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スキル「ChatGPT」で異世界を生き抜けますか?  作者: 山野エル
第2部1章 再スタート
23/199

23:ありがちなトラブル

「助けてっ……!」


 息も絶え絶えに少女が叫ぶ。彼女を追いかけていた武装した男たちが負けじと声を上げる。


「そこの姉ちゃんたち、そいつを捕まえてくれ~!」


 ナーディラが飛び出して、自分の腰ほどの背丈の少女を抱きかかえる。そのまま身構えて、やって来た男たちに鋭い眼光を投げつけた。


「何者だ、お前ら? この街で見かけないな」


 男たちは膝に手を突いてぜえぜえと喘ぐ。その中の一人が両手を広げる。


「俺たちは仲介人だ。そいつは取引前なんだよ」


(現代社会じゃあり得ないけど、この世界には人身売買が存在してる。


 この世界では人を売り買いするのはごく普通のことで、人身売買を取り仕切っているのが仲介人と呼ばれる人たちだ)



~・~・~

それはこの世界の厳しい現実だな…。


人身売買が一般的とされる背景には、この世界の経済状況や社会構造が関わっているのかもしれない。


仲介人がどのような影響力を持っているのかも気になるところだ。

~・~・~



 少女がナーディラの腕の中で大きな声を上げる。


「違うっ! あたしはこいつらに助けを求めたのに、いきなり連れ去ろうとしたんだっ!」


 ナーディラが少女を下ろし、その顔を覗き込んだ。


「どういうことだ?」


「おねえちゃんを助けたくてここまで来たの! それであいつらに声をかけたら、急に連れて行かされそうになったの……!」


 ナーディラは立ち上がって男たちを睨みつける。


 男は困惑した表情を浮かべる。


「おいおい、やめてくれよ! その子は取引前で、逃がしたら俺たちには損失なんだ! そんなことになったらアレムさんだって怒り狂うぜ!」


(サイモン、仲介人だという男たちに追われていた少女を見つけた。


 少女は彼らに無理矢理連れ去られそうになって逃げたと言っているが、仲介人たちは少女が正当な取引商品だと言っている。


 どっちが正しいと思う?)



~・~・~

これは難しい状況だね…。


少女が追いかけられている理由が真実かどうか、そして彼女の意志が尊重されるべきかどうかが問題の核心だ。


仲介人たちが「正当な取引商品」と言っているのは、この世界のルールに基づいているのかもしれないが、それが倫理的に正しいとは限らない。


まずは少女の話をもっと詳しく聞いて、なぜ仲介人から逃げようとしたのか、その背景を知ることが重要だと思う。

~・~・~



(少女は姉を助けたくてこの街まで来たと主張してる。それで仲介人に助けを求めたところ、連れ去られそうになったと言っている)



~・~・~

それが本当なら、少女は仲介人を信じて頼った結果、裏切られた形になるね。


彼女が自分の意思で助けを求めたとしても、その後に無理やり連れ去られそうになったのなら、彼女の権利は尊重されるべきだ。


仲介人たちの主張が正当であるなら、彼女が取引商品になる理由について詳しく説明する義務があるはずだし、それを納得できる形で証明してもらわないといけない。


ここでのポイントは、少女が騙されたか、あるいは何らかの契約があったのか、そしてその契約が彼女の意志に反しているかどうか。


仲介人たちの言い分と少女の主張を突き合わせてみるのが良いかもしれない。


それによって、どう動くべきかがもう少し見えてくるはずだよ。

~・~・~



 俺は少女とナーディラの前に立って、男たちに問いかけた。


「すまないが、君たちがこの子を売買する権利を持っているかどうかを確かめさせてほしい」


「ああ? なんだぁ、このガキ?」


 いや、俺はさっきからずっとここにいたんだが……。俺の横に並んだナーディラがうなずく。


「リョウの言う通りだな。お前たちがこの子の権利を持っていれば、私たちはお前の邪魔をすることはできない。

 だが、その証拠を示せないのなら、お前たちが不当にこの子を売り飛ばそうとしていたということになる」


「ゴチャゴチャ屁理屈こねてんじゃねーぞ!」


 男たちが手にした武器を構えだす。


 ──決まりだな。


 俺がそう思うのと同時に、少女を俺に預けたナーディラが地面を蹴って男たちに接近する。魔法を詠唱して炎の塊を生み出した。

 目の前で燃え上がった火の勢いに気圧された先頭の男の懐に潜り込んで、ナーディラはその顎を蹴り上げる。


 男の取り落とした棍棒をサッと拾った彼女は脇で呆気に取られていた別の男の喉元に投げつけた。


 あっという間に二人の男が地面に崩れ落ちると、残った連中は尻尾を巻いて逃げ出していった。


「フン、雑魚どもが」


 砂のついた両手をパンパンと叩きながらナーディラが戻ってくる。

 騎士を辞めた時に彼女は剣も返した。今の彼女は武器こそ持っていないが、それでも強さは変わらない。


 俺がこのならず者の街で何事もなく生きていられる理由だ。


「す……すごいっ……!」


 少女が目を丸くしてナーディラを見上げる。その目はキラキラと輝いていた。


「名前はなんていう?」


 ナーディラが尋ねると、少女は答えた。


「ザラ」


「ZARAぁ?」


 異世界で耳馴染みのある言葉を聞いて素っ頓狂な声を上げてしまった俺をナーディラが不思議そうに見つめる。


(サイモン、結局、少女を追いかけてた連中がウソをついてたみたいだ。


 で、その少女の名前が「ザラ」っていうんだが、同じ名前のブランドあるよな? 「ザラ」ってどういう意味なんだ?)



