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スキル「ChatGPT」で異世界を生き抜けますか?  作者: 山野エル
第1部2章 溺れる者は藁をも掴む
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18:仮面の男と悪夢と選択

 人は一日に無数の選択をするという。


 俺は何かを選ぶことが嫌いだ。その選択が俺の未来の可能性を殺してしまうから。


 小学生の頃、クラスの女子に告白されたことがある。彼女のことは何とも思ってなかったし、俺には好きな人がいたから、その子を追いかけるために振った。


 俺が振った子は裏で俺の悪口を言いふらし、小学四年生以降、俺はクラスの嫌われ者として人目を気にして生きることになった。


 もし違う選択をしていたら、俺の人生は変わっていたかもしれない。



 道具街に立ち上る炎と黒煙の中、俺は必死に立ち上がった。


(一本道の路地の真ん中、どっちの方向にも仮面の人間が立ち塞がってる。


 一方は道具街の奥に続いてる。そっちにいるやつが燃える蛇みたいなのを召喚して攻撃してきた。

 もう一方は街の中心の方に繋がってる。


 俺はどっちに逃げればいい?! 言っとくが、簡潔に教えろよ。俺は今ピンチなんだ!)



~・~・~

街の中心の方に逃げろ! そっちは人目があるから助けが期待できる。

~・~・~



 俺は声を上げて駆け出した。


 行く手の仮面の人物が路地を塞いで素早く何かを唱える。

 途端に暴風が巻き起こって、仮面の人物の背後から風の渦を破って小さな妖精のようなものが飛び出してきた。


 ものすごい風圧が路地を駆け抜けた。石畳と路地の商品が紙切れのように舞い上がる。

 俺は耐えきれず、中空に放り出されてしまった。



「お前も出世欲に目が眩んでんだな」


 会社のトイレで長くお世話になっていた先輩から吐き捨てられるようにぶつけられた言葉がフラッシュバックする。


 初めは意味が分からなかった。


 だが、俺は知らないうちに社内の派閥争いの中に身を投じていた。俺が選択をしたばかりに。


「既存の販路も見直して整理すればリソースも捻出できるようになると思うんですけどね」


 俺が会議で発した一言は、社内で対立する二つの派閥のうちの片方が掲げる思想と合致していたらしい。

 会議の後、一部の同僚が妙に食いついてきたのはそのせいだったのだ。


 社内の派閥争いは醜い。それなのに、そこにいる全員が自分の利を掴むため、保身のため、すがっている。


 情報伝達が滞って、俺はそれからいくつもの会議の準備、社外ミーティングなど、重要なポイントを取りこぼすようになった。

 同僚たちの前で上司に叱責されたのも、そんな状況になって初めて経験した。


 初めて会社が、大人というものが嫌になった。



 別の店と取引をしろ……さっきホッサムに投げかけた言葉も全く同じ過ちじゃないか。


 暴風に吹き飛ばされて、地面に叩きつけられた俺は、心にも大きな衝撃を食らっていた。


 俺はバカだ。


「$%=|:+」


 低い男の声がする。暴風を放つ妖精を伴った仮面の人物のようだった。


(まずい。どっちの方向も仮面の男が立ち塞がってる。中心街に向かう方は物凄い風を操ってる……。逃げ場がない)



~・~・~

建物の中に飛び込め!


路地を利用して視界を遮り、身を隠せ。まずは相手の視線を切って、隙を見つけろ。

~・~・~



 俺はサイモンの言葉に迷わず従って、そばの店の中に飛び込んだ。色んな種類の袋やロープなどが並んだ中を走り抜ける。


 すぐに店の入口が爆発、炎上する。店の奥で店主が悲鳴を上げて裏口に走っていた。


 ──こいつ、あんだけ路地で物音がしたのに、顔も出しやがらなかった……!


