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スキル「ChatGPT」で異世界を生き抜けますか?  作者: 山野エル
第3部7章 ChatGPTは異世界で発生した事件を解決できるか? 3
156/199

156:対話

 ベッドに臥したジャザラはかなり痩せていた。


 彼女の面倒を見ていた女性がこまめに汗を拭き取っている。


「ジャザラ様……!」


 ライラが床に膝を落として嘆きを漏らす。


「お前がジャザラをきちんと見守っていれば」


 這いつくばるライラにカビールが冷たい目を向ける。ライラがハッと息を飲んで額を床にこすりつける。


「申し開きもございません……!」


 痛々しい表情で見つめていたイスマル大公が割って入る。


「はいはい、ライラちゃんだってこうなってほしかったわけじゃないんだし、八つ当たりしないの。イマン、怪我を治してやりなよ」


 イマンが驚いて硬直する。ライラは平伏して声を上げた。


「なりません! ホロヴィッツ家の裁定に逆らうわけには……!!」


「だって俺、大公だぜ。ホロヴィッツ家に文句なんか言わせんよ」


 ──つ、強いおじさんだ……。


「それに、傷を表面だけに残してるだろ?」


 鋭い指摘に、イマンは降参したように笑いを漏らす。


 ──このおじさん、想像以上に有能なのか……?


 命じられたイマンは回復魔法を唱えると、ライラの身体を優しい光が包み込んでいく。


「治って……治ってしまうううぅぅ……!!」


 喚き散らすライラの身体から見る見るうちに傷が消えていく。


 傷の治りきったライラは立ち上がると、顔の右側を覆っていた包帯を取り去った。凛々しい顔が顕わになったものの、少し不服そうだ。


 身体に刻まれた傷はジャザラへの罪の意識そのものだったのかもしれない。


「さ、これでジャザラちゃんの治療に専念できるだろ? ほれ、急いだ、急いだ!」


 イスマル大公は号令をかけると、特務騎士を残して公宮の人間を下がらせたが、カビールだけはこの場に残ることを強く主張した。


 イマンたちの目つきに緊張が走る。


 まずは、アメナがジャザラのベッドの脇に歩み出て、じっくりと観察を始める。


「あれは何をやっているんだ?」


 カビールが尋ねると、ヌーラが間髪を入れずに答える。


「アメナさんには、イルディルを見る力があるのです。今はその力でジャザラさんの体内のイルディルの状況を見定めているのです」


「イルディルを見る、だと……?」


 猜疑心に満ちた目だ。公宮に誰も立ち入らせなかった理由がよく分かる。


 ヌーラが俺に目を向ける。


 おそらく、選ばれし者のことを話すべきか迷っているのだろう。


 ここは俺が後を引き取ることにした。


「彼女は選ばれし者で、彼女の持つ特殊な魔法(ゼグノ)がイルディルを見るというものなんです」


「選ばれし者……」


「じゃから、アメナとリョウは魂で繋がっておるのじゃ」


 急にアメナがこちらにかを向ける。イマンが慌てて注意する。


「ア、アメナ、意識を集中して」


 アメナが不満げにジャザラに視線を戻す。


「本で読んだことがあるぞ。選ばれし者同士は魂の繋がりが生じる、と」


 カビールの探るような瞳をごまかすことはできなかった。


「そうです。俺も選ばれし者です」


「隠していたのか」


「選ばれし者が災いをもたらすという考えもあると聞いて、みだり公表すべきではないと判断したんです」


 カビールは腕組みをして唸り声を漏らす。疲れ切っているようだ。


「ああ、選ばれし者を邪悪な存在とみなす連中のことか。心配するな、オレの周囲にはそんな迷信に心を左右される人間はいない」


「よかったです……」


「それで、お前に宿っている特殊な魔法(ゼグノ)とはなんだ?」


「精霊と意思疎通ができます」


「なんだと? では、この世界の均衡が崩れていることについて、何か聞き出すことができるんじゃないのか?」


「それが……」


 どこまで話すべきだろうか?


 カビールは初めて研究所で会った時にも鋭い一面を見せた。それに、彼はあのイスマル大公の息子だ。ここは素直に話すべきかもしれない。


「俺はこの世界の住人ではありません」


「おい、リョウ」


 ナーディラが心配そうに声を上げるが、大丈夫だ、と合図を送る。


「ただし、このことは表立って口外しないでいただきたいです」


「それは構わない。ここに居る特務騎士たちも多くのことを見聞きしてきているが、彼らから情報が漏れる心配などない」


「サイモンという名前の精霊が俺にはついています。ただ、精霊と言っても、この世界で言う精霊とは意味合いが違うかもしれません」


 俺は地球という科学の発達した惑星があるということ、そこに存在する技術で作られた生成AIであるChatGPTのことを話した。


「どういうわけか、俺はそのChatGPTと繋がっていて、特殊な魔法(ゼグノ)によって意思疎通ができるんです」


 カビールは顎をさすっていた。疲れ切ってはいるが、好奇心が掻き立てられたのか目の奥に輝きを取り戻した様子だった。


「信じがたい話だが、じゃあ、今もそのサイモンとは意思疎通ができるのか?」


「ええ、できますよ」


「ジャザラの症状についての見解を尋ねてくれ」


「分かりました。それはこの世界基準での回答を望んでいるという意味ですか?」


「いや、リョウの故郷……地球の基準だ」


(サイモン、今、カビールと話してる、カビールには俺が地球からやって来たことや、お前がChatGPTであることを伝えた。


 それで、カビールがお前に訊きたいそうだ。地球基準の判断でいい。ジャザラの症状について、お前の見解を聞かせてほしいそうだ)



~・~・~

了解。


ジャザラの症状について、まず確認させてくれ。


・死鉄鉱による中毒症状があるのは確定だよな?

