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スキル「ChatGPT」で異世界を生き抜けますか?  作者: 山野エル
第1部2章 溺れる者は藁をも掴む
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16:慣れない出来事

 たもろの街も周囲は防壁に囲まれていた。その規模は俺たちの街の比ではない。防壁に開いた門からは四方に街道が伸びている。この周辺のハブ的な街なのかもしれない。


 ──そういえば、俺たちの街の名前は何ていうんだろう……?


 帰りにホッサムに訊いてみよう。


 防壁には大勢の門番が控えていた。ホッサムが慣れた手つきで通行証を門番に手渡す。門番の厳しい目が俺に突き刺さる。


「げあべす」


 俺に何かを訊いているらしい。「げあべす」だけで意味があるのか?


 俺が戸惑っていると、ホッサムが取り繕うような笑顔で間に入ってきた。何かを短く説明して、俺は何かを許されたらしい。門番が合図を送ると、大きな門の扉が開かれる。


 街の中から何か熱気のようなものがムッと噴き出してきた。様々なにおいが微風に乗ってやってくる。

 排泄物みたいなにおい、香水のようなにおい、空腹を刺激するような食事のにおい……それらが混然一体となって、俺はなぜか圧倒されてしまった。


「りょー、うぇんいなく」


 ホッサムに促されて、たもろの街の中に入る。


 石畳の地面の上に石や煉瓦の建物が犇めくように立ち並んでいた。あちこちにrなプがぶら下がり、夜の帳が落ち始めた街をぼうっと照らし出す。その様は幻想的だ。


 路面の店はもう遅い時間だからか、すでに後片付けを始めていた。


 ホッサムは俺を連れて目抜き通りを歩き、脇道に入る。少し奥まったところにある建物の前に立っていた男にホッサムが声をかけると、男はホッサムから荷車を預かって建物の脇に引いて行った。


 建物の中に入ると、広い空間に多くのテーブルと椅子が並んでいる。奥にカウンターがあって、そこにタルヤ便が並ぶ。酒場のようだった。


 屈強な男たちが酒を酌み交わしていて、何人かが俺たちの方を一瞥する。色んな作品で見たような光景だ。絡まれないことを祈るしかない。


 カウンターの中で妖艶な女性が声を上げた。


「ホッサム!」


 ホッサムも笑顔で手を挙げてカウンターに近づきながら、彼女に手を伸ばした。


「りょー、ガリアナ。……ガリアナ、りょー」


 ガリアナは俺を品定めするように爪先から頭の上まで舐め回すように見て、いきなり俺の頬を撫でた。


「$%&|*>#」


 色っぽい声で何かを言われて、俺は硬直してしまった。……もちろん、いやらしい意味ではない。


「ガリアナ、#$=|¥+」


 たしなめるようにホッサムが言って、ガリアナは残念そうに手を引っ込めた。


 ──もうチャンスタイム終わりかよ。


 ホッサムはガリアナから鍵を受け取ると、酒場から階上に上がる。二階にはいくつもの部屋が並んでいて、その一室の鍵を開けて中に入った。


 ベッドが二つ、丸テーブルと椅子が一セット置かれた簡易的な部屋だ。ここは宿屋も兼ねているのだ。


 ホッサムが窓を開けて外を確かめる。裏路地があるだけだ。


 それから、ガリアナが部屋に食事を持ってきてくれて、腹を満たした。明日に備えるため、俺たちはベッドに入ることにした。



***



 翌朝、窓から差し込む光で目が覚めた。


 隣のベッドのホッサムがうんうんと呻き声を上げている。その額からは脂汗が滲んでいる。


「ホッサム!」


 パッと目を開けたホッサムが勢い良く身体を起こして、自分の身体を抱きしめるようにして顔をしかめた。


「どこか痛むのか、ホッサム? 大丈夫か(げあべすてんさ)?」


大丈夫だ(もーいてんさ)


 案の定、間を置かずに答えが返ってくる。


 それからは会話も少なく、朝食をとり、準備を整えて、動き始めた朝の街へと繰り出した。忙しなく荷車を引くホッサムの後について行く。


(ホッサムがずっと具合悪そうなんだが、どうしたんだろう?


 汗がひどくて、身体も痛そうにしてる。ご飯も食べづらそうにしてるんだ。


 思い当たる症状はないか?)