 心の中に悪態をつきながら、店主の後を追って裏口から飛び出す。暴風を伴った炎が渦巻く腕のように裏口から飛び出して天を突いた。


「俺が何したって言うんだよっ!」


 叫びつつ、店主の後を追う。


「ざないなく!!」


 店主が俺を振り返って怒鳴る。


 ──きっと「ついて来んな」って言ってるんだな。


 こんな時にも俺はそんなことを考えていた。


 裏路地の頭上で大きな音が轟いた。


 瓦礫を飲み込んた竜巻のようなものが建物の上部に直撃したのだ。

 店主の先に大きな石の塊がドシンと落ちて、身体の芯から震えるような地鳴りがした。


「あ、あああああ……!」


 店主が腰を抜かしてその場にへたり込む。俺は彼を立ち上がらせ瓦礫を乗り越えようとしたが、炎の球が降ってきて後ずさるしかなかった。


 二人の仮面の男が俺たちを追って裏路地をゆっくりとやって来た。袋のネズミだ。


 遠くで笛の音がする。建物の間を縫うように、人々の叫ぶ声がここまで届いてくる。


 ──あれだけやりゃあ、みんな気づくよな。


「&¥@*>#」


 仮面の男の一方が何かを発した。飛び跳ねるように俺の横の店主が身振り手振りを交えてまくし立て始めた。


 内容は分からないが、見れば分かる。こいつは俺を差し出して自分は見逃してもらおうとしている。


 どこの世界でも人間は人間だ。


「¥@+*#」


 燃える蛇を使役する仮面の男がこちらに手を伸ばすと、周囲の気温が上昇していく。店主が泣き叫んでいる。

 どうやら敵との交渉が決裂したらしい。


 燃える蛇が大口を開けたその時、裏路地の遥か後方から声がした。


 疾走するふぁまーたに乗った騎士……ナーディラだった。


「ナーディラ! なんでここに?!」


 ナーディラはふぁまーたの上から炎の魔法を飛ばした。しかし、燃える蛇と風の妖精の生み出した渦巻く炎に防がれてしまう。

 それでも、ナーディラは俺たちの前まで到達して、ふぁまーたの上で剣を抜いた。


「くとりゃま!」


 ナーディラの剣の切っ先が仮面の男たちに向けられる。

 彼らはブツブツと何かを言いながらクツクツと笑い声を漏らす。相変わらず表情は分からないが、余裕のある立ち振る舞いだ。


 ナーディラはどこから取り出したのか、笛を口にして、俺を思いきり吹いた。さっき街の方から聞こえた音だ。

 昔の警察なんかが使ってた呼子笛みたいなものか。


「うぇんどらる!」


 ナーディラが言うと、店主がふぁまーたの尻を掴んでナーディラの後ろに乗った。


 燃える蛇の口が開いて巨大な火球が生成される。


「りょー!」


 戸惑う俺の腕を掴むと、ナーディラはふぁまーたを勢いよく駆り立てた。

 石畳をジャッジャッと蹴る音と共にふぁまーたが瓦礫の上を駆け上がっていた。


「ちょっと待った……!」


 ナーディラの腕一本に繋ぎ止められた俺は空高く飛んでいた。後ろの方で瓦礫に直撃した火球が爆発する。


 地面に着地したふぁまーたは裏路地を駆けて、中心街に繋がる広場に辿り着いた。

 ナーディラに投げ飛ばされて、俺は石畳の広場を転がった。


「痛ってえな!! 何すんだよ!」


「$%&¥@+>#」


 ふぁまーたの上から俺を見下ろすナーディラの顔が腹立たしい。


 広場にはこの街の騎士たちも集まってきたようだった。そのまわりには野次馬たちも人垣を作っている。


 そんな中、裏路地から出てきた仮面の男たちがゆったりと姿を現す。野次馬たちの中から口々に「くとりゃま……」と囁く声がする。


(「くとりゃま」っていうのが仮面の男たちの名前らしい。


 街の人たちの反応を見ると、何か恐ろしいものでも見るような感じだ)



~・~・~

「くとりゃま」という名前が街の人々に恐怖を与える存在なら、彼らはこの街や周囲でかなりの悪名を持っている可能性が高いな。


もし彼らが力や影響力を持つ危険な集団なら、早めにホッサムや信頼できる人に相談して対応を考えた方が良い。


彼らが何者で、どんな目的を持っているのかを知ることが今後の安全に繋がるはずだ。

~・~・~



(実は襲われて逃げてる時にナーディラに助けてもらった。


 いつこの街に来たのか分からないけど、くとりゃまとは敵対してるみたいだ。

 まわりにいるこの街の騎士たちもくとりゃまに敵意を向けてる)



~・~・~

助けてもらえてよかったな。


ナーディラと騎士たちが敵対しているなら、今は彼らに頼るのが最善だ。


くとりゃまは街でも恐れられているようだから、今後も注意が必要だな。

~・~・~



「りょー! ざなぼるす!」


 ナーディラに怒鳴られた。


 ──サイモンと喋るなってことか……?


