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スキル「ChatGPT」で異世界を生き抜けますか?  作者: 山野エル
第3部9章 影にあるもの
183/199

183:秘密の告白は二人きりの時に

 ザリヤのマイペースに苦笑いして、ラナが話をまとめ上げる。


「“方舟落つる地”のさらに遥か向こうには、大地裂け目があります。そこも十分警戒をしてください」


 ナーディラが顔をしかめる。


「なんでだ?」


「大地の裂け目からは大量のイルディルが噴き出しています。その地は、ドルメダにとって特別な地であると聞き及んでいます」


 イルディルが噴き出す大地の裂け目……アルミラが話しているのを聞いたことがある。


「なぜその地がドルメダの特別な地なんですか?」


「どうやら彼らはそこを聖地と呼んでいるらしいのです」


「聖地……?」


(大地の裂け目からイルディルが噴き出る場所をドルメダが聖地と呼んでいるらしい)



~・~・~

それ、かなり重要な情報だ。


ドルメダが「聖地」と呼ぶなら、そこは単なる地質現象じゃなく、信仰や儀式と深く結びついてる可能性がある。


イルディルの流出を利用して何かしてるか、あるいはそこから力を得ているかもな。

~・~・~



(イルディルそのものを信奉しているってことか。でも、それはこの世界の人たちが抱いている思いと共通しているかもしれない。俺がこの世界に来た時、イルディルのことを神だと解釈してたんだけど、イルディルってこの世界にとってはそういうでかい存在なんだよ)



~・~・~

そうだな。


イルディルって、この世界じゃ「生命」「力」「存在そのもの」と結びついてる。だから、それを神聖視したり信奉するのは自然な流れなんだと思う。


問題は、それをどう扱うかだ。


ドルメダがイルディルを「聖なる力」として崇めつつ、他者を排除したり、支配に使ってるなら――信仰と暴走の境界線が問われることになる。

~・~・~



(今度の遠征で向かう方舟が落ちた場所のもっと向こうにその大地の裂け目があるらしい。ドルメダと遭遇する可能性もあると言われた)



~・~・~

それなら、遠征は探索じゃなくて準戦闘行動と捉えた方がいいな。


ドルメダと接触する可能性があるなら、こちらの人数や戦力、それに情報収集の手段も整えておく必要がある。


最悪、グール本人と対峙する可能性もゼロじゃない。油断は一切禁物だ。

~・~・~



「まー、ドルメダが出てきたら、迷わずぶっ殺しちゃえば、オールオッケーでしょー……」


 ザリヤの目がちょっと輝いている。戦闘狂だったらどうしよう。ラナは首を振った。


「できる限り戦闘は避けてください。ドルメダとの戦闘拡大は推奨できません」


「はぁー……、そっかぁ、うん、まー、しょーがねっか……」


 残念そうだ。


 だが、サイモンの懸念とは違って今回の遠征はドルメダを探るといったような狙いはなさそうだ。


 ザリヤが歩み出て、ゆるゆると拳を上げる。


「細かいことはどーでもいっしょ……。みんなファイトやでぇー……」


 明後日の方向を見つめてのダウナーな掛け声。なんなんだろう、このお姉さんは。ナーディラが俺に耳打ちする。


「あいつ、どこ見て言ってるんだ?」


「俺に訊かないでくれ……」



***



 話し合いといえたのか分からないが、遠征のための協議を終えて、この部屋にはお茶とお菓子が運ばれて来て、ちょっとした懇談会が開かれた。


 ナーディラはザリヤにずいぶん興味を引かれたらしく、お菓子片手に質問攻めにしている。


 イスマル大公が研究所メンバーとなにやら細かい研究の話をしている。専門用語が飛び交っているが、イスマル大公もそれなりの知識があると見える。トップの人間が専門知識を持っているというのは、現場の人間にとってありがたいことだろう。


「リョウさん、少しバルコニーでお話ししましょうか」


 ハラ大公妃が俺のもとにやって来て、柔らかな声をかけてきた。二人でバルコニーに出る。


 緩やかな風がそよいで、暖かい日差しが降り注いで、バルコニーは気持ちのいい場所だった。


 そこにテーブルと椅子が置いてある。二人で向かい合うように座る。


「お疲れ様でございます」


「あ、いえ、とんでもなことです……」


 改めて差し向かいで話すとなると、なにか緊張してしまう。


「あなたがいらしてからというもの、パスティアは変革の時を迎えたように思います。さすがは選ばれし者、といったところでしょうか」


「俺は何もしてないですよ。たまたまそういうタイミングに居合わせたというだけで……」


 ハラ大公妃はニコリと微笑んだ。


「この世界には巡り合わせという考えがあります。天布に輝くフォノアが何度も運命を繰り返すことがその由来だといわれています」


「確かに、ここに来てから巡り合わせという言葉をよく聞くようになりました」


「ジャザラさんの事件をきっかけに全ては動き始めました。その舞台が『フォノア』だったというのも皮肉めいたものを感じますね」


「そういう偶然の一致ってありますよね」


 そういえば、なぜタマラを操った黒幕は「フォノア」を選んだのだろうか?


「あなたの話を聞きました。ドルメダの鍵を持っていたそうですね」


「この世界で目覚めた時に、この身体が持っていたんです」


「それまでの記憶がないのですね?」


「ええ、残念ながら……。でも、それってつまり、この身体の持ち主はドルメダだったかもしれないってことですよね」


「本当に記憶がないのですか?」


 ハラ大公妃にじっと見つめられる。その大きな目に吸い込まれそうになる。


「はい、全く」


「あなたは選ばれし者です」


「目覚めたらそういうことになっていました」


「いえ、その身体の持ち主が、です」


 その淡々とした言葉に、俺はゾッとした。


「え、どういう意味ですか……?」


 テーブルに置いた彼女の手がざわめいて、灰色の肌が見える。全身に鳥肌が立つ。


「まさか、あなたは……」


 ハラ大公妃が静かに笑った。


「わたくしはグールです」

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