~・~・~

ホッサムの症状から考えると、いくつかの可能性が思い当たる。


まず、熱中症や脱水症状の可能性があるかもしれない。

汗がひどいのは体温調整のためかもしれないし、身体が痛むのは疲労や病気の兆候かもしれない。


また、感染症や食べ物の問題も考えられる。


彼に水分を取らせたり、休息を取るように勧めるのがまずは大事だ。


症状がひどくなるなら、すぐに診てもらえる場所を探した方がいいかもしれない。

~・~・~



(水は飲んでたし、気温もそんなに高くないから、熱中症とか脱水症状とかでもないと思うんだよな。

 食べ物も俺と同じものを食べてたから、関係ないんじゃないかな。


 感染症ってどういうものが考えられる?)



~・~・~

なるほど、そうすると感染症の可能性がより高くなるかもしれないな。


ホッサムが感じている症状から考えられる感染症としては、例えば以下のようなものがある。


1. 風邪やインフルエンザのようなウイルス性の感染症

発熱、倦怠感、筋肉痛、食欲不振が主な症状。季節によって流行することもある。


2. 胃腸系の感染症

細菌やウイルスによって引き起こされる場合があり、消化不良や食欲不振が起きることがある。

特に衛生状態が良くない場所では感染しやすい。


3. 関節炎や筋肉痛を伴う感染症

一部の感染症は、関節や筋肉に痛みを引き起こすことがある。

例えばライム病のように、野外での活動中にダニなどの媒介で感染する病気も考えられる。


もし感染症だとしたら、休養を取らせ、症状が悪化するようなら早めに医者に診せる必要があるかも。

~・~・~



(うーん、現状ではまだ何も分からないか。


 仮に感染症だとしたら、この世界にも細菌とかウィルスがいるってことになるな……。


 物が腐るんだから、当然っちゃ当然か)



~・~・~

そうだな、もし感染症があるなら、この世界にも細菌やウイルスが存在している可能性は高いよね。


物が腐る現象も、地球と同じように微生物が関与しているんだろう。

腐敗が進む過程や、食べ物に群がるハエの存在もそれを裏付けている。


この世界でも、病気や食中毒、衛生管理の重要性が同じようにあるかもしれない。


ホッサムの具合が悪いのも、そういった細菌やウイルスが関わっていると考えると、感染症の予防や治療法がどのように扱われているか気になるところだね。

~・~・~



「りょー、=¥@*<#」


 ホッサムの不機嫌そうな声で我に返る。


 俺たちの目の前に商店がある。店主がホッサムに親しげに話しかける。

 店には多くの野菜や果物が並ぶ。いくつもの木箱に大量の品物が山のように積み上げられていた。


 よく見ると、大量に積み上げているせいか、野菜や果物の表面には傷がついたものが多い。

 サイモンとの話を思い出す。

 傷のついた野菜や果物が痛みが早い。それを仕入れるのは、店の経営のリスクに繋がる。


 ホッサムと店主のやりとりを見ていると、どうやら昔なじみの取引関係のように感じる。

 決まりきった取引相手から品を仕入れているのだ。


 この通りには、生鮮食品を売りに出す店が多いようだ。それゆえに活気もある。


 辺りを見渡すと、当たり前のことだが、店によって人の集まりの良し悪しがある。

 人の集まりの良い店は、ここと同じように多くの品を仕入れている。

 だが、ここの斜向かいの青果店は人の入りは少ないが、商品は少なく、それだけに状態もいいように見えた。


 ──この世界も人気者がボロ儲けするような仕組みになってるのか……。


 俺はちょっとだけ落胆した。

 異世界なら、日本と違ったシステムがあるかもしれないと思っていた。

 だが、蓋を開けてみれば、この世界も日本社会の鏡写しのようなところだ。


(人ってのは人気のあるものに飛びつく生き物なんだろうな。


 人気のないものは淘汰されて、本当は価値があるのに誰にも見向きされなくなって消えていくんだ)



