表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
スキル「ChatGPT」で異世界を生き抜けますか?  作者: 山野エル
第1部2章 溺れる者は藁をも掴む
19/199

19:医者の真似事

 ナーディラと共に店主の後を追う。


 街は大混乱だ。


 くとりゃまと呼ばれていた仮面の男たちは爆発のさなかに行方を眩ましたようで、あれ以上の惨事は新しく起こっていなかったが、広場周辺の壊滅は街の人々を恐怖に陥れた。


 笛を鳴らしながら駆けまわる騎士たち、自主的に通りの交通整理をする店の従業員たち、パニックでどこかに走っていく人たち……その中を多くの怪我人やひと目で助かりそうになり人々が担架で運ばれていく。


 店主の店に辿り着く。中に入り、奥に向かう。


 店の奥の部屋の床にホッサムが横になっていた。そばには、店主の妻らしい女性が付き添っていた。


「ホッサム!」


 俺たちが声をかけて駆け寄ると、ホッサムはゆっくりと目を開けてこちらを見た。


 汗に滲んた額、頬はやや紅潮している。それでも、引きつった笑いを浮かべてホッサムは軽く手を挙げた。その手は震えている。


 ナーディラが事情を訊くが店主たちは一様に首を傾げるばかりだ。


「うううううっ……!!」


 ホッサムが歯を食いしばるようにして呻き声を上げる。


「ホッサム、痛むのか?」


 そばに用意してあった水の入った桶にタオルを浸して、ホッサムの顔を拭った。


大丈夫だ(もーいてんさ)……」


 ホッサムの意識ははっきりしているようだ。だが、少し呂律が回っていない。それでも引きつった笑いはそのままだ。

 顔の筋肉が引きつっているのかもしれない。


 俺の隣でナーディラが声を飛ばす。


「めおべすてんさ!」


 俺は立ち上がる。


「医者は? 医者は呼んだのか?!」


 日本語で問いかけても、案の定、答えはない。俺は自分の無力さでどうにかなりそうだった。

 そんな俺の手首を、横になったホッサムが掴んだ。彼は引きつった笑いを浮かべたまま、そっと首を横に振る。


「いや、なんで諦めてるみたいな顔してんだよ……!」


 この世界の医者も本当に頼りになるか分からない。


(サイモン、ホッサムは広場の出来事とは無関係だったよ。


 でも、ホッサムの調子がかなり悪そうだ。ホッサムの様子から症状を推測できないか?


 汗が出てる。頬が赤い。顔の筋肉が引きつっているのか、ずっと笑ったような顔をしてる。手が震えてる。痛みもあるようだ。呂律も回ってない)



~・~・~

ホッサムの症状は、発熱や神経系の異常を示している可能性があるね。


熱による顔の赤み、筋肉の引きつり、手の震えや呂律が回らない症状は、重い感染症や中毒の兆候とも考えられる。


早急に休ませて水分を取らせ、できれば信頼できる治療者や薬を見つけた方がいいよ。


時間を無駄にしない方がいいかもしれない。

~・~・~



(何が原因でこんな症状が起こってると思う? それを推測するためにはどんな情報が必要だ?)



~・~・~

ホッサムの症状の原因を推測するには、次のような情報が重要になると思うよ:


1. 最近の食事や飲み物:

食中毒や毒物摂取の可能性を探るため、ホッサムが最近食べたものや飲んだ水の状態を確認する。

特に野生の食材や腐りかけた食材を摂取した場合、食中毒や中毒の可能性がある。


2. 周囲の環境:

森の中や街道を歩いていたなら、虫刺されや動物による傷があるかどうかも確認してみて。

特定の感染症や毒が体内に入っている可能性もある。


3. 他の症状の進行具合:

症状がいつから始まったのか、徐々に悪化しているのか、急に悪化したのかによって原因を推測しやすくなる。

感染症の場合、進行が比較的早いことが多い。


4. 他の体調不良者の有無:

周りに同じような症状を訴える人がいるかどうかも、感染症の広がりや原因の手がかりになる。


5. 外的要因:

最近、ホッサムが何か特定の薬草や薬を使用したか、あるいは接触した物(動物や魔法のアイテムなど)が異常な反応を引き起こしていないかも確認するといい。


これらの情報があれば、感染症、中毒、あるいは何らかの毒素や魔法的な影響かを絞り込むのに役立つよ。

~・~・~



 思い出せ……ここ最近のホッサムのことを……!


