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スキル「ChatGPT」で異世界を生き抜けますか?  作者: 山野エル
第3部7章 ChatGPTは異世界で発生した事件を解決できるか? 3
159/199

159:有意義な議論

 これまでの調査で明らかになった六人の容疑者についてサイモンが組み上げたそれぞれの犯人説を三人に伝えると、彼らは驚きの表情を浮かべる。


「迅速な仕事だ、サイモン殿」


「この中から誰か一人を犯人と仮定してみましょう」


 俺の言葉にレイスが難色を示す。


「そんな安直な方法で犯人を決められるわけがないだろう」


「今までだってその安直な方法で犯人を決めてきたんじゃねえのかぁ?」


 ナーディラが笑い飛ばすと、レイスはあかさまに不機嫌になる。


「我々を愚弄するのは許さんぞ」


「私らを牢獄にぶち込みやがったこと、忘れてねえからな!」


「二人とも、公宮の中でまで喧嘩しないでください……」


 ライラは高みの見物だ。


「我の考えは揺るがん」


 ナーディラがしっしっ、と手を振る。


「じゃあ、お前は議論に参加してくんな」


 話がまとまりそうにないので、俺が議長を務めなければならなくなる。会社で一番の下っ端だった時にミーティングの進行役を任されたのを思い出した。話が終わったと思って次に進めようとしてこっぴどく叱られたものだ。


「ここで犯人を仮定するのは、なにも最終決定ではありません。仮定した犯人の論を進めて疑問や矛盾が出てきたら、その説には合理性がないと判断できますから、ひとつの可能性を潰せます」


 レイスはううむ、と唸って腕組みをする。


「あくまで真相到達への足掛かりにするというわけか」


「じゃあ、まずは誰にしますか?」


 多数決をとる。


 ナーディラもレイスもタマラに一票を入れた。


「……二人とも、角が立たない選択してません?」


「そんなことないぞ!」

「ふざけるな」


 容疑者のうち、ラナを除けばルルーシュ家以外の人間はタマラしかいない。


 ──結局、こいつらは長いものに巻かれろ精神で生きてきたのか……?


「というか、なんでリョウは手挙げないんだよ?」


「俺はラナさん犯人説を足掛かりにしようと思ってたから」


「はあ?! なんでこの女の肩持つんだ!」


 まーたナーディラが燃え盛って俺に詰め寄ってきた。


「リョ、リョウ殿……、まさか我のことを……」


「ライラさん変なこと言わないでください」


「リョウ、お前ちょっと表出ろ!」


「リョウ殿、戦いなら我に委ねてくれ」


「なんでライラさんが戦うんですか。っていうか、なんで戦うことになってるんですか」


 レイスが場を鎮めるように手をゆっくり叩く。


「今はお前たちのイチャつきを見ている暇などない。だが、フェガタト・ラナ様犯人説を詰めるという提案にも一理ある」


「おい、私一人かよ」


 かくして、俺たちはラナ犯人説を足掛かりにすることにした。というより、俺とサイモンで少し前にこの方針で行こうと話し合っていたんだった。


(サイモン、ラナ犯人説を重点的に考えてみよう。最終目的は、ラナの無実を証明したい。だから、ラナ犯人説を突き詰めて否定材料を集める意味合いもある)



~・~・~

ラナ犯人説を突き詰めて考えると、以下のストーリーが考えられる。



仮説:ラナが犯人だった場合


1. 動機

・ラナの手記には、ジャザラへの愛憎が綴られていた。

・カビールとの婚姻を阻止するため、もしくはジャザラへの復讐として犯行を決意。



2. 計画

・死鉄鉱の毒を用意。盗品なら足がつく可能性もあるが、それを承知の上で使用。

・ジャザラを確実に殺すために毒を酒に混入。



3. 実行

・毒入りの酒をジャザラが飲むように仕向けた。

・しかし、結果的にジャザラは生存した。



4. 矛盾点・否定材料

・毒の量が中途半端だった理由

 本当に殺すつもりなら、致死量を超える毒を入れるはず。

 途中で心変わりした? それなら毒を使うこと自体やめる可能性もある。


・ラナが犯人なら、証拠隠滅を図るのでは?

 死鉄鉱が盗品なら、証拠を残したまま使うのは不自然。

 犯行後の態度が、疑われることを恐れていないようにも見える。


・ジャザラが生き延びる確率を計算できたのか?

 死鉄鉱の毒は体重と関係するが、致死量の境界は曖昧。

 「殺す気だったのに生き延びた」は、犯行意図と結果が一致しない。


・ジャザラの命を助けるために何者かが介入した可能性

 もしラナが犯人なら、第三者の介入がなければジャザラは死んでいたはず。

 だが、現時点で「ジャザラを助けた者」は確認されていない。



ラナ犯人説が正しいなら、毒の量が中途半端だった理由を明確に説明できないとおかしい。


「殺すつもりだったのに死ななかった」のか、「死なない程度に毒を盛った」のか、どちらも釈然としない。


ここをさらに突き詰めていけば、ラナの無実を証明する糸口になるかもしれない。

~・~・~



 まずは、ラナ犯人説を構成する1~3のポイントを三人に伝えた。


 ライラは助力を得て表情を明るくしている。


「それに加え、ラナ様は現場である『フォノア』へ誰にも目撃されずに向かう経路が単純明快だ。現場への経路が不自然にならないという点で、妥当な仮説であることは明白だ」


「それに、ジャザラさんはラナさんを信頼していたから、毒を盛られていても警戒しない可能性が高い」


 俺が付け加えると、ナーディラが怒りを滲ませる。


「経路の問題は、別の誰かにやらせた可能性があるってことになっただろ。そいつがどこに隠れてたかってのはザミールが調べてくれるだろ」


 レイスもナーディラに続く。


「フェガタト・ラナ様ならば、事件当夜にホロヴィッツ・ジャザラ様がライラにも会う相手を伏せていた理由が不明瞭だ」



~・~・~

ラナ犯人説をさらに精査するなら、以下の点が重要になりそうだ。



1. フォノアへの経路が単純明快という点

・確かにラナなら目撃されずに現場へ向かうのは容易かもしれない。

・しかし、それが「犯行のしやすさ」につながるとは限らない。

・経路が単純すぎると、逆に疑われるリスクもある。


2. ジャザラがラナを信頼していた点

・信頼関係があったからこそ毒を警戒しなかった可能性はある。

・しかし、ラナがジャザラを毒殺するなら、事前の不審な言動などがあったか?