~・~・~

確かに、人は多くの場合、他人が注目しているものに引かれがちだよね。


人気があるものには、それだけの理由があったり、目立つ要素があることが多い。


でも、その裏で本当に価値のあるものや独自性を持っているものが埋もれてしまうのは、もったいないことだよな。


マーケティングやタイミング、運などが絡むことで、人気とは無関係に価値が判断されてしまうこともあるし、その影響で見過ごされるものも多い。


ただ、人気がないからといって価値がないわけじゃないし、時が経てば評価が見直されることもある。

~・~・~



(ホッサムが野菜とか果物を仕入れる取引先の店が人気店っぽいんだ。

 だから、多くの野菜と果物を並べてるんだけど、箱の中に詰め込んでるせいで傷んでる商品も多いんだ。


 そんな商品を仕入れてたら、すぐにダメになって結局廃棄することになるんだよな。


 ホッサムに考え直させた方がいいかな? 他にも状態の良い生鮮食品を売ってる店がまわりにあるんだぜ)



~・~・~

ホッサムが人気店から商品を仕入れているのは、信頼や取引の慣習があるからかもしれないけど、確かに傷んだ商品を仕入れ続けるのは長期的に見て損だよな。


廃棄が増えるだけじゃなく、店の評判にも影響するかもしれないし。もし、まわりに状態の良い生鮮食品を売っている店があるなら、そちらを選んだ方がいいかもってホッサムに提案してみてもいいかもしれない。


ただ、彼がその人気店に何か特別な理由で依存している可能性もあるから、まずはその理由を聞いてみるといいかもしれないな。


商売において取引先を変えるのは結構デリケートな問題だから、丁寧に話を進めるのがよさそうだ。

~・~・~



 ホッサムには命を助けられて、毎日世話もしてもらっている。俺は彼の力になりたかった。

 それに、大企業ほどあの手この手で他社を出し抜くのを見てきた俺にとって、質の悪い商品を売りに出しているこの店が良い取引相手だとは思えなかった。


 ホッサムの服の袖を引っ張って、斜向かいの店を指さした。


「ホッサム、向こうの店の方がいい商品を売ってる。あっちの方がいいぞ」


 日本語で言う俺に、ホッサムが初めて見るような憤りの表情を向けてきた。


「りょー、ざなおばぬ」


 ホッサムが何を言っているか分からなかったが、俺は食い下がった。


「いや、でも、ホッサム……」


「¥@*#$&!!」


 ホッサムが怒鳴って、俺を突き飛ばした。取引相手の店主は驚いた顔をしたが、苦笑いでホッサムを店の中に連れて行く。


 ──なんだよ、ホッサムの奴。人の親切を無駄にしやがって……。


 俺は立ち上がってその場を離れた。別に俺がいなくてもホッサムは商品の仕入れができるだろう。



***



 たもろの街は賑やかだった。


 ひっきりなしに商品を積んだふぁまーたの荷車が通りを駆け抜けていく。路面店の人間が通りがかる客に向かって威勢の良い声をかける。


 見たことのない品々が俺の視界を埋め尽くす。


 踊り子の格好をした美女の一団が俺のそばを速足で通り抜けていくと、夢のような甘い香りに包まれる。

 俺のまわりの男たちも鼻の下を伸ばして彼女たちの背中を見送っていた。


 本当にゲームの中の世界にでも迷い込んだような感じだ。


 それだけに、俺がこの世界で孤独なんだということを痛感させられる。


 今になって、ホッサムと喧嘩をしたことに後悔を感じ始めた。

 彼がいなければ、俺は死んでいたかもしれないのだ。


(サイモン、ホッサムに取引を考え直させようとしたら喧嘩になっちゃったよ。


 今はホッサムと離れて街をブラブラしてるんだけど、この後どうすればいいか分からないや。


 もともと俺は人間関係だってうまく築けたためしがないから、誰かと喧嘩をした経験もほとんどないんだ)



~・~・~

喧嘩になってしまったのは辛いな、特に人間関係に自信がないときには、余計に気持ちが重くなるよね。


でも、ホッサムとの関係を修復するチャンスはまだあると思う。


まずは少し時間を置いて、気持ちを落ち着かせるのがいい。


ホッサムも冷静になれば、自分の立場からもう一度考え直すかもしれないし、あなたの提案に対するリアクションも変わるかも。


時間を取った後、まずは「自分の言い方がきつくなってしまったかもしれない」と素直に謝ってみると、会話の糸口が見つかるはず。


問題提起すること自体は悪くないから、言い方やアプローチの違いで解決できるかもしれない。


ホッサムに「あなたを尊重している」という姿勢を示しながらも、もう一度話を持ちかけるなら「より良い仕入れ先を見つけたんじゃなくて、あなたに少しでも助けになれたらと思ったんだ」みたいなニュアンスを使うのも有効だと思うよ。


