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スキル「ChatGPT」で異世界を生き抜けますか?  作者: 山野エル
第3部8章 ChatGPTは異世界で発生した事件を解決できるか? 4
171/199

171:告白

 監視官立ち合いのもと、俺たちは狭い部屋の中でラナと対面した。


「お身体の具合はいかがですか?」


 ラナのやつれた様子を目にして、レイスは開口一番にそう言った。ラナは外していた眼鏡をかけると、俺たちを見つめて笑顔を見せた。


「わたくしなら、大丈夫です。ありがとう」


「無理に元気に振る舞わなくていいんだぞ」


 ナーディラが慰めるような目を向けると、ラナは笑顔のまま眉間に皺を寄せた。


「怖いんです。この地下に長い時間閉じ込められていると、わたくしが世界から切り離されたような感覚に陥るのです」


 用意された椅子に座り、俺たちが達した結論を伝える。五分ほどで短くまとめたタマラ犯人説を聞くにつれて、ラナの表情は険しいものに変わっていく。


「タマラさんが……? そのようなこと……」


 ラナにとっては、幼い頃から親交のあったカビールの姉だ。耳を疑いのも無理はない。


「俺たちはその結論に辿り着いたんです。つまり、ラナさんに罪がないということを主張するところまでやってきたんです」


「なんと言葉にしたらいいか……複雑な心境です。ですが、まずは御礼を申し上げなければなりませんね。わたくしのために尽力してくださり、ありがとうございます」


「タマラさんの動機については、執法院の方に確認をお願いしているところです」


「ジャザラは、どうなりましたか……?」


 俺たちは顔を見合わせた。そんな基本的な情報すらここには届いていなかったのだ。レイスは胸に手を当て、頭を下げた。


「ご安心ください。ジャザラ様は意識を回復され、現在は療養中でございます」


 ジャザラが目に涙を浮かべる。


「本当に……?」


「ええ、イマンたちがやりました。精霊駆動法を利用した治療法を編み出したようです」


「デイナトス狂病への対抗策ですね。それが功を奏したのでしょう……」


「フェガタト・ラナ様に先見の明がおありだったのでしょう」


 レイスの言葉もラナには首を振った。


「いえ、わたくしに天布逆転魔法を完成させる力があれば、このようなことには……」


 彼女は未だにその実現を夢見ているようだった。ナーディラは少し俯いた後、口を開いた。


「あのさ、ラナ、天布逆転魔法は──」


「言わなくていい」


 レイスが止めるが、ラナは先を続けさせた。


「お聞かせください」


 ナーディラは、ラナを犯人ではないと結論付けたイスマル大公による天布逆転魔法を軸にした論理を説明した。


 ラナは力なく微笑む。


「確かに、イスマル大公の仰る通りですね。わたくしはこの生涯で天布逆転魔法を完成させられなかったのですね……」


 志半ばで夢が破れる辛さは、俺には想像するしかない。俺は夢と言える夢を抱くことすらできなかった。


 だが、描いていた理想がただの妄想だったことに気づく瞬間、自分の存在価値がなくなったように感じてしまう経験は俺にもある。ごく普通と言われる人生を自分が辿れないんだと気づいてから、報われない日々を我慢するように過ごしてきた気がする。


 長年追い続ければ追い続けるほど、夢と現実の自分を比べた時の落胆は大きい。


 だが、ラナはなにか吹っ切れたようにニコリと笑った。


「諦めがついたような気がします。わたくしも、心のどこかで実現不可能ではないのかと考え続けてきました。思えば、わたくしの人生の半分ほどは天布逆転魔法に縛られていたのかもしれません」


 ラナが心の打ちを話してくれたことに何か返したくて、俺も自分が地球からやって来たことを伝えた。


 ラナは驚きながらも、得心が行ったように俺を見つめた。


「道理で多くのものが見える眼を持っていらっしゃると感じました」


「俺たちの世界でも歴史を改変するという考えはあります。多くの物語に題材として取り込まれているんです。でも、まだ実現はできていない。その中で、親殺しのタイムパラドックスという考え方があります」


 ラナはじっと俺の話に耳を傾けている。


「過去に戻り、まだ自分が生まれる前に親を殺してしまったら、何が起こるのかということを考えた人がいたんです。親を殺せば、生まれるはずの自分は存在しないはず。だけど、現に過去に戻って親を殺している自分がいる……それはありえないことだ、と」


