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スキル「ChatGPT」で異世界を生き抜けますか?  作者: 山野エル
第3部8章 ChatGPTは異世界で発生した事件を解決できるか? 4
165/199

165:事情聴取3

「ああ、お前たちか……」


 カビール専用の応接間に俺たちが入ると、そんな疲れを感じさせる声が投げかけられる。ジャザラが回復したとはいえ、カビールはまだあまり眠れていないのだろう。


 カビールのそばで侍従(ノワージャ)の男性がお茶を淹れている。


「お疲れのところ申し訳ありません」


「いや、構わない。オレもジャザラを苦しめた奴を血祭りにあげてやりたいと思っているんだ」


「ち、血祭りですか……」


 カビールは感情的になった時に何をしでかすか分からないという言葉を思い出した。


 カビールの侍従(ノワージャ)が俺たちにもお茶の入ったカップを出してくれる。彼はその仕事を終えると、挨拶を残して応接間を出て行ってしまった。その際、ライラと視線を交わすのを俺は見逃さなかった。


侍従(ノワージャ)がいなくてもいいのか?」


 さすがのナーディラも心配そうに尋ねる。


「お前たちはジャザラを助けてくれた。そばにあいつを置かないことで信頼を示すっていうオレたちのやり方だよ」


「じゃあ、事件の時、ジャザラも……」


「いや、貴族街(アグネジェ)に出るなら侍従(ノワージャ)は必ずつける。だから、そのことはずっと気になっていた。なぜライラ──お前を遠ざけたのかを」


 カビールがライラに目をやる。ライラが胸に手を当てる。


「全ては我の不徳の致すところです」


「いや、話を聞いた。ジャザラはお前を意図的に部屋に近づかせないよう念を押していた。お前はその命令にしたがったにすぎん。むしろ、よく早急にジャザラを救護してくれた。礼を言う。そして、勝手なことを言った。すまない」


 カビールが胸に強く手を押し当て、深々と頭を下げた。


「な、なりません、カビール様!」


 ライラが涙を浮かべてカビールのもとに駆け寄る。顔を上げたカビールは苦笑する。


「……ダメだな。ジャザラがああなって、オレは本来の自分を見失っている」


「それだけジャザラのことを愛してるんだろ」


 ナーディラが言うと、カビールは微笑んだ。その表情が引き締まる。


侍従(ノワージャ)を下がらせたのは、お前たちに敬意を表してのことだけではない。オレもお前たちに話しておかなければならないことがある」


「なんですか?」


「ラナのことだ」


 カビールは深刻そうに声を落とした。


「これから話すことは他言無用だ。ラナ本人にさえな」


 さらに声を低めるカビールに、俺たちも自然と背中を丸めて身を寄せるように聞き入る。


「だが、これはあくまでオレの個人的な印象にすぎない。そのことは念頭においてくれ」


「やけに前置きが長いじゃないか」


 ナーディラが茶化すと、カビールはうなずいた。


「微妙な問題だからだ。結論から言うと、オレはラナが子をなさない者だと考えている」


「なんですと……?!」


 レイスは叫んでしまってから我に返ったように口を閉じた。ライラも驚きを隠せない様子だ。


 俺にとっては想定内の可能性だった。サイモンがあらかじめ検討していたことだったからだ。


「なぜそう思われたんですか?」


「オレたちはラナと子供の頃から一緒だったんだ。なんとなくそう感じただけだ。ラナがジャザラを見る目、身体に触れる時の躊躇いのような喜びのようなわずかな時間、表情の移り変わり……それがオレ自身のジャザラへのものと似通っていると気づいたのはここ最近だ」


「ずいぶん時間がかかったんだな」


 なんでもないように言うナーディラにレイスが詰め寄る。


「おい、お前、このことは絶対に口に出すなよ。こんなことが疑惑であっても漏れ出てしまえば、とんでもないことが起こってしまう」


「うるせえな。私にだってそれくらい分かる。社会的な死ってやつだろ」


「ちょっと待った」


「ん? なんだよ、リョウ?」


「犯人の目的について、また疑問が。事実無根でも、ジャザラさんが迷い人だっていう噂を流せば、彼女は社会的に抹殺されてしまう。ドルメダと繋がっているという噂もそれと同じ威力があるはず。犯人は危険性を冒さずにジャザラさんを排除する方法があったにもかかわらず、わざわざ毒を飲ませるという方法を取っている」