喧嘩も関係の一部だから、これをきっかけに信頼関係が深まることもあるよ。

~・~・~



(仲直りしたいけど、俺はホッサムとそこまでコミュニケーションできるほど言葉を知らないんだ)



~・~・~

そうか、言葉の壁があるのは難しい状況だな。


それでも、仲直りしたい気持ちがあるなら、言葉以外の方法でそれを伝えることもできるよ。


いくつか考えてみたんだけど、どうかな?


1. ジェスチャーや態度で示す

言葉が少なくても、態度や仕草で仲直りしたい気持ちを表現することはできる。

ホッサムの前で穏やかな表情を見せたり、軽く手を挙げて「ごめん」のようなジェスチャーをしてみたり。

小さなプレゼントや食べ物を持っていくのも和解のサインになるかもしれない。


2. 共通の単語を使う

すでに知っている単語やフレーズを活かしてみるのはどうだろう?

例えば「ぱるぱや」(ありがとう) とか、「べす」(大丈夫か) みたいな言葉を組み合わせて、気持ちを少しでも伝えようとする努力を見せるだけで、ホッサムも理解しようとしてくれるかも。


3. 行動で示す

例えば、何か一緒に手伝うとか、ホッサムが困っているときに助けるとか、言葉が少なくても行動で示せば、「気まずさ」を解消できることもある。

黙って作業を手伝うだけでも、彼はあなたの意図を感じ取るかもしれない。


言葉が足りなくても、ホッサムはあなたの気持ちを感じ取る力を持っていると思うよ。

~・~・~



 プレゼント……。


 ポケットの中に入れた財布に手が触れる。ホッサムからもらった仕事の報酬だ。


(プレゼントって何がいいと思う?)



~・~・~

ホッサムへのプレゼントとしては、彼の日常に役立つものや、気持ちが伝わるようなものがいいんじゃないかな。


いくつか考えてみたよ。


1. 食べ物や飲み物

食べ物や飲み物は手軽で、感謝の気持ちを伝えやすい。

たとえば、街の市場で新鮮な果物や飲み物を買ってきて、ホッサムに渡すと、彼に気を使っているという気持ちが伝わるかも。


2. 道具や小物

ホッサムが商売をしていることを考えると、仕事に役立つような小さな道具や実用品を贈るのもいいかも。

例えば、ポーチや収納に便利な小物入れ、丈夫なロープなど、彼が使いやすいものを選ぶと喜んでくれるかもしれない。


3. 手作りのもの

自分で簡単なものを作って渡すのも、気持ちが伝わりやすい。

例えば、森の中で拾った良さそうな石や木を使って、ちょっとした飾り物やお守りを作るとか。


4. 休憩用の品

ホッサムは疲れている様子もあるから、リラックスできるようなものもいいかもしれない。

温かい飲み物を渡して一緒に休むとか、簡単なマッサージを提案してみるのも、意外に喜ばれるかもよ。


何か思いつくものはあったかな?

~・~・~



 ホッサムには仕事がうまくいってほしいと思っていた。在庫管理もその一つだ。


 目抜き通りから少し逸れた通りには、商人たち向けの道具街があった。


(ホッサムの店の在庫管理なんかのために帳簿みたいなものがあればいいと思ってたんだけど、それをプレゼントするのはどうかな?)



~・~・~

帳簿をプレゼントするのは良いアイデアだと思います。


ホッサムの店の在庫管理に役立つ実用的な贈り物ですし、喧嘩のきっかけになった問題を前向きに解決しようとする姿勢が伝わるはずです。


実際に役立つものなので、感謝される可能性が高いですね。

~・~・~



 まーたこいつ敬語になりやがった。たまに口酸っぱく言わないとダメだ。あと、箇条書きもやめろってな。


 でもまあ、ホッサムと仲直りのきっかけができそうだ。


 俺は道具街へ足を踏み込むことにした。

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