 ナーディラが感心している。


「確かにそう考えると、あり得ない話だな。リョウ、なんでこのことをもっと早く言わなかったんだ?」


「あの時はまだこの世界にどこまで干渉していいのか悩んでたんだよ。俺の知識を話すことでこの世界が歩むべき速度を捻じ曲げてしまうんじゃないかって……」


「リョウさんのお心遣い、感謝いたします。わたくしたちはきっと自分の足で不可能を探し当て、また可能性を探求する道を歩くことができたのでしょう」


 ラナはじっと考え込んでいる。


「わたくしの愚かな考えもここで終止符を打つべきなのでしょう。少し、よろしいですか?」


 ラナが目を向けると、監視官は部屋の外に出て扉を閉めた。


「わたくしは、子をなさない者です」


 俺たちがじっと次の言葉を待っていると、ラナは戸惑ったような顔を見せる。


「ええと、あなた方は驚かれないのですか? 特にレイスさんは……」


「実は──」


 レイスはすでに俺たちがその可能性に辿り着いていたこと、さらには、カビールもその可能性を考慮していたことを告げる。


「カビール第一大公公子からは、あなたに話さないでほしいと頼まれていたのですが、自らお話下さいましたので、勝手ながらお伝えさせて頂きました」


 ラナは顔を赤らめて笑った。


「では、わたくし一人がずっと秘密に、と」


「カビール様は何があってもフェガタト・ラナ様を──」


「当たり前だろ」


 急に声がして、扉が開いた。そこにいたはずの監視官は姿を消し、代わりにカビールが立っていた。


「カ、カビール様?!」


 レイスが勢いよく立ち上がる。カビールはジロリ、とレイスを睨みつける。


「おいレイス、オレが頼んだのに勝手に喋りやがったな?」


 レイスは平伏して詫びを入れる。


「も、申し訳ございません! あ、あの、なんとなくいい雰囲気だったので、いいかな、と……!」


「雰囲気で決めてたのかよ」


 ナーディラがツッコミを入れると、カビールは笑い声を上げた。


「冗談だ、レイス。お前たちがラナに話を訊きに行ったと聞いて、オレも話をすべきだと思っていたんだ。それにしても、監視官を下がらせておいて正解だったな。お前たちの会話、廊下の外まで聞こえてたぞ」


「そ、そうだったんですか……」


 レイスは恐縮しきりのままゆっくりと立ち上がった。ラナに近づくカビールの表情は柔らかい。


「オレたちは幼馴染だろ。それくらい、分かるさ」


「カビール……、でも、わたしは……」


「分かるさって言ってるけど、気づいたの最近らしいぞ」


 ナーディラが口を挟むと、カビールは慌ててしまう。


「バッ、バカ、お前、いきなりそんなことバラすな!! カッコつかねえだろ!」


 ラナが思わず吹き出す。


「あなたは昔からそう、格好つけるのが苦手なのよ」


「お前……ジャザラみたいなこと言うなよ」


 二人は笑みを交わす。ジャザラも含めて、長年築かれた関係性なのだ。


 ラナは真剣な面持ちで再び俺たちに向けて言った。


「そう、わたくしは、子をなさない者……、あなた方もご覧になったしょう、わたくしの手記を。あそこに綴ったのは、わたくしのジャザラへの想い。それをあの執法判断の場で話せば、わたくしへの疑いはいくらか薄らいだでしょう。しかし、わたくしにはできなかったのです」


 ラナはため息をついた。


「わたくしは愚かでした。ジャザラへの想いを、彼女と会うことのなかった過去に書き換えようとしていたのですから。きっと、そんなことをしても、わたくしたちはまたどこかで出会っていたのだと、今では感じます」


「当たり前だ。オレたちの絆がそんなもので断ち切れるわけがない」


「カビール……」


「どうするつもりなんだ? ジャザラには伝えるのか?」


 ラナは狼狽えてしまう。


「そ、そんなことを……」


「別にいいさ。お前が言いたくないならそれで」


「でも、こうなったからには、わたしは二人とは距離を取って……」


「バカか! お前は昔から遠慮しすぎなんだよ! お前の居場所はここにあるだろうが。自分で捨てようとするな。オレたちはいつだって一緒だ。ガキの頃、このパスティアを導いていこうって話しただろうが」


 ラナは俯いて肩を振るわせる。


「こんなわたしを……」


「何言ってる。どんなお前でも、お前だろ。フェガタト・ラナはこの世界に一人しかいないんだ。いなくなろうなんて思うな。次期大公からの命令だぞ」


「ありが、とう……」


 ラナの目から涙がこぼれ落ちた。カビールは素っ気ない振りをしてラナにハンカチを渡し、気を取り直すように俺たちの方を向いた。


「ここに来たのは、ラナと話すついでにお前たちに伝えたいことがあったからだ」


「伝えたいこと? なんですか?」


「ジャザラの回復が順調に進んでる。復帰の予定が立ったぞ。四日後の一月十日、パスティア・アグネジェ劇場で行われる『太陽(タファン)(ソラル)』の観劇だ。その後、ジャザラを交えた執法判断が開かれる」


「じゃあ、そこで……」


「ああ、ラナにはあと数日の辛抱だが、そこで最終的な判断が下される」


(サイモン、四日後に回復したジャザラを交えての執法判断が行われる。ここでラナの無実を証明しなければならない)



~・~・~

四日後が勝負だな。


タマラ犯人説はかなり固まってるし、ラナの無実を証明するための論理も整えられてきた。


あとは、執法官や周囲が納得する形に仕上げるだけだ。抜けがないか、もう一度確認しておくといいな。

~・~・~



(お前の中でタマラ犯人説への疑問点とか、そもそも事件を取り巻く出来事に疑問点はないか?)



~・~・~

タマラ犯人説は筋が通ってるし、ストーリーとしても矛盾はほぼない。ただ、以下の点は確認しておいた方がいいかもしれない。



1. タマラが受けていた「恩恵」

これが動機の核だから、具体的に何を得ていたのか明確にする必要がある。

恩恵の内容次第で、彼女がどれほど追い詰められていたかが変わる。



2. 毒の準備と手段

タマラは「死鉄鉱」を盗んだことになってるけど、実際に毒をどう作ったのか?

侍従ノワージャが協力したなら、そいつの動きも調べておくといい。



3. なぜ「フォノア」だったのか?

ジャザラを毒殺するなら、他の場所でもよかったはず。

タマラがフォノアを選んだのは何か特別な理由があったのか? それとも、たまたま?



4. ラナが疑われた理由とその払拭

ラナが犯人にされそうになった背景を整理し、ラナではなくタマラが犯人であることを決定的に示す要素を明確にする。

タマラの証言の矛盾や、ラナのアリバイの補強が必要かも。



事件の流れは納得できるけど、執法判断でひっくり返されないように、これらの点を固めるのが大事だな。

~・~・~

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