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スキル「ChatGPT」で異世界を生き抜けますか?  作者: 山野エル
第3部9章 影にあるもの
182/199

182:ダウナーお姉さん

 ハラ大公妃のあとについて別室に向かうと、そこにラナが待っていた。


「ラナさん、お久しぶりです!」


「ごきげんよう。リョウさん、ナーディラさん」


 眼鏡をかけた壮麗な姿が蘇っている。顔色も良くなり、元気そうだ。


 あの執法判断以来、彼女には会っていなかったが、執法院の管理下を離れて職務に復帰したとは聞いていた。


 部屋にはラナをはじめ、魔法・精霊術研究所で見かける顔や黒い出で立ちの騎士が一人所在なげに立っていた。心ここにあらずといった様子の水色の長髪の女性だった。大人びた雰囲気のある、しかし、どこか儚げな人だ。


「なんだ、今度の遠征はラナが関わってるのか?」


 椅子に腰かけながらナーディラが問いかけると、ラナはうなずいた。


「わたくしはプロジェクトの長という形ですけれども」


「釈放されたばかりなのに大変だな」


「いえ……。プロジェクトの話をする前に、お二人には御礼を申し上げなければなりません。この度はご尽力くださり、感謝の念に堪えません」


 ラナは胸に手を当てて深々と頭を下げた。俺は複雑な気持ちだ。


「でも、タマラさんが……、という思いはずっとあります」


「わたくしもショックを受けました。ずっとお優しい方でしたから。何者かによる手引きがあったということだけは、まだ救いなのかもしれません」


 そうなのかもしれない。今回の事件はタマラの自発的な動機によるものではない。ラナとしては、タマラが操られていたと思うことで心のやり場を見つけたのだろう。


 イスマル大公は研究所のみんなに手を伸ばした。


「今回の遠征はね、魔法・精霊術研究所の管轄下で行ことになったんだよ。まずは、リョウたちが研究所所属だからってのもあるけど、実は研究所の方で長年、方舟時代の技術再現について研究が進められてきたってのが一番の理由かな」


「方舟が落ちた場所で調査を行うわけですね」


「そうそう。まあ、何回か調査はしてて、大したものは見つかってないんだけどさ、リョウは地球の人で、方舟も地球のものでしょ? だったら何か見つかるかもしれないっていうほのかな期待があるわけよ」


「めちゃくちゃ責任重大ですね……。でも、前にも言いましたけど、現代の地球の常識からすると、恒星間を移動する宇宙船なんてめちゃくちゃオカルトなんで、力になれるわか分かりませんよ」


 イスマル大公は笑う。


「でも、地球には魔法がなかったんでしょ? 今のリョウは魔法を使ってる。状況は変わってるわけだからさ、何か起こるかもしれないでしょ」


 イスマル大公が俺に期待を抱いているのは分かる。ルルーシュ家は方舟の出発点、つまり、地球に向かうことを悲願としているからだ。


 ラナがイスマル大公から話を引き取る。


「ですが、研究所も現在はプロジェクトが分散しております。グール捜索チームに優先的にリソースが割かれています。そういった事情もあり、今回の遠征では主に方舟時代の研究を行ってきたメンバーを選出させて頂きました。申し訳ございませんが、イマンやヌーラさん、アメナさんはグール捜索の方に配置させて頂いております」


「全然いいよ!」


 ナーディラが清々しい表情で言う。


 イスマル大公が補足を入れる。


「方舟が落ちた場所までは、ファマータで片道四日かかる計算なんだ。道中の危険も考えられる。そこで、君たちの護衛として特務騎士からザリヤちゃんをつけることにした。……ザリヤちゃん」


 イスマル大公が水色の髪の女性の方を向いて名前を呼んだが、彼女はボーッとしていた。


「おーい、ザリヤちゃん?」


「あー、ザリヤのことですか?」


「ザリヤちゃんは君しかいないでしょ」


「あー、うん、そういや、そっかぁ……」


 ナーディラが俺に耳打ちをする。


「あれが特務騎士かよ? 私でもぶっ倒せそうだぞ」


「すぐ喧嘩することを考えないの」


 ザリヤはゆったりとしたお辞儀をして、ゆったりとしたスピードで口を開いた。


「とりあえず、おねしゃーっす……。危ない奴がいたらザリヤがぜーんぶ、ぶっ殺しますんで……、えーと、そうだ、乱暴な口利いちゃダメって言われてたんだっけ……。お敵さんのお命引っこ抜きますんで……、しゃーっす……」


 なんてダウナーなお姉さんなんだろうか……。


 イスマル大公が微笑んでいる。


「ザリヤちゃんは序列第四位の特務騎士なんだよ。こう見えても強いから安心してね」


 序列第四位……急に少年漫画みたいな設定の子が現れたな……。


 そして、どうやら、彼女が遠征隊のリーダーらしい。パスティア周辺の地図を前にした彼女からの遠征計画はこうだ。


「んーと、えっと……、とりあえず、ここ、向かう感じで……」


 方舟が落ちた場所と思しき場所を指さす。ラナが覗き込んで眼鏡に指をかける。


「そこ……、ではありませんね。こちらです」


 彼女が指し示すのは、それよりも遥かに遠い場所だった。


「あー、間違えちったか……。さーせっすー……」


 ついにナーディラが天を仰ぐ。


「おいおい、こいつ大丈夫かよ?」


「まー、なんとかなるっしょー……」


「お前が言うなよ……」

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