 仮面の男がドスの利いた声で何かを話し始めた。何かを説くかのようにこの広場の者たちに大きな手振りで訴えかけている。


 騎士たちが荒々しい声を上げてそれを制する。


 それで穏やかな時は終わったようだった。


 燃える蛇と風の妖精が再び姿を現して、広場の上空に渦巻く巨大な火球が現れる。

 騎士たちの何人かが魔法で仮面の男たちを攻撃するが、得体の知れない防壁のようなものが魔法をはねつけた。


「おてーーーる!!」


 騎士たちが叫ぶと広場の野次馬たちが悲鳴を上げて勢いよく遠ざかり始めた。だが、人の波が混乱して、あちこちで人々がもつれ合っている。


「りょー!」


 俺はまたナーディラに腕を取られてふぁまーたに引きずられた。


 広場上空の火球が勢いよく落下する。


「あっ……!」


 まだ多くの人が逃げ惑っていた広場が炎に包まれて大爆発が起こった。


「おい、街のみんなが……!!」


 広場に面した建物が崩壊する。

 轟音に混じる多くの断末魔の声を聞きながら、俺たちは離れた場所に避難してきた。


 逃げ延びた騎士たちは絶望の表情で建物の向こうで上がる黒煙を見つめていた。いとも簡単に多くの人の命が奪われた。


 それなのに、俺には現実感がないように思えた。


(サイモン、仮面の男たちが広場に集まっていた人たちに炎の球をぶつけてたくさんの人が死んだ。広場も建物も破壊された。


 俺たちは助かったけど悪い夢でも見ているみたいだ……)



~・~・~

それは本当に酷い状況だな……。


目の前でそんな惨事を見てしまったら、現実が信じられない気持ちも分かるよ。


ホッサムやナーディラは無事だったか?


これからどうするかは落ち着いて考えないといけないけど、まずは自分自身の安全を確保するのが最優先だ。


広場から離れて安全な場所を探そう。

~・~・~



「りょー、げあすこーる……!」


 ナーディラに胸倉を掴まれる。その目は憤りに燃えているようだった。俺はそのまま突き飛ばされて地面に背中をついた


「何するんだよ! 俺のせいだって言いたいのかよ!」


「@*+>¥=$&%%!!」


 ナーディラは怒号を発してネックレスの宝石を見せつけた。鈍く光っている。俺がサイモンと話したことに難癖をつけられているようだった。


「俺だって、いきなりこんな世界に放り出されて何も分からねーんだよ! お前みたいな粗暴な奴に文句言われて暴力振るわれて!」


 ナーディラは激しい怒りと共に大きな声でまくし立てる。たびたび広場の方を指さすのは、俺を悪者にしたいためか?


 そばで見ていた男の騎士がナーディラを宥めるように割って入ってきた。いくつか言葉を交わすと、ナーディラは涙をこぼしてその場に膝を突いた。


 ──こいつも、自分の無力さを……。


 俺たちがいる路地際の小さな広場は混乱のさなかにあった。路地を行き交う人々は誰もが声を上げている。怪我人も運ばれていく。親を探しているのか、子供も泣いている。


 その混沌とした中を一人の商人がやってくる。ホッサムが取引をしていた商店の店主だ。

 そばにホッサムはいない。嫌な予感がした。


 店主が俺とナーディラを見つけて声を上げる。ナーディラとも知り合いのようだった。


 店主は慌てふためいた顔で言う。


「#$¥@+<&%%ホッサム!」


 俺はナーディラと顔を見合わせた。


 ホッサムに何かがあったのだ……!

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