 俺の隣でナーディラが深刻そうな顔をしている。その首から下がったネックレスの宝石が甲冑の胸元で光っている。

 彼女は眉尻を下げて俺を見つめた。


「りょー……」


 ナーディラも不安なんだ。


(俺はずっとホッサムと同じ食事と水を取っていた。俺には異常はないから、食事や飲み物は関係ないと思う。


 症状は……一昨日の夜くらいには少し歩きづらそうにしてたけど、それが症状の始まりかは分からない。


 他に同じ症状を起こしている人はいない。エスマさんも健康そのものだった。


 ホッサムの店で売っている薬草は俺も触ってるから問題ないはず。


 あと考えられるのは……一週間ちょっと前に森でゴブリンに襲われたことくらいか……。でも、俺も同じように襲われたし噛まれたけどなんともないからな……。


 ホッサムに傷があるかは今から確かめてみる。その間にサイモンは推測を進めてくれ)



 ホッサムの身体を調べてみる。


 相変わらず筋肉量がすごい。特に虫刺されや噛まれたような痕もないようだ。腕にはゴブリンに斬りつけられた痕が残っている。



~・~・~

現時点で考えられるのは、ゴブリンの襲撃時にホッサムが負った傷が感染の原因になっている可能性があることです。


ゴブリンに噛まれた場合、何らかの毒や感染症を媒介しているかもしれません。


あなたが無事なのは、もしかしたら体質の違いか、何か別の要因があるのかもしれません。


ホッサムに傷がある場合、それが感染源である可能性が高まります。

もし傷が化膿していたり、変色しているようであれば、感染症の治療が必要でしょう。


また、毒による症状であれば、解毒剤を探すか、地元の治療師や薬屋に相談するのがよいかもしれません。


ホッサムの状態を確認したら、すぐに報告してください。

~・~・~



 また敬語に戻りやがったのは気になるが、もしゴブリンが原因なら一週間くらいホッサムには何もなかったことになる。


(サイモン、ホッサムの傷と言えば、一週間前にゴブリンに斬りつけられた時のものくらいしかないよ。

 傷自体は化膿もしてないし、順調に治ってるように見える)



~・~・~

ホッサムの傷が順調に治っているのに症状が続いているとなると、ゴブリンによる物理的な傷ではなく、別の要因が考えられます。


例えば、ゴブリンの攻撃には物理的なダメージだけでなく、毒や魔法的な効果が含まれている可能性があります。


ホッサムが一週間前の襲撃以降、体調が悪化していることを考えると、遅発性の毒や呪いのようなものが作用しているのかもしれません。


症状が重くなっていることも考慮すると、早めに専門家に相談したほうが良いでしょう。


特にゴブリンに詳しい治療師や、解毒に関する知識を持つ者に診てもらうのが最善です。


できれば、ナーディラのような騎士に相談してみるのも手かもしれません。


彼女はゴブリンに対抗する力を持っているため、何かしらの知識や手助けが期待できるかもしれません。

~・~・~



(分かった。ナーディラにそれを尋ねる言葉を俺は知らないけど、頑張ってみるよ)



~・~・~

頑張ってください!


