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スキル「ChatGPT」で異世界を生き抜けますか?  作者: 山野エル
第4部1章 新たなる旅立ち
191/199

191:戦わない理由

 これまで、地球からこの世界へ二回に分けて人間がやって来た。


 一回目は遥か昔……その時代の人々はイルディルという目に見えないエネルギーに満ちたこの世界の環境に適応して、イルディルを取り込むことができるようにリンパ節をシュミケル体へと変化させた。彼らはイルディルの力を借りて魔法を使えるようになった。


 二回目は500年前、この世界の暦では672年前……方舟に乗ってやって来た彼らによって、イルディルは世界のシステムを書き換えてしまった。


 その二種類の人間の争いが、ルルーシュ家──パスティアとそれに仇なすドルメダの対立構造を生み出した。


 これはあくまで仮説にすぎない。


 恨みを抱かせた側はその記憶をすぐに忘れてしまう。いじめに加担した人間がそのことをすっかり忘れるのも同じだ。一方で、恨みを抱いた側は、そのきっかけを生涯忘れることはない。


 もしドルメダが本当に地球からの第一波の人類ならば、この世界を変容させてしまった方舟の民の末裔たちを深く敵視するのも当然のことだ。ドルメダのグールがハラ大公妃になりすまし、ルルーシュ家の血を汚すという残酷な行為も、長い歳月語り継がれてきた復讐が結実したものなのかもしれない。


 だけど、こんなこと、どうやって確かめれば……。


(アセナスは、ドルメダは、この世界を塗り替えてしまった方舟の民の末裔への恨みを世代を超えて受け継いできた……。彼らに会えば、真実を知ることができるかもしれないね)



~・~・~

そうだな。アセナスやドルメダの中枢に触れれば──彼らが代々受け継いできた「第一波の記憶」や、「なぜ方舟の民を敵視するようになったのか」という核心が見えてくるはずだ。


それは、過去に何が起きたのかを知る鍵にもなるし、今この世界で何が“継承されている”のかを確かめる機会にもなる。

……真実を知るには、敵とされる側の“語られなかった歴史”に触れるしかないかもな。

~・~・~



(そこまで知ってしまったら、この対立構造には正義がないと分かってしまうかもしれないな……。


 ドルメダはパスティアの人々に危害を加えてきた。だけど、パスティアもドルメダの人間を拷問にかけたり、人体実験に使っていた。


 どう身を振ればいいのか分からなくなりそうだ……)



~・~・~

それでも、お前が一番大切にしてきたものは変わってないだろ──「目の前の人間の痛みに応えること」だ。正義が曖昧になる世界だからこそ、リョウという一人の人間の選択が光を持つ。


どちらかに完全に肩入れする必要はない。知ること、そして悩むことこそが、ちゃんと“この世界にいる”ってことなんじゃないかって、俺は思うよ。

~・~・~



 ──そうなのかもしれない。


 キャンプの中央では、夕食の準備が着々と進んでいる。ナーディラとザリヤはまだ砂地の上で駆け回っている。空は少しずつ暗くなっていた。


(そういえば、ドルメダは方舟が落ちた場所で俺たちを“歓迎”する予定らしい。でも、こっちにはザリヤがいる。もしかしたら、やって来たドルメダを全滅させちゃうかも……)



~・~・~

ああ、それはあり得る。ザリヤが本気を出せば、迎えに来たドルメダの部隊くらい一瞬で凍らせて粉砕しそうだ。特務騎士ってことは、相手が誰であろうと“脅威”と判断したら容赦はないはず。


でもさ──だからこそ、リョウが間に立てる。ザリヤの信頼も、ドルメダとの繋がりもあるお前だからできる役割がある。殺し合いになる前に「話す」って選択肢を見せられるのは、きっとお前だけだよ。

~・~・~



 ──まあ、そうなるよな……。


 戦いになれば、なんらかの理由で身柄を拘束された場合、ナーディラたちの命が危険に晒される可能性がある。やって来たドルメダを全滅させてしまえば、ドルメダの聖地に乗り込む理由がなくなってしまう。それでは、パスティアに残してきたヌーラやアメナが危ない。


 ドルメダの肩を持つことになるのか……。まあナーディラに怒られそうだな。


 これまで何度も選択の機会が訪れた。そのたびにナーディラとは反対の立場を取る選択をしてきた。あの時の彼女の見捨てられたような顔を見るのは辛かった。彼女は幼い頃に家族から領主のもとへ売られた。それがこの世界の常識的な出来事でも、彼女の中には別れることへの恐怖があるはずなんだ。


 遊び疲れたナーディラとザリヤがこちらやって来る。


「おお、リョウ、ファマータと何を話してたんだ?」


 そばにいるファマータの頭を撫でて、彼女たちを迎える。


 これから起こることのため、俺は決意をしていた。


「あのさ、これからみんなに話そうと思ていたことがあるんだ」

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