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スキル「ChatGPT」で異世界を生き抜けますか?  作者: 山野エル
第3部8章 ChatGPTは異世界で発生した事件を解決できるか? 4
161/199

161:天布逆転魔法に関するロジック

「公宮に入れるなんて、人生何があるか分かったもんじゃねえな……」


 ザミールが俺たちの集まる客間をキョロキョロと見回す。


「本来、公宮は貴族(イエジェ)もしくは公宮での活動を余儀なくされる騎士や侍従(ノワージャ)といった者たちに限られる。おかしな真似はするな」


 レイスが念を押すと、ザミールは「うへえ」と口を歪めて、抱えたノートをテーブルの上に広げる。


「まあ、オレも色々と忙しいから、用件は手短に済ますよ」


 ザミールはページを繰って先を続ける。


「『フォノア』周辺で誰かが潜んでるかもしれないって件だが、考えにくいかもしれない」


 ナーディラは感心したように顔をほころばせた。


「仕事が早いな!」


「店の方がどうにもならないから、うちの連中を総動員したんだ。で、調査によれば、婚姻の儀が近いってんで騎士連中が公宮周辺に当たる区域の建物を無作為に立ち入り調査していたらしい」


 レイスが目を細める。


「そんな話は聞いていないぞ」


「カスティエルって奴の部隊がその任務に就いてたみたいだな」


「……あいつらか」


「なんでも、フォノア十六巡目の婚姻の儀だっていうんで、警戒を強めていたようだ」


 ナーディラは口をへの字にする。


「だけど、事件は起こったな」


 レイスが露骨に嫌な顔をするので、ナーディラの隣に座っていた俺はそっと彼女を諫めるのだった。


「対象区域の住居は毎日必ず、店舗は無作為に点検が入っていたことが分かってる。その結果、不審な人物や物品が見つかったって報告は上がっていないな」


 これではっきりした。


「犯人が『フォノア』に向かった経路がより一層重要になりますね」


「ラナ様の可能性がより濃厚になったとも言える」


 ライラが発する。悔しいがその通りだ。


「なんか面白そうなことしてるね」


 急に入口の方から声がした。


 にやけ面で立っていたのは、イスマル大公だった。


「イ、イスマル大公?! なぜここに!?」


 議論に参加していた全員が一斉にに立ち上がる。イスマル大公は俺たちに落ち着くように手振りを示した。


「もういいって、おじさんにそこまで過剰に反応することないでしょ。ちょっと暇だったから散歩してたら君たちの声が聞こえてさぁ」


 突然の闖入者に俺たちは事の経緯を説明した……というか、説明せざるを得なかった。巷では、こういうノリで勝手に会議に参加してくる迷惑な社長もいると聞くが、イスマル大公もその手のフランクを気取ったワンマン社長の可能性がある。


 しかし、事件の調査についてひと通りの話を聞いたイスマル大公はポロッと一言漏らしたのだ。


「ウチの禁書庫に家政権行使申請書がしまってあるけど、見る?」


「な、なりません、イスマル大公!! そんなものを公開してしまっては、これまでの貴族(イエジェ)間の暗黙の了解が──!」


 ライラが椅子を倒してまで異議を唱えるが、イスマル大公は全く動じなかった。


「君たちが内緒にすれば済むことだよね」


「え、そ、そんな問題なんですか……」


 俺が追う言うと、イスマル大公は腕組みをした。


「いやぁ、俺もね、実は腹が立ってるんだよ。息子が長く関係を築いてきたジャザラちゃんが狙われたわけだからね。本当は禁書庫のものは触れちゃいけないものだけどさ、よその国から来た君たちみたいなのがここまでやってくれるなら、パスティアとしては頑固な姿勢でいるわけにはいかないじゃん」


 そういう論理だったのか。俺たちが知らないうちにイスマル大公を動かしたというわけか。


「それに、ラナちゃんが捕まってるわけだから、俺個人としてもなんとかしてやりたいって思うんだよね」


 ライラがわなわなと震え出す。


「お待ちください、イスマル大公。そのような感情で──」


「俺が考えてるのは、天布逆転魔法のことなんだよ、ライラちゃん」


 真剣な目で見つめ返されて、ライラはたじろいでしまう。


「て、天布逆転魔法……?」


「俺なら、そして息子なら、天布逆転魔法が完成した暁にはジャザラちゃんが毒を盛られたという過去を書き換えるよう命じるはず。だが、事件は起こった。つまり、フォノアがどれだけ天布を巡ろうとも、天布逆転魔法は完成しなかったってことなんだよ」


 よく考えれば単純なことだった。ダイナ執法官を説得する時にはここまで考えられなかった……。やはり、イスマル大公は只者じゃない。


「そ、それが事件と何の関係が……」


「遥か先、フォノアが何百巡もした頃に天布逆転魔法は完成していて、今回の事件が些末なことだから書き換えなかったってことも考えられるけど、少なくとも、ラナちゃんはその完成を見ずに死んでしまったわけだよ」


「ラナ様が犯人なら、天布逆転魔法が完成しても過去を書き換えないのでは?」


「いや、結果的に助かるとしてもジャザラちゃんが苦しむようなことは俺や息子が許さんよ。それに、ラナちゃんは自分が疑われ、捕まるって過去も書き換えていないことになる。つまり、ラナちゃんは天布逆転魔法を完成させられなかった」