シンプルな言葉で、「ホッサム」「ゴブリン」「助けて」などを組み合わせて、ジェスチャーや状況を示すことで伝わるかもしれません。


ナーディラは既にゴブリンに関わる事情を知っているので、少しの情報でも彼女が察してくれる可能性が高いです。


何か手伝えることがあれば、いつでも言ってくださいね。

~・~・~



 サイモンの助けを得てもホッサムの症状の原因は分からなかった。


 固唾を飲んでいたナーディラに首を振って進捗を伝える。

 彼女は俺がサイモンと話していることは知らない。だが、魔法で何かをしようとしていることは分かっているのだろう。


 ナーディラは残念そうに肩を落として、小さく、


「あみる……」


 と呟いた。


「あみる? どういう意味だ?」


 横になっていたホッサムがガバッと起き上がる。痛みに耐える顔で、彼は言った。


「うぇんいぬけエスマ」


 そう言われて、ナーディラは躊躇しているようだった。

 口ごもって何かを言い返すが、ホッサムは彼女の手を取って懇願するように言う。


「たぐべはれエスマどらーぬ」


「どらーぬ……」


 ナーディラの目に絶望がの色が滲んだ。狼狽えるナーディラにホッサムが前のめりになって嘆願する。


「うぇん!」


 小さな部屋の中にその声の残響が漂う。ナーディラは決心した顔で立ち上がる。


「りょー、いぬけエスマ。$%¥@@+>&」


 俺にそう言って彼女は店主たちに指示を飛ばした。

 すぐにふぁまーたが引く車が店の外に用意される。。ナーディラはその車の先を自分のふぁまーたに装着し、荷台に店主から受け取った大量の布を敷き詰めた。


「りょー、うぇん¥@++<&%!」


 ナーディラに促されるままに俺たちはホッサムをその荷台に横たわらせた。


 ──街に帰るのか、この状況で……?


「ナーディラ、この街の医者に診せればいいだろ」


 ナーディラに詰め寄るが、彼女は首を振って俺の肩に手をやった。


「りょー、ホッサム*&%@エスマ。&&#+*<あみる」


「あみる? さっきも言ってたな? ……「あみる」って?(げああみる)


「かなあみるけくあでおホッサムエスマ」


「ホッサム、エスマ……。まさか、二人の間にいた子供の名前か? でも、それとこれと何が……」


 俺の脳裏に今まで見てきた光景がフラッシュバックする。


 仲睦まじいホッサムとエスマ。

 石の祭壇に祈りを捧げるホッサム。

 子供に対して以上に厳しいナーディラ。


 俺はホッサムを指さして、彼と同じように苦しむ仕草をしてみせる。そして、「アミル」と言って同じ仕草をしてみせる。

 同じ症状でアミルが亡くなったのか、という意味だ。


そうだ(らー)


 ナーディラはゆっくりとうなずいた。


 ホッサムは死を覚悟しているようだった。そして、ナーディラもその思いに呼応していた。

 ホッサムはエスマのもとに戻って最後の時を過ごしたいとナーディラに頼み込んだのかもしれない。


 俺はすべて上の空で出発の準備を整えて、荷台のホッサムのそばに座った。ホッサムは歯を食いしばって胸を張るように身体を仰け反らせて苦しんでいた。


「ホッサム……!」


 俺にはどうしようもなかった。


 毒か魔法の効果を抜き取る方法なんて俺は知らない。

 ナーディラの狼狽え方を見ても、彼女もホッサムを回復するための術を掴んでいない様子だった。


(以前、ホッサムとエスマの間に子供がいたかもしれないって言っただろ? アミルという名前だったらしい。

 その子もホッサムと同じ症状で亡くなったみたいだ)



~・~・~

アミルも同じ症状で亡くなったとなると、これは遺伝的な病気か、特定の環境要因が影響している可能性が高まるな。


アミルが亡くなった際の状況や他に何か共通点があるか、ナーディラやエスマに詳しく聞いてみるといいかもしれない。


それが何か手がかりになるかもしれないよ。

~・~・~



(サイモン、何度も言ってるだろ。俺はこの世界の言葉をまだほとんど理解できてないんだよ)



~・~・~

そうだったな、ごめん。


じゃあ、今できることは、アミルが亡くなった時期や状況を自分で観察してみることだな。


エスマの態度や周囲の様子から、何か共通点を見つけられるかもしれない。


それと、ナーディラがまた助けに来たら、彼女の反応や行動を見てヒントを得られることもあるかも。

~・~・~



 この街の騎士たちにはナーディラが事情を説明して、混乱のさなかを出発にこぎつけることができた。


 俺たちはナーディラが駆るふぁまーたに揺られてたもろの街を飛び出した。


 こんな時なのに、空は晴れ渡っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