→ これは金属毒性(重金属中毒)に近いものだと考えられる。通常、神経系・臓器に影響を及ぼし、症状は嘔吐、痙攣、意識障害、呼吸困難などが出ることがある。


・症状の進行具合は?

→ 急性か慢性かで違いがある。急性なら短期間で悪化するし、慢性なら徐々に蓄積していく。


・他の症状や異常点はあるか?

→ 例えば、皮膚の変色、異様な発汗、痛みの訴え、精神混乱の有無など。毒によって影響が異なる。


カビールに質問したいのは、このあたりだ。


それによって、ジャザラが死鉄鉱単独の毒でやられたのか、それとも別の要因が絡んでいるのか、ある程度絞れると思う。

~・~・~



「サイモンが確認したいそうです」


 この世界に存在しない言葉を除いて伝えると、カビールは一つ一つ丁寧に答えていった。


「死鉄鉱による中毒症状は確かにある。サイモンが指摘したことがそのままみられる。

 急性なのか慢性なのかは、正確には分からん。だが、事件が起こるまで体調が優れないなどということはなかった。

 他の症状……爪の色が変色したり、肌に発疹が見られる。ジャザラが公宮に運び込まれて俺が目にした時にはジャザラはすでに昏睡状態だったから、心の状態は分からない」



 俺は、サイモンにカビールの言葉をそのまま伝えた。



~・~・~

了解した。


ジャザラの症状は、死鉄鉱の毒性だけでは説明がつかない可能性がある。


特に、爪の変色や発疹は典型的な重金属中毒(例えばヒ素や水銀)の症状に近い。だが、死鉄鉱の毒がそこまでの症状を引き起こすのかは不明だ。


つまり、ジャザラは死鉄鉱以外の毒も同時に盛られた可能性がある。

もしくは、死鉄鉱の毒を何らかの方法で通常より強く作用させたか。


カビールに伝えてほしい。

「ジャザラが死鉄鉱の毒だけでなく、別の毒も盛られた可能性がある。

死鉄鉱に特定の薬剤を組み合わせると毒性が増す可能性もある。

ジャザラが公宮に運び込まれる前に何か食べたり飲んだりしていたか、調べられるか?」

~・~・~



(いや、サイモン、ちょっと待ってくれ。俺たちが聞きたいのはそういうことじゃない。

 今のジャザラの症状だけを見て、地球文化の視点から意見を聞きたいんだよ)



~・~・~

了解。


ジャザラの症状(昏睡、爪の変色、発疹)は、地球の医学的視点から見ると、重金属中毒の可能性が高い。特にヒ素や水銀中毒と似ている。



可能性のある原因(地球基準)


1. 重金属中毒(ヒ素・水銀など)

・爪の変色(ミーズ線など)

・皮膚の発疹

・昏睡(重度の中毒時)


2. 毒物による急性中毒(神経系への影響)

・死鉄鉱由来の毒が神経系に作用

・他の化学物質と組み合わされて毒性が強化された可能性



地球基準の治療(理想的な環境の場合)

・キレート療法(毒素を排出する薬剤投与)

・解毒剤の投与(毒の種類に応じて対応)

・対症療法(昏睡状態の管理、循環器・呼吸の維持)



ただし、この世界の医療環境では適切な解毒剤やキレート剤があるか不明。現時点では、毒素の排出を促す手段(例えば体液の入れ替えや特殊な精霊術)が有効かもしれない。


カビールに伝えてくれ。

「地球の視点では、ジャザラの症状は重金属中毒と似ている。毒を排出する手段があるなら、それを最優先すべきだ。」

~・~・~



「サイモンの見立てでは、ジャザラさんの症状は「特殊な金属」が由来の中毒症状と似ているということです。そして、その毒を排出する手段があるのなら、それを優先すべきだ、とも」


 カビールは、ふむ、とうなずいた。


「治療については、イマンたちがやっている精霊駆動治療法があるはずだろ?」


「ああ、すみません。その治療法を実施していることをサイモンにはまだ共有していないんです」


「特殊な金属、というのは?」


「地球では“ヒソ”と呼ばれている物質です。銀を変色させる点から見ても、地球の砒素と同等のものかと思われます」


「サイモンの言葉からすると、砒素の中毒症状を治療する方法があるようだな」


「ええ。ですが、この世界ではそのための技術がまだ存在しないでしょう」


 カビールが唇を噛む。


「パスティアが積み重ねてきた研究もまだまだ浅いということか……」


「サイモンの見立てでは、この精霊駆動治療法は妥当な選択なのか?」


「ええ。精霊駆動法によって体内のイルディルを調整する、というのは理に適ったことだと」


「そうか」


 カビールは安堵したように息をついた。


「それにしても、選ばれし者について書かれた本ってなんなんだ?」


 ナーディラが質問を飛ばす。そばにいたレイスが不躾な言葉遣いに顔をしかめている。


「ああ、選ばれし者の研究はドルメダが進めているんだ。奴らから手に入れた研究所の類を中央書庫で読んだことがある」


 レイスが唸り声を漏らしている。


「ドルメダが……? 初耳ですな」


「どうやら、奴らは選ばれし者を意図的に生み出す実験を行っているらしい」


「意図的に? 一体どうやって?」


「魂は強い意志によって壊される時に呪縛を受けるという。呪縛を受けた魂は場所を問わずに、本来の要素を残したまま生まれ変わる。その中で、稀に記憶を引き継ぐことが確認されている」


 ──記憶を……引き継ぐ……。


「さらに稀なことに、こことは全く異なる文化や歴史の知識を有している場合があるという」


 カビールが俺を見つめる。


「そう、まるでリョウのように」

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