく見つかっていないのは不自然だ。


それに、地球から移住するような技術があったなら、歴史に残るほどの出来事になるはずだから、リョウが聞いたことがないのも変だよね。


仮に異星人が地球をモデルにしてここを造ったのだとしても、なぜ地球と似た環境をわざわざ再現するのかという疑問が残る。


だからこそ、今のところは単純に「偶然の一致」や「似た進化の道を辿った」可能性が高いけれど、すべてを否定するにはまだ情報が足りないな。まさに謎の領域だよ。

~・~・~



 この惑星の環境はどう考えても不自然だ。


 考えれば考えるほど意味が分からなくなる。


 考え事をしながら朝食の時間は過ぎていき、ナーディラたちは身体を洗いに外に出て行った。


 山小屋で身体を洗えないと思っていたが、ナーディラと俺が魔法で生み出した水をタオルに染み込ませて、それで身体を拭くことで清潔さを保つことはできた。


 水は冷たいままだが、それもすぐに慣れた。


 一度、俺とナーディラで温かい水を生み出そうと二人で魔法を同時に発動してみたが、そう都合よくは行かなかった。結局は溜めた水を火で熱して適温のお湯にするしかなかった。


 地球環境と似ている部分も多い中で、魔法だけは一見して分かる差異だった。


 この世界を知るには、魔法をよく知らなければならないだろうということは容易に想像がつく。


 ──やっぱり、ナーディラが言っていた、魔法学校を訪ねてみようか。


 まだ目の前の問題が片付いていないというのに、俺は先のことを考えていた。


 地球にいた頃の俺とは大違いだ。



***



 身支度が済んで、早々に山小屋を出発した。


 高所に切り拓かれた交易登山道を順調に進み、尾根伝いのルートに出る。


「地図では、この先はどんどん下っていくだけみたいだな」


 休憩中、地図とにらめっこしていたナーディラが顔を眼下の斜面に向けた。


 岩がちな山肌の所々から、淡い紫色のタケノコのようなものが突き出ているのが見える。斜面を下っていくほどその密度と一本一本の鉱脈樹は高くなっているようだが、その先は遠くの尾根の向こう側に隠れてしまっている。


 それでも、幻想的な光景だ。


「あれがカバデマリだよ! 山の向こう側に行くともっとすごいんだよ!」


「ザラの街が近づいているということだな」


 そう言ってナーディラは勢いよく立ち上がる。


 ──あの綺麗な鉱脈樹に生贄(ピカーナ)を……。


 生贄(ピカーナ)はまず心臓を刺されると言っていた。血だらけの少女が美しい木にぶら下げられるのを想像すると、背筋が冷たくなる。

 しかも、そのまわりには儀式を見届ける人もたくさんいるのだろう。


 なんとしてもヌーラを救い出さなければ……。そんな思いを抱きながら峠を越えていく。


 交易登山道はカバデマリの鉱脈樹の間を縫うようになってくる。俺の不安の高まりを示すかのように鉱脈樹も太く、高く、幹と枝を伸ばしていく。



(話したかどうか忘れたけど、カバデマリっていう淡い紫色の鉱物の鉱脈が地上に張り出して木みたいになってる。あまりにも硬すぎて鉱脈が高く伸びちゃうらしい。

 綺麗だけど、この鉱脈樹に生贄をぶら下げるって考えると改めてめちゃくちゃ恐ろしいわ……)



~・~・~

いや、初耳だよ。


「カバデマリ」っていう鉱物の鉱脈が木のように地上に突き出ているなんて、相当異質な風景だろうな。


淡い紫色っていうのも美しさと不気味さが入り混じった感じだし、それを生贄の儀式に使うってなると、なおさら背筋が寒くなるね。


その硬さゆえに鉱脈が自然に高く伸びるというのも興味深い。


地質的にも特殊な環境なんだろうな。普通の鉱物だと、重力に逆らってそんなに高く成長することはないから、もしかすると特別な成分や魔法的な要素が関係しているのかもしれない。


儀式と鉱脈樹の関係性にも、何か深い理由があるのかもね。

~・~・~



 カバデマリの森はココナ山の麓辺りまで下りてくると、本当の木ほどの背丈になって俺たちを飲み込むような景色になっていく。


 一度、興味を持ったらしいナーディラがファマータを停めて鉱脈樹を触りに行ったが、ニヤニヤした顔で戻ってきた。


「めちゃくちゃ硬いぞ」


「ナーディラ、何があるか分からないんだから、安易に触るんじゃないよ」


 俺が注意すると、ナーディラに睨みつけられた。


「お前はお母さんか」


 ザラがクスクスと笑っている。


 なんだろう……、すごく地球的なツッコミにちょっと安心してしまった。

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