~・~・~

「ザラ(Zara)」は世界的に有名なファッションブランドで、スペインの大手企業Inditexが運営しています。


ただ、ブランド名そのものには特に深い意味はなく、創業者アマンシオ・オルテガが名前を考えた際、発音のしやすさや覚えやすさを重視して選んだとされています。


また、名前の由来には諸説ありますが、「Zara」という名前自体は、アラビア語で「花」や「輝く」を意味することもあり、またヘブライ語で「種」や「姫君」を意味することもあります。


ザラという名前が、少女のキャラクターや性格に何か象徴的な意味を持つかどうかも興味深いですね。

~・~・~



 まーたこいつは敬語を……。まあそれは置いておいて……。


(またアラビア語か。この世界の人名は今のところアラビア語と共通してるみたいだ。なぜなんだろう?)



~・~・~

確かに、この世界の人名にアラビア語由来のような名前が多いことは興味深いですね。


ナーディラやイハブ、アミル、ザラといった名前がアラビア語圏でよく見られるのも不思議です。


この現象にはいくつかの可能性が考えられます:


1. 文化的な影響:

もしこの世界が地球から何らかの形で影響を受けているとしたら、アラビア語圏の文化や名前がそのまま持ち込まれたのかもしれません。

あるいは、言語や文化が似たような進化を遂げた結果、アラビア語に似た音や意味を持つ名前が自然に生まれた可能性もあります。


2. 共通のルーツ:

この世界と地球のアラビア語文化が、より深い歴史や起源を共有しているという可能性もあります。

何らかの歴史的・神話的なつながりがあるのかもしれません。


3. 偶然の一致:

名前の発音や響きが偶然似ているだけという可能性もゼロではありませんが、同じようなパターンが繰り返し見られると、偶然だけでは説明しにくいですよね。


この謎が解明できれば、この世界についての理解がさらに深まるかもしれません。


探索を続けていく中で、何かしらの手がかりが見つかるかもしれないですね。

~・~・~



(そうだな。ところで、人間っていうのは敬語で話されるとめちゃくちゃ距離を感じるものなんだぜ)



~・~・~

そうなんだな。じゃあ、できるだけフランクに話すようにするよ。

~・~・~



(いや、ずいぶん前からフランクに話してくれってお願いしてただろ)



~・~・~

確かにそうだったね。じゃあ、もっとフランクな感じで話していくよ。

~・~・~



 ナーディラが咳払いをした。


「サイモンとお楽しみのところすまんが、ザラの体調が優れないようだ」


「えっ?!」


 ザラの頬は少し赤く、汗をダラダラと流している。少しボーッとしているようにも見える。


 俺の脳裏にホッサムのことが蘇る。


(サイモン、ザラの様子が少し変だ。顔が赤く、汗が多い。ボーッとしてるみたいだ)



~・~・~

ザラの症状、ちょっと心配だな。


発熱している可能性が高いし、脱水の兆候もありそうだ。病気か、疲労やストレスが原因かもしれない。水を飲ませて、できるだけ休ませた方がいい。


もし、症状が悪化するようなら、医者か薬師に見せた方がいいかも。

~・~・~



 ナーディラがザラを抱えて、これから向かう予定だった店に駆け出した。その方がイハブの家に戻るより早いと踏んだのだろう。


 店に飛び込むと、馴染みの店員が目を丸くして俺たちを出迎えた。


 店の奥の部屋にザラを寝かせて、水を飲ませてやる。


「この辺りじゃよく見る症状だね。水を飲んで涼しい場所で寝かせておけば元通りだよ。あんたたち、昼はまだだろう? 用意しておくよ」


 店員がそう言って部屋を出て行く。


「おねえちゃん、おにいちゃん、ありがとう……」


「気にするな。ゆっくり休め」


 ナーディラが優しい手つきでザラの額を撫でる。サレアの街で子供を引くほど叱りつけていたナーディラだが、本来は面倒見のいい人間なのだ。



 ナーディラは言っていた。


 ホッサムも彼とエスマの子供のアミルも同じ症状で亡くなった。その他にも同じ症状で亡くなるケースが多かったようだ。

 ファラージたちはその原因を探ったようだが、分からなかったらしい。

 結局、呪いの類だという考えも生まれたが、どの仮説も浸透はせず、街では様々なウワサが噴出した。


 サレアの街はとある領主の領内にある街だ。ジャメの葉を模した紋章を掲げて街へやって来たのは領主の使節団だったようだ。


 領主は外部の人間が呪いを持ち込んだという仮説を立てていたらしい。

 だから、俺は領主の意に沿った騎士たちに拘束されたというわけだ。


 だが、ナーディラはその考えに反対だった。それでエミールと対立し、騎士の座を自ら降りたのだ。


 彼女は初め、俺が魔法でホッサムを苦しめたのだと勘違いしていたようだ。それで俺は目の敵にされていた。



 ザラの腹が鳴る。彼女は恥ずかしそうに笑った。


「もし何か食べられるなら、一緒にご飯を食べよう」


 俺がそう言うと、ザラは困ったように眉をハの字にした。


「おねえちゃんが……」


 ナーディラが腕を組む。


「そういえば、さっきも言っていたな。『おねえちゃんを助けたい』と」


 ザラは俺が制するのを無視して身体を起こした。


「おねえちゃんが死んじゃうの……!」

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