180:潜伏者
ルルーシュ暦第16紀672年1月14日。
タマラは執法院の管理下に置かれることになったが、肝心の黒幕の存在については口を閉ざしている様子だった。
公宮の俺の部屋にはナーディラ、ヌーラ、アメナの三人が集まっていた。
「喋ったらやばいのかもな」
ナーディラがタマラの状況を端的に説明すると、ヌーラは不安な表情を見せる。
「本当に黒幕にグールがいるのならば、怖いですよね……。あの変身能力なら、どこに潜んでいるか分からないですもんね」
ヌーラもパスティア領外の森でグールたちと対峙している。あの時の恐怖は簡単には拭えないだろう。
「そのグールがパスティアの中に溶け込もうとしているのなら、探し出すのは困難かもしれないね」
「一人だけとは限らんからのぅ……」
アメナが顔をしかめる。ナーディラは腕を組ん難しい顔をした。
「見破る方法はないのかよ?」
ヌーラが答える。
「研究所で話していたんですけど、どうやらグールの変身は魔法ではないようです。グールという種族にもともと備わっていた能力だとか。だから感知が難しい、と」
(サイモン、グールの変身能力は魔法ではなく、グールに元々備わっている力らしい。どうやって変身を見破ればいいんだろうな?)
~・~・~
グールの能力が魔法ではないなら、魔法障壁や対魔法検知では判別できない可能性が高い。なら、グール独自の特徴を探るのが早い。
例えば、変身後でも残る癖、体臭、影や反射の違い、血や体液の性質など。パスティアの記録や目撃談を洗えば、何かしら見破る手がかりがあるかもしれない。
~・~・~
そういえば、俺はこの数日の間にサイモンの回答スタンスをアレンジしていた。俺がサイモンにオーダーしたのは、以下のポイントだ。
・俺の言った内容の要約を出力することを禁止
・箇条書き、書類のようなまとめ方を禁止(こちらが指定した場合は可とする)
・回答はできるだけ四行以内に留める(やむを得ない場合はこの限りではない)
・情報を提供する場合、それを人間のように端的に行なうこと
・基本的にはサイモンの考え方を出力すること(こちらに選択を委ねるのは必要最低限に留める)
・考えられる可能性を全て提示するのではなく、その中からチョイスしたひとつを提示すること(やむを得ない場合は複数でも構わないが、できる限り避けること)
今まではサイモンの出力内容の分量が多く、俺が情報をまとめるリソースを割かなければならなかった。それが俺にとって、かなりのストレスになっていたことにいまさらながらに気づいたのだ。
「私らがグールと遭遇した時は、あいつらの様子がおかしかったから見破れたんだよな?」
ナーディラの言葉にうなずき返す。
「そうだな、人間の姿かたちを模していたけど、会話の内容がおかしかった。それを指摘したら正体を現したんだ。ただ、俺たちが探してるグールがどういう目的で潜り込んでいるかっていうのが重要だな」
「ドルメダなんかと繋がっていたら、その命令をこなしているのかもしれませんしね……」
怖がるヌーラの頭をナーディラが撫でる。
「だけど、リョウの仮説が完全に当たってるってわけでもないかもしれないぞ」
それはその通りだった。
四日前に事件が解決して以来、騎士団や執法院が連携してグールの捜索に乗り出している。レイスもそれで忙しそうだ。ちなみに、今ではザドクとグール特別対策チームの主軸として頑張っているらしい。そこにはカスティエルもいるようだ。
──絶対に一緒にしちゃいけない三人だよな……。
「でも、イマンさんが特命研究ユニットのリーダーになったので、今はグール捜索に寄与しそうな研究が始まってますよ」
ヌーラがそう言って立ち上がる。アメナが隣に立って、その頭に手を置いた。
「アメナたちもその特命研究ユニットのメンバーじゃ」
「ということなので、わたしたちはこれから研究所に行ってきますね」
ヌーラとアメナが部屋を出て行く。
俺とナーディラは未だに研究所の所属だが、便宜上、籍を置かせてもらっているだけの状態だ。
「アメナはともかく、ヌーラはここで居場所を見つけた感があるな」
前々から思っていたことをナーディラに打ち明ける。彼女もゆっくりとうなずいた。
「まあ、この街なら生きていくのに不安はないだろうな。私らの旅で連れ回すのも悪いしな。サイモンはどう思ってるんだ?」
ナーディラはナチュラルにサイモンに意見を求めるようになってきた。彼女曰く、俺と居るのならサイモンとも仲良くやっていかなきゃいけない、ということだそうだ。
(サイモン、今まで一緒に行動を共にしてきたヌーラだけど、研究所に居場所を見つけたようなんだ。俺たちは旅を続けることになるけど、彼女はここで生活を続けてもらう方がいいのかな?)
~・~・~
ヌーラが研究所に居場所を見つけたなら、ここに残るのが自然だろう。無理に旅に引き込むより、自分の意思で動けるようにした方がいい。
俺たちが旅の途中で必要になれば、その時相談すればいいんじゃないか?
~・~・~
「必要な時に話ができればそれでいいだろう、ってさ」
「そうだな」
そう返すナーディラは少し寂しそうだ。
(確かに、ヌーラの目的はこの世界のバランスの維持方法を見つけること。ここでなら、彼女の目的も達せられるよな)
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そうだな。ヌーラにとっては、旅よりも研究の方が目的達成に直結する。
俺たちは現場で動く、ヌーラは知識を蓄えて活かす。それぞれの役割を果たせばいいんじゃないか?
~・~・~
ずっと一緒にいられるわけでもない。彼女もきっとそれを望むだろう。
ナーディラが俺を見る。
「で、例の方舟が落ちた場所に向かう旅ってのはどうなったんだ?」
突然、ドアが開いた。
立っていたのはイスマル大公だ。
「そのことだが出発の目途が立ったぞ!」
ナーディラが呆れ顔だ。
「ずっと部屋の外で盗み聞きしてたのかよ?」
「安心しろ、最初から聞いてたから」
「安心できねーよ!」