 イスマル大公は深く息をついた。


「ラナちゃんは犯人ではないと、俺は考える」


 存在すら不確かな天布逆転魔法を軸にラナ犯人説を否定してみせるイスマル大公に、俺たちは圧倒されてしまった。


 もしかしたら、その論理に穴があるのかもしれない。だけど、俺にはイスマル大公の考えをサイモンに確かめさせる気になれなかった。


 イスマル大公はゆったりと立ち上がった。


「だから、俺は俺で自分の仮説を確かめたくなっちゃったんだよね」


 飄々と言ってみせるその姿は威厳を感じさせないフランクさがあるのに、何か近寄りがたい凄みを滲み出していた。



***



 イスマル大公が禁書庫に案内すると言うので、俺たちはその後に続いて公宮内を進んだ。


「なあ、イスマルのおっさん」


 ナーディラが前を行くイスマル大公に声をかける。


「なんという不敬なことを……!」


 目くじらを立てるレイスだったが、イスマル大公は愉快そうに笑った。


「なんだい、ナーディラちゃん、おじさんが答えられることなら答えるよ」


「公宮から貴族街(アグネジェ)に出られる隠し通路みたいなものはないのか?」


「公宮から密かに出られる通路は、貴族街(アグネジェ)の外にしか繋がってないね。その通路使う時は貴族街(アグネジェ)がやばい時だけだからねえ。……ああ、そうか、ナーディラちゃんは俺たちを疑ってるのか」


 レイスが眉尻を下げる。


「イスマル大公、申し訳ございません。この女は終始このような様子で……」


「表面上は取り繕ってるけど、裏で色々考えてる人とは付き合いが多いから、ナーディラちゃんみたいなのは歓迎だよ」


 ナーディラはご満悦そうだ。


「私も公宮で働こうかな」


「お前には無理だろ」


 ナーディラがニコニコして俺を見る。


「なんだよリョウ、嫉妬してるのか? 安心しろって」


 イスマル大公が笑う。


「いいねえ、若者はそうでないとな」


 ダラダラと喋りながら、イスマル大公は公宮の地下に向かう階段をグングン降りていく。


「禁書庫はパスティアさんの硬い岩盤の中に作られてるんだよ。それだけやばいもんが詰まってるってわけだ。言っておくけど、禁書庫のものは一切持ち出せないからね」


「じゃあ、禁書庫に入れたものはそのままなんですか」


「そうなるるね。そろそろ拡張しないとって話も持ち上がってるよ」


 どうでもいいが、このおじさん、こんなことをペラペラと喋って大丈夫なのだろうか? 割と国のトップシークレットに近づいている気がするのだが。


 等間隔に灯る明かりが地中深くに続いていく。心なしか息詰まる感じがする。


 やがて、俺たちは階段の下に辿り着く。


 広い空間の先に装飾の施された石造りの壁が立ちふさがっている。その真ん中には扉がある。


 イスマル大公がローブの中から大きな鍵を取り出す。それを仰々しい意匠の鍵穴に差し込んだ。


「こいつは大昔の方舟時代の技術を基に作られた施錠機構らしい。俺も詳しくは知らんが」


 ガコン、とどこかで重い音がして、石でできた扉がスルスルと床に吸い込まれていく。


 方舟時代の技術……。仮に方舟が恒星系間を航行する宇宙船だとしたら、その技術は現在の地球よりも遥かに発達したもののはず。それなのに、ここには石ばかりだ。


(サイモン、俺たちは今、パスティアの公宮地下にある禁書庫に来てる。イスマル大公が家政権行使申請書を開示してくれることになったんだ。


 禁書庫の外壁は見たところ石で作られてて、その施錠機能は、イスマル大公曰く、方舟時代の技術を基に作られてるらしい。


 方舟が恒星間移民船だとしたら、今の地球よりも高度な技術のはずだよな。でも、全部石でできてるように見える。電気で動いている感じもないんだ)



~・~・~

それ、めちゃくちゃ興味深いな。


もし「方舟時代の技術」ってのが恒星間移民船由来なら、地球の現代技術よりも圧倒的に進んでるはず。でも、見た目は石造りで、電気の気配もない……ってことは、以下の可能性が考えられる。


1. 超高性能な魔法技術

→ 魔法が科学技術の代替になってる。例えば、魔力を流せば解錠される仕組みとか。


2. ナノマテリアルや分子レベルの技術

→ 石に見えるけど、本当は超高密度の特殊素材で、見た目とは別の機能を持ってる。


3. 自己維持型の機械(超省エネ技術)

→ 外見が石造りなだけで、内部に超高効率な機構があって、数千年単位で動き続ける。


4. 「方舟技術」=高度な技術の遺物を魔法で運用している

→ もともとは機械だったけど、この世界の人々が魔法と組み合わせて運用してる可能性。


もし触ったときに温度が変化したり、特定の動作で反応するなら、どんな仕組みかもう少し探れるかもしれないな。

~・~・~



(イスマル大公が持ってる鍵で扉が開いたんだ。


 確かにお前の言う通り、魔法技術を組み合わせてるのかもしれないけど、地球に遭った方舟が魔法技術で作られたとしたら、こっちの世界から地球に人がやって来たみたいな歴史もあり得そうだな……)



~・~・~

それ、めちゃくちゃ面白い視点だな。


もし方舟自体が魔法技術で動いていたなら、地球にはもともと魔法文明があったか、あるいはこっちの世界から魔法技術を持った人たちが渡って行った可能性がある。


普通に考えたら、地球→この世界への移動(異世界転移とか転生)が主流っぽいけど、逆方向の流れもあったかもしれないってことか。


方舟が「恒星間移民船」だったなら、地球の人類が宇宙進出した後に、この世界を発見して移住した可能性もあるけど、魔法技術が絡んでるなら、それとは別の「魔法文明が異世界間を行き来してた」みたいな歴史がありそうだな。


もしこの禁書庫に、方舟に関する記録が残ってたら、どっちの可能性が強いのか探れるかもしれないな。

~・~・~



「さあ、禁書庫へようこそ」


 石の扉が完全に床に収まるのを待って、イスマル大公がにこやかにそう言った。

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