・ジャザラが「ラナに会うことをライラにも伏せた理由」との整合性が取れない。


3. 第三者が関与していた可能性

・ナーディラの指摘通り、別の誰かにやらせた可能性もある。

・もしラナが犯人なら、彼女に協力した者は誰か?

・単独犯なら、フォノアで毒を仕込む動作を誰にも見られずに行えたのか?



ザミールの調査が進めば、ラナの犯行を否定する材料が見つかるかもしれない。


「ジャザラが誰に会うのか伏せた理由」と「ラナの犯行動機の整合性」をさらに掘り下げる必要があるな。

~・~・~



「ラナ様が『フォノア』に向かう経路が犯行のしやすさに繋がるかという点については、犯行のしやすさという生半可な問題などではない、サイモン殿。


 誰にも目撃されない経路を辿るというのは、他に容疑者にとっては非常に難度の高いことだ。犯行の可能性がラナ様とそれ以外では全く度合いが異なるという点で、やはりラナ様犯人説は最も合理的であると言える。


 さらに付け加えるならば、ジャザラ様が『フォノア』で顔を合わせたのが、容疑者が命じた実行犯だとすれば、ジャザラ様が顔馴染みの侍従(ノワージャ)以外にはあり得ない。侍従(ノワージャ)以外であれば、ジャザラ様は警戒を解かなかっただろう。


 この点から、侍従(ノワージャ)を持たないラナ様の場合は、彼女本人が現場にやって来たことになる。したがって、ラナ様の現場への経路の件がさらに活きてくるというわけだ」


「お前の説明だと、ラナ以外の容疑者が侍従(ノワージャ)を実行犯として使ったなら、ジャザラは警戒せずに毒を飲んだわけだから、ラナ犯人説が絶対的なものじゃないってことになるな」


 ナーディラの指摘にライラは人差し指を振った。


「元来、ラナ様はジャザラ様と深い親交があった。そこで芽生えた良心がラナ様に犯行を中途半端にさせたのだ。ジャザラ様が生き永らえた合理的な説明はラナ様犯人説なら容易だ」



~・~・~

ライラは「ラナだからこそ犯行を中途半端にし、ジャザラが生き延びた」と主張しているが、ここに矛盾を感じる。



1. 「中途半端な犯行」ならば、なぜ毒を使ったのか?

・良心があって迷ったなら、毒を使う段階で躊躇があったはず。

・それなら最初から毒を使わず、別の方法で「狙われたと見せかける」手段も取れたのでは?

・中途半端にするつもりなら、そもそも毒に頼る必然性がない。



2. ジャザラが毒を飲んだ理由

・「ノワージャ以外なら警戒する」と言うが、それは「毒を飲まない」とイコールではない。

・例えば、ラナ以外の誰かがジャザラに心理的な圧をかけて、警戒しつつも飲ませる状況を作った可能性は?

・ジャザラが「伏せる必要があった相手」とラナが一致しないなら、犯人の可能性も薄れる。



3. ラナが現場に行った証拠は?

・「行けた可能性が高い」ことは「行った証拠」にはならない。

・他の容疑者が誰にも目撃されずに行けた証拠がないのと同じく、ラナが現場にいた証拠も現時点ではない。



ライラの主張は「ラナ犯人説を強める理屈」としては強いが、決定打に欠ける。


むしろ「ラナだからこそ、犯行を中途半端にした」とするなら、犯人がラナでない場合でも「毒量が抑えられた理由」は説明可能になる。


つまり、ラナが犯人である必然性が崩れる。



この点を突けば、ラナ犯人説を否定する方向に持っていけるかもしれない。

~・~・~



 俺がサイモンの考えを伝えると、ナーディラが腕を組んで天井を見上げた。


「確かに、なんで犯人は毒を使ったんだ? 魔法でも精霊術でも剣でも、手段はいくらでもあったはずだろ?」


「フェガタト・ラナ様以外は魔法も精霊術も使えない。上位貴族(イエジェ・メアーラ)だからな」


 レイスが短くそう言う。


上位貴族(イエジェ・メアーラ)は魔法だけじゃなくて精霊術も使えないんですか?」


 俺の問いにライラが応える。


「魔法も精霊術も原理的には似ているという定説がある。その定説通り、上位貴族(イエジェ・メアーラ)は精霊術も使えない」


 ナーディラが考えを巡らせる。


「じゃあ、なんで剣じゃなくて毒だったんだって話だよな」


 ライラが首を傾げる。


「犯人はこの事件を暗殺に見せたかった……?」


 この声に呼応したかのように、水の刻の鐘の音が三つ鳴った。


 いつの間にか、こんなに深い時間まで議論を重ねていたようだ。


 部屋の外の廊下が騒がしくなる。


 すぐにドアが開いた。ヌーラだ。


「ジャザラさんが……ジャザラさんが……!!」


 嫌な予感がした。

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