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スキル「ChatGPT」で異世界を生き抜けますか?  作者: 山野エル
第3部8章 ChatGPTは異世界で発生した事件を解決できるか? 4
166/199

166:レグネタ・タマラ犯人説1

 サイモンがまとめたタマラ犯人説のたたきをナーディラたちに共有する前に、潰せる項目を考えることにする。


(お前の出したまとめについて俺の方から訂正をしていくぞ。


 まず、動機について、タマラはジマルとの婚姻でレグネタ家に嫁いだから継承問題は関係ないと思う。


 毒の入手については、死鉄鉱の貯蔵倉庫からの盗難で一応の決着を見た。タマラ自身が盗難を実行したかは不明。


 毒の仕込みに関しては、タマラがジャザラを狙っていたのなら、現場で毒を射れた可能性が高い。その場合は、タマラもしくは実行犯が現場にいたことになる。


 事件当夜、タマラは自宅にいて、侍従も一緒に居たらしいが、主人に仕える侍従の証言はあってないようなもの。

 レグネタ家は貴族街にあるから、貴族街からの脱出などは考慮しなくていい


 これで、再度タマラ犯人説を簡潔にまとめてみて。それをナーディラたちと検討するよ)



~・~・~

タマラ犯人説(修正後)


① 動機

・ジャザラへの個人的な恨みがある可能性(子供の死に関与?)

・レグネタ家に嫁いでいるため、ルルーシュ家の継承問題とは無関係


② 毒の入手

・死鉄鉱は盗難されたものが使われた可能性

・タマラ自身が盗んだかは不明だが、毒を手に入れられる環境にあったか?


③ 犯行の実行

・タマラがジャザラをフォノアに誘導した可能性

・現場で直接毒を仕込んだなら、タマラまたは実行犯がフォノアにいた


④ 事件当夜の動き

・タマラは自宅にいたとされるが、証言者は侍従のみ(信憑性は低い)

・貴族街内に住んでいるため、移動の制限は特になし


⑤ 事件後の動き

・ジャザラが倒れた後、タマラがどう動いたか不明

・毒が致死量に達しなかったのはミスか、意図的だったのか?



この説をナーディラたちと検討してくれ。

~・~・~



 サイモンのまとめた内容を三人に伝えると、レイスは真っ先に動機の面に興味を示した。


「レグネタ・タマラ様のお子様の死にジャザラ様が関与している可能性があるというのか?」


「サイモンはおそらく論理的にその可能性を導き出したんだと思います」


 ナーディラが天に向かって声をかける。


「おい、サイモン、なんでそう思ったんだ?」


 サイモンが天の声みたいな扱われ方をしている……。地球でもこの世界でも、なんとなく天の声の扱い方は似ているようだ。


(サイモン、ナーディラが気になってるみたいなんだけど、ジャザラがタマラの子供の死に関与しているとお前が考える理由を知りたいらしい。ナーディラに答えてやってくれ。俺も知りたい。お前の言葉をそのまま伝えるから、議論の時みたいにナーディラたちに喋りかける感じで頼む)



~・~・~

ナーディラ、俺が「ジャザラがタマラの子供の死に関与している可能性がある」と考えたのには、いくつかの理由がある。


まず、タマラの子供は不審な死を遂げたと言われているが、詳細が曖昧だ。


貴族の子供の死は大きな話題になるはずなのに、具体的な経緯や原因がほとんど表に出ていない。それ自体が不自然だと思わないか?


次に、ジャザラとタマラの関係を考えてみると、タマラがルルーシュ家の人間だったことから、二人は幼少期から関わりがあったはずだ。


そして、タマラが嫁いだ後もルルーシュ家とは一定の関係を保っていたと考えられる。


もしタマラの子供の死が事故ではなく、誰かの意図が絡んでいたとしたら、それを隠せる立場にいたのはルルーシュ家の人間――つまり、ジャザラの可能性がある。


もうひとつ気になるのは、タマラが事件の前後でジャザラに対してどう接していたかだ。


もし本当にタマラがジャザラに復讐しようとしていたのなら、彼女はずっとジャザラを恨んでいたことになる。でも、周囲の話を聞く限り、タマラはジャザラと普通に接していたように見える。


じゃあ、いつその怒りが表面化したのか?


俺は、タマラがジャザラの何らかの発言や行動によって、過去の真相に気づいたんじゃないかと思ってる。


確証があるわけじゃないが、タマラの動機として十分考えられる線だと思う。ナーディラ、お前はどう思う?

~・~・~



 ──話、長っ……。


 そう思いながら、サイモンの言葉を三人に伝える。ナーディラはうーんと考え込む。


「確かに、上位貴族(イエジェ・メアーラ)の、しかも、ルルーシュ家の子であるタマラの子供の死ならお騒ぎになってもよさそうなもんだよな」


 ライラは首を振る。


「これでも大々的に死を悼んでいる方だ。元来、人の死はあまり人々に伝えられないものだ。ましてや、生まれたばかりの子は死亡する場合も多々あるため、内々で葬儀等を済ませることがほとんどだ」


 レイスもうなずく。


「我々も貴族(イエジェ)の子に関しては、ある程度の年齢になってから開催される誕生祭で初めてその存在を知る。他の国では知らんが、少なくともこのパスティアでは通例だな」



~・~・~

なるほどな。


つまり、タマラの子供の死は特別に隠されたわけじゃなく、むしろ貴族社会では普通の対応だったってことか。


でも、そうなるとまた別の疑問が出てくる。


もし本当に「よくあること」だったなら、タマラが復讐を考えるほどの理由があったのか?