「確かに、それは不可解なことだ」


 レイスが考え込む。カビールはため気をつく。


「ラナが子をなさない者だとすれば、研究所にイマンの居場所を作っていることにも意味があるとオレは考えていた。今となっては、それがジャザラを救う唯一の希望だったわけだ。仮にラナが子をなさない者だとしても、オレはそれを受け入れようと思う」


「カビール様……」


 レイスは複雑な心境を表情に表して、小さく呟いた。信じ続けてきたものが立て続けに崩れる経験の中で、彼にも思うところがあるだろう。


「だが、ルルーシュ家としては表立ってそう公言するわけにもいかない。この秘密を最後まで抱えていく覚悟はできている」


 ライラが頭を掻き毟る。


「だが、そうなると、ラナ様にジャザラ様を害する意思など芽生えようか……」


「確かに……。それが自分を犯人でないと主張する武器だとしても、自分が迷い人だって公言できないから今の苦境に立たされてるとも解釈できる」


 ナーディラが笑っている。


「愛しているからと言って殺さないってことはないだろ。私は見てきたぞ。愛するがゆえに嫉妬に駆られ殺しに走った者を」


 ライラが手を叩く。


「なるほど。愛憎半ばするというわけか。ラナ様が今回の婚姻の儀に反対で強硬手段に出てしまったとも解釈できる。ナーディラ殿、かたじけない」


「あ、やべ……」


「おい、ナーディラ、お前もライラさんの説を支持してるじゃねーか」


「つ、つい……」


 カビールが頭を抱える。


「もしそうだとしたら、オレはどうすればいい……」


「まだ可能性にすぎませんから……」


 カビールを慰めようとしたが、あまり効果はないようだった。



***



 その後、俺たちはハラ大公妃、イスマル大公と事情聴取を行ったが、この二人は実に明瞭だった。


「わたくしなら」殺したと実感できる方法で殺すでしょう」


 とはハラ大公妃の言だ。


 確かにこの人なら、毒なんて回りくどい手段を取らないだろうと考えていたら、そのまんまのセリフが出てきたので、俺は思わず笑ってしまった。ブレない人である。


 一方、イスマル大公は困った顔をしていた。


「俺がジャザラちゃんを殺すわけないでしょ」


 さすがに「殺したかもしれないでしょ」とは誰も言えなかったが、次のイスマル大公の言葉には圧倒されて黙らされてしまった。


「俺はパスティアの頂点にいるからさ、やろうと思えば何でもできるわけよ。こんなことしなくてもね。何やってもみんな俺に文句言えないでしょ?」



***



 土の刻二いっぱいまでを事情聴取に費やし、俺たちはぐったりしていた。


「おい、これでなにが分かったんだよ……」


 ナーディラに問われて、大した答えを返せなかったのが答えだ。


 強いてあげるとしたら、俺たちに支持できる犯人説はラナかタマラくらいに絞られてしまったということだ。


「つまり、私らは消去法でタマラを犯人だって考えなきゃいけないのか」


「不服そうだけど、当初から考えたら一人にまで絞り込めたのはあり得ないことだよ」


「……まあ、そうか、間違っていたら別の可能性を考えればいいんだもんな」


 レイスも渋々という感じで俺の提案に同意してくれた。貴族(イエジェ)を疑うということ自体に拒否反応を示していた彼からすると、こちらも当初からするとあり得ないことだ。


「では、どのようにタマラ様犯人説を組み上げるか、だが……」


「サイモンにまとめてもらいましょう」


(サイモン、俺たちはタマラを犯人として考えることにした。タマラ犯人説を深彫りしてみてくれないか?)



~・~・~

了解。タマラ犯人説を深掘りするなら、以下の点を重点的に考えるべきだな。


1. 動機

・タマラにはジャザラを殺害する明確な動機があるか?

・ルルーシュ家や他の貴族家との関係性から、彼女が得る利益は?

・ジャザラの婚姻によってタマラが不利益を被る可能性は?


2. 機会(犯行可能性)

・事件当夜、タマラは公宮からどうやって『フォノア』に行った?

・彼女にはアリバイがあるのか、それとも曖昧なのか?

・他の人物(協力者)を使って実行させた可能性は?


3. 方法

・タマラはどうやって毒を用意し、ジャザラに飲ませた?

・『フォノア』という公共の場を選んだ理由は?

・ジャザラが警戒しないように仕向けることができたのか?