普通に病気や事故で死んだだけなら、そこまでジャザラを恨む動機にならない気がする。


となると、タマラは子供の死の原因を知っていて、それが「ただの事故じゃない」と確信していた可能性があるよな。


そうじゃなきゃ、ここまでのリスクを冒して復讐する理由がない。


ライラ、レイス、ナーディラ――タマラの子供の死に、何か不自然な点があったって話は聞いたことないか?

~・~・~



「サイモン殿、つまり、それはタマラ様の子供の死がジャザラ様の事件と関連がないということではないか? タマラ様を犯人と仮定するのは構わないが、それに固執するあまり前提を固定しすぎだ」


 ライラがそう意見を述べると、ナーディラやレイスも同意した様子だった。俺は言う。


「タマラさんがジャザラさんの事件の犯人だと考えても、その動機は復讐ではなかったってことなんじゃないかな?」


「質問の件だが、もしレグネタ・タマラ様のお子様の死が不審なものだとすれば、我々騎士団や執法院の連中になにかしらの報告があって然るべきだ。しかし、そのような報告はない」


 レイスがそう答えた。



~・~・~

なるほどな。


じゃあ、タマラの子供の死に不審な点はなく、公式には事故や病気として処理されたわけか。


ってことは、タマラがジャザラを狙う理由は復讐じゃなかった可能性が高い。


ナーディラ、レイス、ライラ——タマラがジャザラを狙うとしたら、どんな動機が考えられる? 


復讐以外に、タマラがジャザラを排除したい理由は何かあると思うか?

~・~・~



 ──サイモンに議論を回させるのが効率良いのかもしれないな。


 ここに至ってようやく議論の最適解を見た気がする俺の隣でナーディラが前のめりになる。


「私はずっと言ってたんだ。タマラは現在の執法院の最高執法官だ。だけど、ジャザラはカビールとの婚姻が成立すれば、その最高執法官の座に就くことになってる。タマラからすれば、あまり歓迎できることじゃないってな」


「だが、それでホロヴィッツ・ジャザラ様を亡き者にしようというところまで追いつめられるとも思えん。現に、さきほどの聴取でレグネタ・タマラ様はそういう状況を受け入れていると仰っていただろう」


 レイスの反論をナーディラは鼻で笑う。


「そんなの、口ではいくらでも言えるだろ。内心では思い入れのある今の地位を脅かされて怒りが渦巻いてたかもしれないだろ」


 じっと考えを巡らせていたライラが口を開く。


「だが、そうなると、タマラ様はどうにかしてジャザラ様の命を奪おうとするのではないか? ジャザラ様に盛られた毒量が少なかったという問題は、生死にこだわらないという犯人の意図の表れだったはず」



~・~・~

ライラの指摘はもっともだな。


もしタマラが最高執法官の座を守るためにジャザラを排除しようとしたなら、確実に殺そうとするはずだ。


だけど、ジャザラは死んでいない。つまり、タマラが犯人だとしても、狙いは「殺害」ではなく「妨害」だった可能性が高い。


ナーディラ、もしタマラがジャザラを毒で弱らせることで婚姻を延期させようとしていたとしたら?


ジャザラが回復するまでに時間を稼げば、何かしらの方法で婚姻の流れを変えられるかもしれない。


タマラにとっては、それだけで十分な目的になり得るんじゃないか?

~・~・~



「婚姻の儀を延期……そんなんでタマラが利益を得られるのか?」


 ナーディラが投げかけると、ライラもレイスも顔を見合わせるだけだ。


「確か、タマラさんはカビールさんが大公になる前準備としてパスティア法に改訂部分がないかの確認作業をしてたはず。こういうことがあり得るのかは分からないけど、改訂前のパスティア法がタマラさんにとって都合が良く、その恩恵を先延ばしにする理湯があった……とか?」


 ナーディラが嬉しそうに手を叩く。


「それだ、リョウ!」


 しかし、レイスの表情は微妙だ。


「パスティア法は膨大な分量だ。だから、執法院の連中は大勢で改訂有無の確認と改訂草稿に取り掛かっている。どの条文の何がレグネタ・タマラ様にとっての恩恵なのか調べないことには先に進めない」


「だけど、可能性としてはあり得るってことだよな」


 楽観的なナーディラだが、その動機となる条文を見つけ出さなければラナ犯人説を打ち出しているザドクには勝てないだろう。



~・~・~

それなら、執法院で改訂作業に関わってる人間から話を聞くか、実際に改訂前の条文と改訂後の草稿を照らし合わせてみるのが手っ取り早いな。


タマラが利益を得る可能性がある条文が何なのかが分かれば、動機の裏付けが取れる。


逆に、そういう条文が見つからなかったら、この説は崩れる。


レイス、執法院に問い合わせて、改訂作業の進行状況や、特に変更が議論されている条文について情報を得られるか確認できるか?

~・~・~



「まあ、打診はしてみよう」


 レイスがうなずく。ナーディラも議論が進むのが嬉しいのか、晴れやかな表情をしている。


「とにかく、ジャザラの事件にタマラの子供の死は関係ないってことだな」


「そもそも、タマラ様の子供の死はジャザラ様の事件の前日。対して、死鉄鉱の盗難は事件の二日前。時系列からして整合性が取れないのは火を見るより明らかだ」


 ライラがしれっと言うと、ナーディラは鼻の頭に皺を寄せた。


「だったら、さっき言えよ!」


 また喧嘩を始めそうになるナーディラとライラを尻目にレイスは冷静に言葉を発する。


「だが、現状では、改訂前のパスティア法の恩恵を受けるという点だけが動機の可能性としてあるだけだ。やはり、動機の面だけでなく、別の面からもレグネタ・タマラ様犯人説を補強していかなければならない。毒の入手という点からは、どのように迫れるだろうか?」


 レイスが俺を見る。どうやら、サイモンに訊いているようだ。

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