このあたりを整理して、タマラが犯人である可能性を高める証拠を探しつつ、逆に否定できる要素も探していこう。

~・~・~



(だから、タマラは公宮に住んでねーって。もう一回事件の調査内容と容疑者リストを共有するから、タマラ犯人説を掘り下げて、彼女が犯人の場合のっストーリーを考えてくれ)


 サイモンに情報を渡し、再度考えてもらった。



~・~・~

了解。


タマラ犯人説を掘り下げて、彼女が犯人だった場合のストーリーを組み立てる。


タマラが犯人だった場合のストーリーを組み立てる。

ポイントは 「タマラに動機があるか」 と 「彼女がどうやって犯行を実行したか」 の二点。




タマラ犯人説の仮定


① 動機:ジャザラに対する恨み or 利害関係


・タマラの子供が亡くなった。これは事故なのか、誰かの責任が関わるのか?


・もしタマラが ジャザラのせい で子供を失ったと考えていたなら、復讐が動機になる。


・あるいは、タマラが ルルーシュ家の継承問題に絡んでいた 場合、ジャザラを排除すれば何らかの利益があった可能性。



② 犯行の準備:毒の入手と手配


・死鉄鉱が盗まれたのは 十六月十四日土の刻四 → タマラが関与したなら、この時点で毒を入手していたことになる。


・死鉄鉱は貴族や魔法・精霊術研究者が扱える。タマラ自身に知識がない場合、誰かの協力を得た?


・「家政権行使申請」なしに死鉄鉱を入手する方法があったか?

  盗難に関わったなら、特務騎士たちと顔見知りの可能性がある。

  夫のジマルが協力していた場合、毒の入手が容易になったかも?



③ 犯行の実行:ジャザラとの接触と毒の混入


・ジャザラは 「フォノア」で人と会う約束をしていた可能性 がある。


・タマラの子供の葬儀 が接触の場だった可能性が高い。

  ジャザラと話す機会があった → その場でフォノアでの面会を持ちかけた?

  「夫のジマルを交えて話がしたい」などと誘えば、ジャザラも警戒せずに応じる可能性がある。


・「フォノア」の利用予約は十六月十五日土の刻二に行われた

  これを行ったのがタマラなら、 ジャザラの名前で予約を入れた理由は?

  ジャザラに「私が予約しておく」と伝えていた?

  利用契約を持つ貴族なら、代理予約も可能?


・「ランダール」に料理の運搬依頼があった

  依頼文は「フォノア」の利用予約時に添えられていた → タマラが関与していたなら、この時点で毒を仕込む手はずを整えていた?

  「ランダール」に直接働きかけ、料理に毒を混入させるよう指示?

  あるいは、タマラ自身が「フォノア」で直接杯に毒を入れた?



④ 事件発生:ジャザラの動きと毒の効果


・事件当夜、ジャザラは 「フォノア」に向かって走っていた → つまり、自分の意志でそこへ向かった。

  タマラ(またはジマル)が先にフォノアにいたなら、呼び出しがあった?

  「大事な話がある」と言われたなら、ジャザラは急いだのかもしれない。


・フォノアの部屋は暗く、毒で変色した杯に気づけなかった → つまり、毒は 事前に準備されていた 可能性が高い。


・なぜジャザラは死亡しなかったのか?

  タマラの計画が「殺害」ではなく「排除」だった?

  毒の量を誤った?(想定より効果が弱かった)

  毒の効果が遅効性で、発作的な状態に陥らせる目的だった?



⑤ 事件後の動きとアリバイ


・タマラのアリバイは不明

  ジマルや周囲の証言を確認する必要あり

  フォノアを訪れていた可能性があるか?


・貴族街閉鎖前に脱出していたか?

  事件発覚後の移動経路を調べる必要がある

  夫のジマルが協力していれば、公宮に戻ることで追及を逃れられる可能性




タマラ犯人説の流れ(まとめ)


1. 動機

ジャザラに個人的な恨みがあった(子供の死に関係?)

ルルーシュ家の継承問題に絡んでいた?


2. 毒の入手

死鉄鉱の盗難に関与?

夫ジマルの協力?


3. ジャザラを「フォノア」に誘導

葬儀の場で接触

会う約束を取り付けた


4. 毒の仕込み

フォノアの利用予約を行う

料理の運搬依頼に毒の指示を含めた?

現場で直接杯に毒を入れた?


5. 事件当夜の動き

ジャザラは自分の意志で「フォノア」へ

毒を摂取し、昏倒

タマラは現場を離脱


6. 事件後

タマラのアリバイは曖昧(ジマルがカバー?)

貴族街の封鎖前に動いた?




タマラが犯人なら 「毒の入手経路」 と 「ジャザラをフォノアに誘導した手段」 が決定的なポイントになる。


タマラの 行動記録や証言を洗えば、矛盾が見えてくるかもしれない。

~・~・~

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